12.策略~シンプル~
1人、アパートに居る灯。
昼間、美華たち一家に会ったことを思い出していた。
はるの姿を思い出しては、ため息を付く。
“あの頃って、あんなに無邪気だっけ?
自分の気持ちを話しても大丈夫なの?受け止めてくれるの?
……みんなの笑顔が素敵だったなぁ。まぶしかったなぁ~”
そして、またため息を付く。
“私は、あの人たちの中にはいってもいいんだろうか?”
『灯…灯はあの人たちと一緒に居たほうがいいんだよ。
今まで、経験しなかったこと教わるよ?1人ぼっちじゃないんだよ?』
彩加が話しかけてくる。
『そうかな?』
『そうだよ?灯のために、これからの将来のために。
悩んでないで、行動!!』
琴音も話に加わってくる。
『何にも予定がないのはいつ?スケジュール確認して。』
『早く、会いに行った方がいいよ?
大丈夫だよ?不安にならないで。
私たちがついているから。守ってあげるから。』
彩加、琴音に背中を押され悩んでいても仕方がないんだなと思い至り、美華との約束を取り付けたのだった。
約束の日、約束通りの時間に行くと、美華一家は待ち構えていたと言わんばかりに、灯の腕を取り家の中に引っ張っていく。
「待っていたんだ。待ち遠しかったよ。
…で、いろいろ考えたんだけど、みんながおねぇちゃんを独り占めしないようにゲームしようと思って。」
そういって、斗夢が出すのは人生ゲーム!
最初は、みんなで遊ぶということに戸惑いを感じていた灯だったが、次第に楽しみを感じるようになり気がつけば、心から笑っていた灯だった。
その灯の姿を見て、ほっと胸をなでおろす美華と翔哉。
家族の温かさを知らない灯に“家族”と言うものを教えたかったのである。
ゲームも一段落すると、美華が声を掛ける。
「今度は、ママが灯ちゃんと一緒に居てもいいかしら?」
みんなの同意を得られたところで、美華が灯を台所へと誘い2人仲良く昼ご飯の支度をし始める。
ご飯ができると、みんなでその料理を食べては“美味しいね”と頷きあって食べる。
後片づけも終わった頃、翔哉が声を掛ける。
「買い物へ行こうか?」
灯は、その言葉を聞いて帰るとすると美華の手ががっちりと掴む。
「帰るのは、なし。
これからが、メイン・イベントかな?
我が家の長女は、いつもパンツスタイルなのよね?たまにはスカート姿も見てみたいのよ?
…今日は、灯ちゃんを女の子に変身させたいの。私のお願い聞いてくれる?」
と、美華に頼まれては断れない灯。
「…は、はい…。」
「じゃぁ、決まりね。
翔哉さん、灯ちゃんの気持ちが変わらないうちに出掛けるわよ?」
連れて来られたところは、いつも灯が買い物するところよりレベルが高いところ。
中に入ってみると、仕立てのいいスーツがズラリと並んでいた。
隣のコーナーには、女性用の服・その奥には男性用の服が並んでいる。
美華は灯を伴い進んでいく。斗夢・清哉・はるは、翔哉が連れて別行動を取ることになった。
「まずは、スーツでも見ようか?」
そう言って、美華は何点か出して見ている。
「やっぱり、灯ちゃんはスーツといえばパンツスーツだよね?」
スーツといtyても、いろんなデザインのものがある。少しずつデザインが違う。
「ちょっと、これ着てみて。」
そういうと、美華はその中の1点を手に取り灯に勧める。灯は素直に従い着替えてみる。
「少し違うかなぁ?……じゃぁ、次はこっち。」
と、また違うスーツを手渡される。それを2~3回やった後
「これが、いちばんいいわ。」
と納得している美華の笑顔。そして、近くに居た店員を呼ぶと
「お直しをお願いしたいの。」
と、灯抜きで2人は話しを進めていく。美華の指示通りお直しの部位には、店員がピンを刺していく。
「これでどうかしら?体に合ったでしょ?」
言われて、改めて鏡の中の自分を確認する灯。
「・・・・・・・・・・・。」
「自分の体に合わせると、もう一段階レベルが上がるのよ?」
灯に微笑みながら語りかけ、店員には
「これで、お願いね?」
と伝えている。灯は終わったんだとばかりに小さなため息を漏らす。
「じゃあ次は・・・」
そういって、美華はスタスタと隣のコーナーに歩いて行ってしまう。
行ってみると、そこはいつも灯が履いているパンツはなく、すべてスカートで女性らしい服が並んでいる。美華は、いろいろなタイプのスカートを出しては元に戻す動作を繰り返している。
その手先を見つめながら、灯はやっと言葉を口に出す。
「・・・・あ、あの~、そんなに今日持ち合わせがないので」
「なに言ってるのよ!?」
美華は、灯の言葉を止める。
「灯ちゃんから貰おうなんて思ってないわよ?お金の心配なんかしないで?
それに…これは、灯ちゃんのご両親に頼まれたことでもあるの。」
「!えっっ??」
「女の子にしてほしいと言われたのよね?」
いたずらがばれたような顔をして、美華は灯を見つめる。
“もう、何を言っても無駄のようだ”
灯は早々に抵抗するのを諦めた。
「う~ん。灯ちゃんは違うタイプの方が似合うなぁ。」
そういうと、ワンピースのコーナーに向かいいろんなタイプ・いろんな色を出しては灯にあてがい悩んでいる。
そして、あるデザインの服で目を輝かせる。
「これだわ!」
美華が選んだワンピース。
それは、フレアがあまり入っていないシンプルなデザインのもの。全体的に金と銀のラメも入っている。
色は、紺よりもパープルに近い色である。
「これにしましょ?」
試着を勧められ、着替えてみるとまた一段と美華の瞳は輝きを増す。
「やっぱりこれだわ。甘くないデザインだし、なおかつ灯ちゃんのイメージも損なわないもの。」
美華は1人納得する。着替えを済ませた灯に美華は灯の手を取る。
「じゃぁ、帰ろうか?」
店の入り口まで歩いていくと、そこには翔哉たちが待っていた。




