4.対決
灯が、アルバイトしている【ikoi】
そこに、樹生が度々、顔を見せるようになった。
お店がそれほど忙しくない時には、灯がホールに出てきて、ちょっとした雑談に付き合うこともある。
そんな日々を送っていたある日・・・。
蒼人が、【ikoi】に姿を現す。
樹生と灯が楽しそうに話す姿を見て、ぶすっとしている蒼人。
さすがに顔には、出さないが不機嫌さは態度に現れる。その表情のままコーヒーを片手に飲んでいる。
「なんだ?蒼人・・・
ずいぶん不機嫌だな?」
「当たり前だろ?
好きな女が、男と会話して、楽しそうに笑っているんだぞ!
こっちは、全然楽しくないって言うの・・。
あいつ、誰だ?」
「どうやら、灯ちゃんの同級生らしいよ?
期間限定の彼氏・・・になるのかな?」
「えぇ!!!なんだって!!」
そこで、頭を抱え込む蒼人。
「まぁ、頑張れよ?
まだ、灯ちゃんは相手の事を好きになれていないと話していたぞ?
少しだが、望みはある。
このまま諦めるか、頑張ってみるか・・・
蒼人の出方次第だな?」
面白そうに顔を歪めながら話す拓斗。
「拓斗さ~ん・・・・
いじめないで下さいよ。」
「はいはい。
・・・・・ところで、蒼人お前、お腹空かないのか?」
「少しは、空いているよ?」
すると、耳元でこそっと拓斗が話す。
「今日、灯ちゃんがいるということは・・・。
何か、食べ物を注文すれば灯ちゃんが作ってくれるということだ。」
その言葉に元気を取り戻した、蒼人。
早速メニューを取り出し、眺めている。
「灯ってさ、1人暮らしが長いから料理が得意なんだ。」
気がつくと、隣には凪が立っている。
びっくりする蒼人とは反対に、笑顔を見せる凪。
「得意料理は知らないけど、灯の家で食べさせてもらったハンバーグは絶品だった。
なんでも、作れるらしいしいけど。」
メニューをしばらく眺めていた蒼人が注文をする。
「ドリアに決めた。御願いね。」
凪に、伝えると樹生と話している灯の元に行く。
蒼人の席からも、凪の言葉が聞こえる。
「灯、持ち場に戻ってくれる?」
「凪。ありがとう。
樹生・・・ということで、じゃぁね!」
灯は、キッチンに入りオーダーのドリアを作るため、材料の準備をし、手際よく調理を始める。
それでも、凪は灯の動きを目で追い、ずっと灯の側に居る。
「どうしたの?凪??」
「うん。・・・さっきの人が気になってね。
あの人、誰??」
「あぁ。私の告白した樹生だよ。
小学生の時に、告白したのも樹生だった。」
「ふぅーん。灯は、好きなの?」
「まだ、そういう感情はないよ。
でも・・・
はぁぁ。あの時、実家に帰ろうと思わなければ、こういうことにならなかったのに・・」
ため息交じりに答えた、灯の言葉に凪がニヤリとする。
「・・・それで、実家には行けたの?」
「それがねぇ~。
敷居が高いというか・・・
まだ、いけてないんだ。」
灯の言葉に凪が、呟く。
「一緒に行こうか??!」
「凪。気持ちだけで十分だよ。ありがとう。」
すると、凪が怒りはじめる。
「灯は、いつもそういって、頼ってくれない!!」
「凪・・・。」
「でも、その前に、それ出来たみたいだから、出してくる。」
そういって、オーダーのドリアを持って行ってしまった。
・・が、数分後また灯の元に戻ってきた。
「灯の、そういう人を頼らないところ、直して欲しい。
私は、灯の友達だよ。
・・・頼ってほしいの。」
寂しそうな顔をする凪に、灯が自分の本音を漏らす。
「実は、弟には絶対に実家に帰ると話したのに。
まだ、踏ん切りがつかないんだよね?
まだ、心に迷いがあって。
・・・・・実家に帰るの、怖いのかもしれない。」
「灯・・・」
「なにか、あった時には頼るから。
凪、ありがとう。」
「待ってるから。いつでも、頼ってよ。
・・・・それから、さっきの注文、蒼人さんだったの。
灯に会いたがっていたから、行ってきて。」
凪に言われて、カウンターを見てみれば、美味しそうにドリアを頬張る蒼人の姿があった。
カウンターからそっと、蒼人に近づく。
「蒼人さん、こんにちは。ご無沙汰でした。お元気でした?」
すると、食べる手を止める蒼人。
「・・・灯ちゃん。」
驚きつつも、笑顔になる蒼人。
「もちろん元気だよ?
これ、美味しいね?灯ちゃんが作ってくれたんだろ?」
そういって、最後の一口を食べる蒼人。
「はい。そうです。よかったです。美味しいって言ってもらえて。
得意料理でないものは、あまり味に自信がなくて。」
「灯ちゃんの得意なものって何?」
何気なく質問する蒼人。
その言葉に、可愛い弟の姿を思い出しながら、笑顔で答える灯。
「弟に作っていた、パフェです。」
「灯ちゃんって、弟がいるんだね?」
そこで、気がつく灯。
家族の事については、自分から話す事がないのだが、自然に話してしまっている。
(ただし、灯には都合上灯から、話したが・・・)
「はい。この前久しぶりに会いました。」
「じゃぁ、デザートに弟さんの好きなパフェ作ってもらえる?」
「ええ。喜んで。」
その答えを聞いて、喜んだ蒼人の笑顔に灯が頬を染め照れている。
珍しい光景だ。
凪が、キッチンに入った後、蒼人の側に樹生が立つ。
「ちょっと、いいですか?
あなたは、灯が好きなんですか?
俺は、灯のクラスメイトなんですが。」
樹生に目を向けた、蒼人は穏やかな表情のまま頷く。
「もちろん、灯ちゃんは好きだよ。」
「俺、樹生って言います。
この前、灯に告白しました。まだ、付き合ってはいませんけど。
でも、必ず、灯と付き合って見せます。」
「そう。でも、それって灯ちゃん次第だよね?
俺も、負けていられないな。
挑戦状、受け取ったよ。」
「はい。分かりました。
では、失礼します。」
樹生が、店を後にする。その姿を拓斗は、見守る。
そして、蒼人の側に来て、ポツッと呟く。
「勝負は、始まったばかり・・・」
そこへ、運ばれてきたパフェ。
蒼人が、食べ始めると食べている姿をじっと見ている、灯。
「心配そうな、顔で見つめないで?
凄く美味しいから。
得意って言っただけあるよ?」
その、二人の姿を見つめる凪と拓斗。
「凪は、どっちだと思う?
樹生か、蒼人か?」
「いまは、蒼人さんのほうかな?拓斗さんは?」
「灯ちゃんは、気がついていないみたいだけど、樹生は全然だめだよ。
でも、蒼人には、ちょっと心を許しているみたいなところがあるからね?
見守っていこう!」
灯の恋は、素直にハッピーエンドになるのか?
“恋”を早く知ってほしいと願う、凪なのであった。