7.向き合う~その4 素直じゃない愛~
美華に早く報告をしようと、城山家に電話を掛けた灯。
すると、思いがけずに翔哉が電話に出た。
「久しぶりだね?灯ちゃん。元気だった?
…そう、よかった。
美華から、話は聞いているよ?実家に帰れたんだね?美華も喜ぶよ。
僕たちは、灯ちゃんは家族の一員なんだよ?出来る手助けならいくらでもするから。
安心して、わがまま言ってほしい。遠慮はしないでね?
……あっっ。美華がきたから、変わるね?」
美華に変わって、同じ報告を美華にも話すと美華も、翔哉と同じ話をする。
「美華さん、お願いがあるんです。
今度、実家に帰るときに付き添ってほしいんです。
…どうですか??」
おずおずと、話すと美華が叫ぶ。
「灯ちゃん!!!!!
嬉しい~~。うん、うん。いつでも付いていくわよ。
頼ってくれた…。灯ちゃん。」
今度は、泣き出す美華。
電話の後ろでは、翔哉の呆れた声がする。
「灯ちゃん、美華が…。」
「すいません。実家に行くのに付き添ってほしいとお願いしたら、そんなことになってしまって。」
声を立てて、翔哉は笑うと灯に話す。
「ああ、そうだったの?美華は、付いていくよ。この話はOKの返事だから安心して?」
そうして、灯の実家には美華がついていくことが決定した。
10日ぶりに、佐山家の玄関先に立った灯。隣には美華がいる。約束通り、灯が実家に帰るこの日に美華は付き添いでやってきたのだ。
「ここが、灯ちゃんちの家なのね?」
「純和風の家でしょ?美華さんの家は、洋風で大きな家だけど、家はこじんまりした家なんだ。美華さんの家に、家が2件入っちゃうかも。」
「でも、私はこういう家も好きよ。落ち着くよね?」
ふたりで、笑いあい見つめ返すと、美華が灯に頷く。“行こうか?”という合図だ。
意を決して灯が、インターフォンを押す。すると、すぐ玄関が開く。
「待っていたわ。灯…。こちらは?」
望美が美華を見つめると、灯が紹介する。
「いつもお世話になっている城山 美華さんだよ、お母さん。」
「いつも、娘がお世話になっています。狭いですけど、どうぞ上がってください。」
望美に促され、リビングに入るとそこには、父、修平と弟、護がテーブルに座って待っていた。
同じように修平と護に美華を紹介する灯。すると、美華が口を開く。
「お世話になったのは、私のほうなんです。
・・・私は、灯ちゃんの特殊な能力のおかげで息子に会うことができた。
もう亡くなってしまったのだけど、たった17年しか生きられなかった息子に会わせてくれたのは、灯ちゃんなんです。
色々あって、私は息子をたった半年しか育ててあげられず、手放してしまった。
その後は、あの子の事を気にしながらも、会うこともできずに過ごしていました。
会いたいと強く思い、動き出した時にはもうあの子は、この世に居なかった…
そんなときに、灯ちゃんが来て大きくなった息子に会わせてくれたんです。私の悲しみを救ってくれたんですよ。
その時から、灯ちゃんはうちの家族にとっては特別な存在。
頼ってほしいといっても、頼ってくれなかった灯ちゃんが、今回初めて頼ってくれたんです。
ご両親には失礼にあたるかもしれないと思いつつも、こうしてお邪魔してしまいました。」
美華が、修平・望美・護の3人の顔を見つめながら伝えると、修平は固まっている。
「小さいころから、灯は特殊な能力があって。普通の子供とは違った。
どうして、この子はこんな力を持ってしまったんだろう?といつもいつも嫌で仕方なかった。
……受け入れられなかったんだ。
…なのに、全く関係のない城山さんは、灯を受け入れてくれたんですね。」
寂しそうに、みんなに放たれた言葉。
「…だからといって、自分を責めるのは違いますよ?」
「お父さん…」
「もっと、ちゃんとした親であったら良かったのに。もっと強く自分を持っていたら、灯を手放さなくてよかったのにと何度後悔したか分からない…」
「お父さん、もういいよ。
お父さんたちが悪いんじゃない。それに、私は家族と暮らすと私の力が強すぎてみんなが病気になってしまう様だったから、離れたんだよ。
それは、おばあちゃんとも何度も話し合ったじゃない?」
「…でも、父さんも母さんもお前の事が気持ち悪くなって、家の中でお前と会話することすら無くなっていただろう。」
「そうだね…でも、仕方のないことだと諦めていたから…」
「お前はいつもそうやって、自分を隠すんだな?
寂しくても、辛くても自分の感情を隠してしまう。
あの時も、そうだった。
お前がここを出ていく日だよ?
寂しいはずなのに、お前は私たちに言ったんだ。
“みんな、元気で暮らしていてください。私も元気で暮らします。
私が、こうして一人で暮らすことを許してくれてありがとうございます。”
涙を流さず、代わりに笑顔を向けて。
そして、ここの景色をゆっくりと見回すと出ていったよ。
父さんは……なにも言えなかった…」
「覚えてる…本当に、もうここには戻ってくることがないと思ったから。
だから、すべてを忘れないように。このテーブルの傷の一つまで忘れないようにしていた。
それが、まさか助けた精霊がこの家を守ってくれるとはね。
その精霊たちのおかげで、私はまたこの地を踏むことができた。」
「お母さんも、お父さんもただあなたに戸惑っていただけなの。
灯は、そんな私たちを憎んでる?恨んでる?」
「ううん…」
灯が首を振ると、修平も望美も喜びを現す。
「ほら、灯ちゃん。私たちが斗哉を思う気持ちと同じなのよ?
私たちが離れていても、ずっと斗哉を忘れなかったように、灯ちゃんのご両親もあなたとこうして長い間離れていても、忘れることはなかった。
…これが、親なのよ?
大丈夫!あなたには、こんなに愛情を向けてくれる家族がいる。
怖がらず、臆病にならずに人を好きになりなさい。
他人を愛するということを覚えたほうがいいわよ?
灯ちゃんには…
多分だけどね、気になっている人がいるような気がするんだ。」
「美華さん、好きになるっていうことがまだわからないの。
…でも、私の気になる人って誰かなぁ?
好きと言うことでいえば、友達の凪だって好きだし、凪の彼の拓斗さんだって。
それに、トーヤの事でかかわりを持ったみんなが好きなんだよ。
美華さんのいう好きというものと、私の思う好きと言うものが、違うという事しか分からない。」
「まぁ、それはこれからね?
でも、灯ちゃん親の愛情は深いのよ?
これから、家族と向き合って生きてごらん。
灯ちゃんの人生が開けてくるわよ?楽しみね。」
美華の言葉に、灯以外の人が頷く。
望美が灯の右手を握り締める。
「これから、よろしく。あなたの母をやり直させてほしい。
たまには、こうして帰ってきてほしい。もう、後悔はしたくない。」
望美が瞳に涙を溜めながら話すと、修平も灯の左手を握り締める。
「父さんもだ。いいか?」
灯が頷く。護が嬉しそうな顔を向けながら話す。
「やっと、家族全員揃った。やっと、前へ進むことができるね?父さん、母さん。
この日が来ることをみんな願ってた。」
やっと、家族になれた佐山家一家。それを証人のように見守る美華。
やっと、やっと灯が家族と向き合えた。
止まっていた、家族の時間がいまゆっくりと動き出す。




