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異世界帰りの勇者ですが、現代日本で会社はじめました。ブラックな業界を物理でホワイトにします  作者: 黒崎隼人


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第10話「暴食の捕食者」

 最深部への道は、先ほどまでとは空気が違っていた。

 ねっとりと肌にまとわりつくような濃密な魔力。壁面の植物は不気味に脈動し、まるでダンジョン全体が一つの巨大な生物の内臓であるかのような錯覚を覚える。


『社長、気をつけてください。このエリアの魔素濃度、異常値です。測定器が振り切れてます』


 舞の声にも緊張が滲む。

 レオンは歩きながら、周囲を警戒しつつも冷静に分析していた。


「この感覚……人工的な臭いがするな」


「えっ?」


「自然発生したダンジョンにしては、魔力の流れが整いすぎている。誰かが意図的に魔物を飼育し、共食いさせて強化したような……そんな歪さを感じる」


 レオンの勘は的中していた。

 この「第3実験ダンジョン」は、ギガント社が極秘裏に生物兵器としてのモンスターを育成していた実験場だったのだ。しかし、成長しすぎた怪物が制御不能となり、彼らは施設ごと封印しようとした。それが今回の遭難事故の真相だった。


「着いたぞ」


 レオンの目の前に、巨大なドーム状の空洞が広がった。

 その中央に鎮座していたのは、悪夢を具現化したような怪物だった。


 それは「暴食のヒュドラ」。

 しかし、伝承にあるような竜の姿ではない。

 ヘドロのような黒い肉塊から、無数の蛇の首が生え、それぞれの首が異なる属性の魔力を帯びている。さらに、その体表には、無惨にも吸収されたであろう探索者たちの装備品や、現代の機械部品が埋め込まれていた。


『アァァァ……』


 無数の首が、一斉にレオンを見た。

 その瞳には知性はなく、ただ純粋な食欲だけがあった。


「うわ、趣味わりぃ」


 レオンは心底嫌そうな顔をした。

 異世界の魔王軍でも、ここまで悪趣味なキメラ合成はしなかった。これは、力に溺れた人間が生み出した悲しき怪物だ。


『グオォォォォォ!!』


 ヒュドラが咆哮する。

 空間が震え、ドーム内の気温が一気に上昇する。

 炎、氷、雷、毒。それぞれの首から、極大のブレスが放たれた。


「ちっ、面倒な!」


 レオンは跳躍し、空中で身をひねって炎を回避する。

 だが、着地点を狙って氷の槍が降り注ぎ、さらに毒の霧が退路を塞ぐ。

 単純な力押しではない。複数の思考による連携攻撃だ。


「社長! 解析終わりました!」


 舞の声が響く。


「あの個体、中央の太い首の下に、人工的な制御デバイスが埋め込まれています! そこが魔力の供給源であり、再生能力の核です! ただ首を落とすだけじゃ、無限に再生します!」


「なるほど、弱点はそこか。ナイスだ舞!」


 レオンは空中で体勢を立て直すと、剣に膨大な魔力を注ぎ込んだ。

 ヒュドラの再生能力は厄介だ。首を一本落としても、すぐに二本生えてくるタイプだろう。ならば、核を一撃で破壊するしかない。


 だが、ヒュドラも本能で核を守っている。

 無数の首が壁となり、レオンの接近を阻む。物理攻撃だけでなく、精神干渉の波動まで放ってくる。


『クルナ……タベル……』


「食われてたまるかよ。俺はまだ、日本のラーメン全種類制覇してねえんだ!」


 レオンは叫び、さらに加速する。

 勇者としての全盛期の力。その一端を解き放つ時が来た。


「身体強化・限界突破オーバードライブ


 レオンの体が金色のオーラに包まれる。

 速度が倍増し、残像が生じるほどの高速機動へ。

 迫り来るブレスを紙一重でかわし、触手のように伸びる首を足場にして駆け上がる。


「舞、一番デカい魔法、撃ち込んでいいか? 崩落しないように手加減はするが」


『許可します! あとで請求書に「特殊清掃費」って上乗せしますから!』


「話が早くて助かる!」


 レオンはヒュドラの真上を取った。

 聖剣の偽装を解く。

 ボロボロの剣身から、眩いばかりの光が溢れ出す。それは、かつて魔王をも切り裂いた、聖なる断罪の光。


「勇者剣技・天覇断空てんはだんくう!」


 レオンが剣を振り下ろすと同時に、巨大な光の刃が垂直に落下した。

 それはヒュドラの防御障壁を豆腐のように切り裂き、無数の首を蒸発させ、そして狙い違わず「核」へと到達した。


 ズドォォォォン!!


 閃光。

 そして、世界が白く染まった。

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