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11.思い

今日は、日曜日。

朝から、アルバイトが入っている。

朝から慌ただしく、家事を済ませ【ikoi】に向かった灯。

いつも通り、着替えを済ませキッチンに入っていくと、珍しく拓斗に声を掛けられる。


「今日は、特別なお客様が来るんだ。

その時だけは、こっちもお願いね?」


「はい。分かりました。」


灯が、返事を返すと満足そうな拓斗の笑顔。

その笑顔を見て『はて?どうしたんだろう?』と思う灯。

“特別なお客様って誰だろう?まずは、来てみないとわからないか?”

と切り替え注文されたものを作り始めた。




お昼近くになって『特別なお客様』は、来たようだ。

灯が、ホールに呼ばれた。


「灯ちゃん、注文とってきてくれる?3番のテーブル席…」


灯がそのテーブルに歩いていくと、美華一家の姿が。


「あれ?特別なお客様って…。」


翔哉が、笑いながら話しかける。


「うん、そうよ?私たち。拓斗さんに、前もって連絡してたから。

ここでのコーヒーは絶品だからね?たまにこうして来させてもらうんだ。

知らなかった?」


「ええ。知らなかったものだから驚きましたよ?」


「それにね、とっても灯ちゃんに会いたがっている人が我が家にはたくさんいてね。

我が家にお招きすればいいんだけど、拓斗君のコーヒーも飲みたいし。

・・・というわけで、ここに座っているみんなが会いたがっている人たちなんだけど。」


翔哉が灯にウインクをして笑っている。


「だって、灯ちゃんは家族の一員でしょ?

それに、仕事をしている灯ちゃんも見てみたかったし。

ううん、それだけじゃないわ。灯ちゃんの作るものも食べてみたかったのよ?」


「…でも、美華さんの腕には負けますけど…」


俯いて、ぼそっと呟く灯だが…。


「!えっ?!今日は、おねぇちゃんが作ってくれるの?楽しみ☆」


美華と灯の会話を聞いて、はるが喜んでいる。


「何がおいしいの?」


「デザートも頼もうよ!」


はる、斗夢、清哉の3人がメニューを覗き込んでは、賑やかに話している。

そして、注文されたものは【ikoi】のメニューのほとんどであった。




キッチンに戻った灯。キッチンの中では、さまざまな野菜が手早く切られ、たくさんの料理が出来上がっていく。それを、凪が美華たちのいるテーブルに運ぶ。

あと、残すのはデザートだけ・・・という頃、凪が灯に声を掛ける。


「すごく、喜んで食べていたわよ?

料理を運ぶたびにまるで豪華な料理が来たように楽しんでいたわよ?

……なんだか、あの人たちは灯の両親よりも近い存在ね?」


凪が笑う。


「……そうね。……私に近い存在…なのかも、知れない…」


驚いた表情をして話す灯に、凪が声を立てて笑う。


「灯。どうしたのよ?凄く、驚いた顔をしてるわよ?」


「凪に、そんな事言われるなんて思わなかった。

私の核心を突かれるなんて…。」


「私は、灯の友達だからね、灯の事は分かっているつもりよ。

さぁ、最後のデザートは灯が運んでね?

お客さんも少なくなったし、少し話してきても大丈夫よ?」


にっこりと笑い、凪は話を付け加える。


「……と、拓斗さんが…。」




美華たちのテーブルにパフェを持っていくと、みんながにこにこ顔で灯を迎える。


「おねぇちゃん、ご飯美味しかったよ。」


と、はるが言えば清哉が


「いつも、ご飯作ってるの?なんか料理とかに縁がなさそうだけど?」


と疑いの眼差しを灯に向ける。今度は斗夢が


「おいおい、あの料理は作り慣れた感じだったぞ?」


と弟をたしなめる。

はる、清哉、斗夢の感想を聞きながら固まっていた灯だったが、次第に笑顔を見せて笑いだす。


「正直な感想ね?では、最後にデザートも。」


そういって、テーブルにパフェを置いていく。みんなが、嬉しそうに食べ始めると美華が訊ねる。


「この前……灯ちゃんの弟の護くんだっけ?

護くんが大好きなものと言っていたのって、これだよね?」


「そうです。護が今でも大好きなものなんですよ?

この味が、私だって。…懐かしいって言うんですよ?」


灯が答えを聞いて、美華が呟く。


「護くんにとって、思い出の味なのね?…」


灯に向き直り、表情を和らげると美華から突然のお誘いが。


「ところで、灯ちゃん。近いうちにまた私のうちに来ないかしら?今日は、それも言いたくてこちらに来たのよ。

私が1人で灯ちゃんに会うと、子供たちが怒りだすの。独り占めしたって。ここは、平等にみんなで会ったほうがいいと思って。」


すると、翔哉が話を繋ぐ。


「あれ以来、うちの家族は灯ちゃんが家族の一員と認識したようでね?

我が家の長女になってしまったようだよ?迷惑かな?」


翔哉が苦笑いをしながら話す。


「いいえ、そんなことは・・・。

嬉しいです…。是非、また行かせてもらいます。」


「ねぇ、おねぇちゃん、いつ来るの?はる、楽しみだなぁ。」


無邪気にじゃれつくはるを見て戸惑う灯。


「灯ちゃん…大丈夫だから…。」


「う……うん…。」


やわらかい笑顔で、美華に声を掛けられ戸惑いが薄れていく灯。


「待ってるわ。」


その言葉を聞いて、美華たちの元を離れた灯だった。



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