7.向き合う~その2~
ほどなくして、ダイニングテーブルの上にはたくさんの料理が並べられた。エビフライ・メンチカツ・ハンバーグ・中華サラダ・炒飯…。
料理は、小さい頃、よく灯が好んで食べたものだ。
並べられた料理を見て、灯が驚く。
「もう、テーブルにのせられないよ?」
「分かっているんだけどね?作りすぎだって!でも、灯にどうしてもたべてほしかったんだもの。灯、好きだったでしょ?」
「全部、好きだったし、今も好きで作るよ?
でも、なかなかお母さんの味は出せなくて……。
何かが違うみたいなんだ。」
「じゃあ、食べようか?」
家族揃って、手を合わせる。
「「「いただきます!!!」」」
みんなで、食べる食事はいつ以来なんだろう?
一人で食べる食事の何倍も美味しいな…と灯が味わっていると、護が話す。
「俺、家族揃ってご飯を食べるっていうのが、夢だったんだ。お姉ちゃんが帰ってこないから、いつでも家は一人欠けていたから…。
夢が叶って嬉しい。」
護の言葉に優しさが溢れ出す。
護はこんなに優しい弟で、よかったとしみじみ感じる灯。
「灯が知らない所で、護はいい男になっただろ?」
息子自慢を始める修平。
「修平、お前が偉そうにするものじゃないよ?護が、こんなにいい男になったのは、私たちじゃなく灯のおかげだよ?」
「えっっ???」
「お姉ちゃんに会ったときに、いい男になって友達に弟自慢ができるようにって、いつも護はそういって努力してたよ?どれだけ護にとっては灯が大きな存在だったのか?」
「おばあちゃん!!
言わないでくれよ。」
護が、ムッとした顔をして口を尖らす。
「内緒だったか…
まぁ、この話はここでおしまいにしよう」
琴が話を終わらせると、灯はおかずを小皿にとり全ての料理に箸をつける。
「懐かしい味がする。」
一言ポツリと呟く。
灯の言葉を聞いていた 筈なのに、誰も返事はせず静かに時間が過ぎていった。
食事が終わると、護が言い出す。
「お姉ちゃん!あれ作ってよ?」
「うん??」
「チョコパフェだよ。食べたくてさ~。
材料はもう用意してあるんだよ。お願い!」
手を合わせて、頼み込まれると、嫌ともいえない。
・・・いや、嫌というつもりはないが。
かわいい弟の頼みなら、いつも聞いてしまう灯なのだが…。
「今日はね、俺一人じゃなくて、みんなの分も作ってほしいんだ。
台所の配置も、お姉ちゃんが出ていってからも変わってないし、動けると思うし。」
灯は、椅子から立ち上がると満面の笑みを、護に向ける。
「もちろん、お手伝い付きよね?」
「もちろん!」
護がニヤッとする。交渉成立だ。
護と二人で台所に向かい、準備をしながら作り始める。
「同じ材料なのに、どうして味が違うんだろうね?俺が作っても、美味しいとは思わなくて。
何年も、何年もお姉ちゃんの作るパフェが食べたくて。」
「初めての、私の得意料理がパフェだったもんね。
へたくそでも、護は美味しい、美味しいって食べてくれて。
そのうちに、うまく作れるようになったんだよ。…護のおかげかな?」
「この前、あのお店で久しぶりに食べたパフェ!美味しかった。
味は、全然変わってなかったよ。
あれを食べて、やっぱり俺の姉ちゃんはここに居るんだなって実感した。」
そんな会話をしながら、パフェができていく。
そして、みんなの前に灯特製のパフェが並ぶ。
「灯の料理…初めて食べたわ。
護には、作っても絶対私には食べさせてくれなかったものね…灯。」
灯は、何も言えない。
そう、あの時は恥ずかしくて誰にも食べさせられなかった。
護だけは、失敗しても美味しい美味しいって言ってくれたから、安心して作ってあげられた。
望美に“美味しくない”って言われたらどうしようってそればかり気になって。
「でも、灯、美味しいわ。
この味は、護だけが食べれてたのね?ずるいわね。
…この味だったのね?護が探していた味は。
外でいくら美味しいパフェを食べさせても、護が納得しないわけよね。」
デザートのパフェも食べ終わると、望美が言い出す。
「灯の部屋、そのままだから。
行ってみたら?」
そう、促されて自分の部屋…2回の右側の部屋…に行ってみることにした。
階段を上がり、ドアノブを回すと8畳の部屋がある。
シングルベッドと、小さめの本棚。本棚には、オカルト系の本がずらっと並べられていた。
「懐かしいな…ここには私の小学生までの記憶がある…」
小さな声で呟いてみる。そこへ、琴の気配が…。
「ここに入るのは、私も久しぶり。
灯に“あの本”を渡したのは、この部屋だったわね?
あんなに小さい体で、悩んでいた灯。胸が痛かった。でも、今は灯がとても大きく成長したわ。
体だけじゃなく、心がね。
だから、灯はここに戻って来ることができた。あなたの周りにいる精霊が応援してくれているわ。
何よりも、応援しているのはあなたが解決に導いたトーヤ。
でも、祐も、伶も、歩生も、彩加も、琴音もみんな応援してるし、灯が幸せになってほしい、灯が元気にほかの女性と同じように過ごして欲しいと願っている。
あなたの救った精霊たちは、灯に恩返しがしたいのかしらね?」
琴の顔をじっと見つめる灯。
言葉はなくとも、灯の思いはきちんと琴に伝わっている。
「もう、寂しいと感じることもなくなるわよ。
もうそろそろ、私の役目も終わるのかしら?」
ふっと、寂しそうな表情をする琴。
「ううん。おばあちゃんの役目は終わらない。
これからもずっとね。」
「あなたの家族が、あなたときちんとお話をしたがってるわ。
向き合うことも大切よ」
言い残して部屋を後にする琴。
「…向き合う、か…」
しばらく、部屋の片隅で悩む灯の姿があった。