5.糸口
今日は、灯と凪は大学内のベンチで楽しくおしゃべりをして、過ごしていた。
ベンチが置いてあるのは、緑が繁る木立のところだ。暑さの中にも時折風が吹き、一時的に夏の暑さを忘れられる。
・・・と、話は突然違う方向に変えられる。
「灯は、樹生君を好きになった?」
突然凪に言われ、驚くものの答えは決まっている。
「ううん。好きになるっていう感覚が、分からないの。。。。」
「どきどきしたりさ~。
一緒に居ると、ずっとこのままま一緒にいつまでもいたいとかそういう感覚ない?」
「ないなぁ。」
「じゃぁ、蒼人さんは??」
「どうして蒼人さん?
でも、蒼人さんの場合は、なぜか家族の事とか自然に話してしまうんだよね?
自分でも、驚いている。
・・・話していて、楽しいかもね!
ほっとさせる、雰囲気持っているし!」
「そうか!友達みたいな感覚かな?」
「・・・よく分からないの。」
灯は、恋愛初心者。まだわからないことのほうが、多い。
いずれにしても、二人の男性が灯の事が好きになりこの状況に居るのが、現実。
そう思った凪は、早く灯にも『人を好きになる』愉しさを知ってもらいたいと願う。
「子供のころの寂しさが強く残ってて、まだ人の優しさがよくわからなくて。
トーヤに出会って、初めて人の優しさや愛情を教えられた感じなんだよね?」
そういうと、灯は視線のずーと先をしばらく見つめる。
そして、ポツリと話す。
「美華さんのところに、お邪魔しようかしら?」
「美華さん?」
「うん。なんとなく、美華さんのところに行ったら、何かが分かるような気がするの。」
じーっと、灯の顔を見つめる凪。
「灯が、そう思うなら会いに行ったらいいと思う。もし、1人で行くのが不安ならいつでも言ってね。
付いていくよ。」
「ありがとう。凪。」
数日後、灯は1人で美華を訪ねた。
トーヤをはじめ、子供たちに向ける愛情が知りたくて。
どうして、そんなに愛することができるのか?
灯の両親と何が違うのか?
美華に、灯の気持ちを伝えると嬉しそうな笑顔を灯に向ける。
「私は、灯ちゃんも大切な家族の一員なんだけどな?
娘のように思っていたんだけど。
でも、相談しに来てくれるってことは、少しは私の事を信用してくれてるってことだよね?」
言葉に詰まってしまう灯。
『どうして、美華に会いたいと願ったんだろう?
どうして?
・・・・・・どうして?
・・・でも、美華の優しさに触れたかった。
美華の笑顔を見たかった。』
・・・・・・・・・・・多分、灯の両親に会いたい気持ちを美華に置き換えた様に。
「灯ちゃん・・・。」
そういうと、優しく灯を抱きしめる。そして、優しく頭を撫でる。
優しく・・・優しく・・・。
灯は、子供に戻ったように愛情を、その行動から感じていた。
そして、静かに涙を流す。
強い愛情をその肌に感じて。
「泣いてもいいのよ?
自分の感情のままに話してごらんなさい。」