13.友達記念日
美華が去っていく姿を見送ってから、しばらく唖然としていた灯。
「灯ちゃん、大丈夫?僕だと嫌かな?」
蒼人に声を掛けられ、我に返る灯。
いつの間にか、蒼人の前には美華とは違うワインの入ったグラスが置かれている。
「ごめんなさい…ボーとしてしまって///。
……蒼人さんが、嫌ということはありません。」
蒼人は、その言葉にほっとした顔を見せる。
灯の瞳に目を合わせると、グラスを持つ。
「ありがとう。じゃぁ、乾杯しようか?」
「何に乾杯しますか?」
「じゃぁ、そうだな…
灯ちゃんの女性らしい姿に・・。」
頬を赤く染めた灯に、蒼人は持ったグラスをそのまま灯のグラスにカチンと当てる。
「こうして会うのは、初めてだね?」
「…は、はい…。」
改めて、蒼人の存在を意識させられ顔を真っ赤にしていく灯。
そんな灯を見て蒼人は、くすっと笑いを溢す。
その笑いに驚き灯は顔をあげる。
今日は、黒のスーツを身に纏っているがいつもよりは仕立ての良さが伺える。
それに、蒼人のさわやかさがプラスされ、ますますイケメンに見えてしまう。
そう思った時には灯の胸は激しく鼓動する。
「あれから、随分経つけどトーヤは今でもお母さんの側にいるのかい?」
「はい。今でも美華さんに近くに居ます。
この前話したように、たまには私たちの周りにも現れるのですけど…。」
「そう。改めて俺からもお礼を言うよ。
トーヤを助けてくれてありがとう。俺の親友を助けてくれてありがとう。」
蒼人が灯にお礼を言ったタイミングで料理が運ばれてきた。2人のテーブルには、魚介類を使用した前菜が並べられている。
「まずは、食べながらゆっくり話でもしようか?」
「灯ちゃんのことを色々知りたいのだけど、まだ緊張しているみたいだね。
まずは、俺のことから話そうか?」
蒼人は、砕けた言い方になっている。その話し方に親近感を持てた灯。少し肩の力が抜けてきた。
「仕事は事務用品の販売をしているんだ。販売といっても卸し問屋だよ?
事務用品って 種類も凄く豊富でさ~。大きなものから、小さいものまで 覚えるのが大変なんだ。覚えたと思ってもすぐに新商品ができるし!」
「大変そうですね?」
「まぁね、でも大変な仕事でも 楽しいことを考えてれば仕事も楽しくできるんだよ?
……いまは、トーヤの弟たちと遊ぶことが楽しいことかな?
…あいつら見てるとさ、自分の弟の様に思えてしまってさ。
俺にも甥や姪はいるんだけどさ、離れているから会えないしな…。
なんだか分からないけど、家族のように思えてしまうんだ。」
「その気持ち・・・分かる・・・。」
灯は、思わず独り言のように呟いていた。蒼人が微笑んでいる顔を見てつづきを話し出す。
「私は・・・その・・・。
美華さんに家族同然・・・いや、家族以上の感情を持っていて。
両親には話せないことも、なぜか美華さんには素直に話してしまうんです。」
「そうだね、トーヤのお母さんはなんでも話を聞いてくれる雰囲気を持っているからね?」
灯の緊張が解け、和らいだ表情になっているのを見て蒼人は灯に質問する。
「俺から、質問してもいいかな?
灯ちゃんは、小さい頃どんな子だったの?」
「……私…蒼人さんが知ってるとおり、変な力を持っているので。
とても暗い子供でした。この変な力は、親にも理解するのが難しかったみたいで。そのうち、人と話すのが嫌になり、1人の世界で暮らすようになってしまったんです。
だからお友達もいませんでした。いつも一人で。
…凪が、初めての友達なんです…。
つまらない話をしてしまってごめんなさい。」
「謝ることはないよ?
俺は、灯ちゃんのことを知ることができて嬉しいよ。
……でも、灯ちゃん小さい頃はすごく辛かったんじゃないの?
トーヤに似てるよ?そういうところ…。」
「トーヤに?!」
「うん。トーヤに。状況は違うんだけどね。同じ思いを抱いていたんじゃないかな?
ところで、俺と小さい頃は灯ちゃんたちとは正反対だよ。
いつもうるさい姉貴が2人。共働きの両親。
親が働いているから、家事は分担してやるはずなんだけど姉貴たちはズルくてさ。
いつも家事を押しつけられていたよ。
そのかいあって?食事も洗濯も…家事全般できるようになってしまったよ。
こうして、1人暮らししても不安もない。」
「じゃぁ、蒼人さんは自分で食事作ったりするんですか?」
「ああ、やるよ。でも、弁当はさすがに作る気にはならないけど。」
「あはは。私も同じですよ。
いろいろあって、中学生の時から親と離れて暮らしているんです。
祖母にはそのころから家事全般全て教えてもらいました。
高校生になった時には全て出来るようになっていましたよ。
正反対の家族の中で育っても共通点はあるんですね?」
嬉しそうな顔をして話す灯がとても可愛らしく見える。
蒼人はそんな灯を、今まで以上に好きになっていく気持ちを感じる。
「灯ちゃんは、今何に興味があるの?」
「そうですね?あえて言うなら、料理のレパトリーを増やすのが趣味といったところですね?」
話しが弾み、気がつけば最後のデザートが運ばれてきた。
そのデザートを口に運びながら、蒼人が話す。
「美味しい料理だったね?それに灯ちゃんの話も楽しくて。
久々にとてもおいしい食事を味わったよ?
それと…。灯ちゃんが良ければ、また会ってこうして食事をしたりしてくれないかな?」
蒼人の申し出に、灯が断るわけもない。
「私でよければ、喜んで。」
頬をポッと赤く染めた灯。
「そのためにも、連絡先の交換をしてくれると嬉しいのだけど。
俺も。お友達に加えてほしい。」
そういわれて、連絡先を交換した2人。
今日は、灯と蒼人が一歩進み友達となった記念すべき日となった。




