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「余白の声」

「余白の声」第6話 「文句料」

作者: 秋定弦司

 「政治に文句があるなら税金を払ってから言え」――なんとも胸のすく正論めいた響きでございますな。三大義務の錦の御旗を高く掲げ、さぞや見晴らしのよいお立場から世を睥睨なさる。その威容、さながら梯子の最上段、あるいは高所作業車のカゴで仁王立ち、といった風情でございましょう。もっとも、そこで風にたなびくのが見識なら結構ですが、実のところは「払えぬ者は黙っておれ」という薄寒い蔑みがはためいている――本稿は、その寒風の正体を指でつまみ、読者諸賢とともに嗅ぎ分ける小さな試みでございます。


 権利と義務の関係を装えば、理はたやすく正論のおもてを得ます。されど、その仮面は往々にして、他者の口を塞ぐために鍛えられた盾であり、己の怠慢を隠すための覆面でもある。本編の語り手は、あえてその仮面に指紋を採り、梯子の足元を確かめ、必要とあらば――比喩の上で、でございますよ――軽くり入れる所存です。高所作業車のアウトリガーに触れることは致しません。法と倫理の支持脚を外すのは、いつだって傲慢の側だけで十分にございましょうから。


 なお、筆者は高所が苦手にて候。日当がいかほど上がろうと、空中の勇ましさは他の達人にお譲りいたします。だからこそ、地に足の着いた議論をこそ尊びたい。梯子の上から投げ下ろされるご高説よりも、路面の凸凹に膝を取られつつも歩む言葉を信じたい。本稿は、そのささやかな信を、慇懃の外套に包み、皮肉という小刀でほつれを断ちつつお届けするものでございます。


 では、支柱の緩んだ正論という見世物小屋へ。合図の笛が鳴りましたら、どうぞ笑いを堪え、目を凝らしてご覧あれ。次に蹴るべき梯子は、案外、私たち自身の足元に立てかけられているやもしれません。


 秋定 弦司

 なるほど。「(政治に)文句があるなら税金を払ってから言え」とおっしゃいますか。

 確かに表向きは立派なご意見に見えますな。

 三大義務のひとつを盾に取るあたり、なかなか結構なお手並みでございます。しかし、その裏に潜む「税金も払えぬ低所得者は黙っておれ!」という声が、まる聞こえで誠に傲慢の極みでございます。


 ええ、己の意見の無責任さに気づかぬ方に説教するなど、わたくしの頭痛の種が増えるだけでございます。


 権利と義務の関係で正論っぽく聞こえるのは理解いたします。


 しかし、その理屈を本気で信じるなら、「義務を果たせぬ者は何も言うな」となるのでしょうね。


 さらに、そんなご高説を、他人がご用意くださった梯子や高所作業車の上から垂れ流すとは……恥ずかしくはございませんか。実に見苦しい限りでございます。


 私であれば、まず梯子を蹴飛ばし、可能であれば高所作業車のアウトリガーも外して差し上げたいところでございます。


 もちろん車体破壊などいたしませんが、「高所作業車」だけに。

 ……失礼、少々スベりました。


 ちなみに、わたくし、高所恐怖症でございます。


 高所作業を命じられたら、日当がいくら増えようと、泣いて土下座してでもお断りいたします。……ええ、日当の増減など、傲慢なご高説には関係ございませんね。


 結局のところ、理屈だけ立派な方々のご高説とは、梯子の上で威張るだけの、単なる滑稽な見世物に過ぎません。見ていて恥ずかしく、笑うに笑えぬ。しかし確実に迷惑な存在でございます。


 さて、次に梯子を蹴飛ばすタイミングを考えましょうか。

 お読みくださり、まことに感謝に堪えません。

 さて、本稿は「権利と義務」を楯に振り回す御仁への小さな皮肉でございます。表面だけをなぞる言辞は、立派そうでいて実に軽々しく、見下す側の自尊心を満たすだけの見世物になりがちです。


 梯子の比喩は、それを愉しげに可視化したつもりでございますが、実際には高所恐怖症の告白で自らを距離化することで、不毛な説教に毒気を少し抜いていただければという意図も含まれております。


 他者の声を封じるのは容易ですが、対話の梯子を取り払ってしまっては、社会そのものが揺らぎます。 


 だからこそ私は、説得力のない正論にただ頷くよりも、一度自分の足元を見つめ直すことを勧めたいのです。


 蹴飛ばすのは冗談めかした反抗心――しかし本当に必要なのは、互いの立場を想像し、滑稽さを笑い飛ばせる余裕ではないでしょうか。


 少々毒が混じりましたが、それもまた筆者の正直さでございます。


 秋定 弦司

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