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異世界帰りの勇者ですが、現代日本で会社はじめました。ブラックな業界を物理でホワイトにします  作者: 黒崎隼人


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第3話「現代ダンジョン事情」

 ファミレスのボックス席。

 テーブルの上には、ハンバーグステーキ、大盛りライス、シーザーサラダ、そしてフライドポテトの山が築かれている。

 レオンと名乗った男は、それらを猛烈な勢いで、しかし驚くほど綺麗な所作で平らげていた。


「うまい……! このソースの複雑な味わい、肉汁の溢れ方、すべてが芸術だ。異世界の干し肉とは大違いだ」


「あの、もっとゆっくり食べてください。逃げませんから」


 舞はドリンクバーのアイスコーヒーを啜りながら、呆れたように言った。

 レオンの食べっぷりは見ていて気持ちがいい。先ほどのリザードマンとの戦いが嘘のように、今の彼はただの空腹な青年に見える。ただ、その整った顔立ちと、どこか浮世離れした雰囲気は隠しきれていないが。


 食事が一段落ついたところで、レオンが真剣な表情で切り出した。


「さて、飯の礼に、今の日本の状況を教えてくれ。俺はちょっとばかり長いこと海外……というか、遠くに行ってたもんでな。浦島太郎状態なんだ」


「浦島太郎って、言葉は知ってるんですね」


 舞は少し考え、タブレット端末を取り出してニュースサイトを見せた。


「今の日本……というか世界では、10年ほど前から『ダンジョン』が発生するようになりました。最初はパニックでしたが、今ではそこから採れる『魔石』や『資源』が、石油に代わる新たなエネルギー源として定着しています」


「魔石がエネルギー源か。なるほど、理にかなってるな」


「はい。国や大企業がダンジョンを管理し、ライセンスを持った『探索者シーカー』を雇用して資源を回収する。それが今の主流です。私が勤めている会社も、そういったダンジョン管理を行う大手ゼネコンの下請けです」


 舞は自嘲気味に笑った。


「でも、実態は酷いものです。安全な上層階は大手企業が独占し、危険で実入りの少ない下層や、発生したばかりの不安定なダンジョンは、私たちのような下請けやフリーランスに押し付けられる。装備代は自己負担、怪我をしても自己責任。モンスターの討伐ノルマに追われ、使い潰されていく……それが現実です」


 レオンは腕を組み、難しい顔をした。


「ふむ。つまり、魔物を倒して資源を得るまではいいが、そのシステムが腐ってるわけか」


「ええ。それに、最近は『未処理ダンジョン』の問題も深刻です。企業が採算が取れないと判断して放置したダンジョンから、さっきみたいにモンスターが溢れ出す事故が増えているんです。国も対策に追われていますが、探索者の数が足りなくて……」


 レオンは指先でテーブルをトントンと叩いた。


「非効率だな」


「え?」


「話を聞く限り、お前たちのやり方はあまりに非効率だ。モンスターを倒すのに時間をかけすぎているし、魔力の回収率も悪い。だから採算が取れないんだ」


 レオンはポケットから、先ほどリザードマンから手に入れた紫色の石を取り出し、テーブルに置いた。

 照明を反射して、美しく輝くその石を見た瞬間、舞は息を呑んだ。


「これ……さっきのリザードマンのドロップ品ですか? う、嘘ですよね? こんな高純度の魔石、Aランクダンジョンのボスからしか出ないはずじゃ……」


「ただの雑魚リザードマンだったぞ。倒し方の問題だ」


 レオンは事も無げに言った。


「魔物ってのは、魔力の塊だ。闇雲に斬りつければ魔力が霧散してしまって質が落ちる。核となる部分を正確に突き、魔力の回路を遮断するように絶命させれば、魔力は全て石に凝縮される。そうすれば、雑魚からでも純度の高い石が採れる」


「そ、そんな理論、聞いたことありません!」


「俺の世界じゃ常識だったんだがな。……なるほど、見えてきたぞ」


 レオンはニヤリと笑った。

 その笑顔は、勇者というよりは、悪戯を思いついた少年のようだった。


「舞、お前、今の仕事楽しいか?」


「え……?」


 唐突な問いに、舞は言葉を詰まらせた。

 楽しいわけがない。毎日のサービス残業。上司のパワハラ。常に隣り合わせの危険。辞めたいと何度思ったことか。でも、生活のためにしがみつくしかなかった。


「……楽しくないです。辛いです。もう、限界かも」


 本音がこぼれた。


「なら、俺と組まないか?」


「はい?」


「俺には力がある。知識もある。だが、この世界の常識や、手続きや、金の稼ぎ方がわからない。お前にはそれがある。そして何より、お前は俺に飯を奢ってくれた。その恩はでかい」


 レオンは身を乗り出し、真っ直ぐに舞の目を見つめた。


「会社を作ろう。俺がモンスターを片っ端から効率よく掃除する。お前がそれを金に変えて管理する。ブラックな業界を、俺たちのやり方でホワイトに塗り替えてやるんだ。どうだ、悪い話じゃないだろう?」


 突拍子もない提案。

 普通なら断る。詐欺か、狂人の戯言だと思うだろう。

 でも、目の前に置かれた最高純度の魔石と、何よりも彼がリザードマンを一撃で葬ったあの光景が、舞の理性を揺さぶっていた。


(この人となら、何かが変わるかもしれない)


 心臓が高鳴る。

 平穏で、退屈で、苦しいだけの日常が、音を立てて崩れていく予感がした。


「……条件があります」


 舞は震える声で言った。


「なんだ? 美味い飯か?」


「それもですけど……福利厚生はしっかりしてください! 残業代も全額支給! あと、私は事務方です、危険なダンジョンには絶対に入りませんからね!」


 レオンはきょとんとした後、愉快そうに笑った。


「ああ、約束する。俺の背中に隠れてれば、指一本触れさせないさ」


 その夜、ファミレスの片隅で、世界最強のベンチャー企業が産声を上げた。

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