表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

平和を知る者、発展を知る者

西暦X年。

第五次世界大戦が始まった。

枯渇した資源の取り合い、大昔の人間の置き土産とも言える領土問題。

止めようもない武力開発。

条約や人類共通の倫理観、その上に立つ仮初の平和はこの時代に破られた。

国と国のいがみ合いがついに大空を鉄の塊で引き裂いたのだ。

ある国は最新のロボット兵器で他国へ侵攻した。最新の戦闘機は人が乗っておらず、コンピュータによって自動で敵国の地に死をもたらした。

またある国は敵国民を皆殺しにするようプログラムされたロボット兵が最新レールガンで全てを焼き尽くした。

比較的穏健派だったとある島国では、国民はシェルターに潜り込み、ハッキングによるロボットの無力化にいそしむ。

それを知った敵国は強力な爆破兵器でなんとか入り口に穴をあけ、細菌兵器を投入し、シェルター内の人々を狂気に陥れた。

互いが互いの国を攻撃しつつ、確実に消耗を続けた。もはや当初の目的も忘れ、ただ破壊することしかできなかった。

そして禁断の力が投下された。

シェルターもロボットも無惨に吹き飛ばされ、

死の雨にさらされた生存者は次々に溶け、辺りは人間の池でダイビングができるほどだった。

そして残ったのは科学物質に汚染された惑星とわずかな生存者。戦う力など残っていなかった。

ここまでくると流石の人間でも反省と後悔の気持ちが湧いてくる。

「なんで戦争なんてしたのだろう。破壊の後に何も残らないことなんて四度の戦争で嫌というほど学んだはずじゃないか。」

「四度じゃない。国家間の紛争は有史以前からずっと行われてきた。そのたびに人が死に、地球が破壊されてきた。これだけの犠牲を出してまだ反省できないようじゃ、いくら科学が発展しても心の底は野蛮人と変わらないじゃないか。」

幸運にも戦争を生き抜いた者たちは同時に同じ思いを抱き始めた。

「争いなんてもう止めだ。ばかばかしい。」

途方もなく長い時を経て、人類にようやく進化の時が訪れた。

仮初ではない。正真正銘の平和を望む声が次々と共鳴し、初めて人類は一つになった。誰もがそう実感した。

人類の誕生以来、否、知的生命体の誕生以来ここまで一つの種が心を一つにし、団結したことがあっただろうか。

言葉や書類といった取り決めで作るのでない。みな気持ちは同じなのだ。

まずは生存者同士連絡をとり始めた。

幸い機械技師の生存者が世界中にちらほらいたので通信機器の復元はわけなかった。

次に武器だ。人を傷つける道具なんてあってはいけない。

「二度と争いはごめんだ。」

この気持ちは人々に武器を忌避させ、危険なロボット兵器は平和と安寧の地を作るために鉄の塊としてその役目が来るまで眠りにつくこととなった。

ピストル、ミサイル、もちろんいらない。

核爆弾なんてもってのほかだ。

核エネルギーには荒廃した地球を再生するためのエネルギーとしてよっぽど有効な使い道があるのだ。

だが核エネルギーを扱うにはそれなりの設備が必要だ。

賢明なる生存者たちは互いの国の技術を結集し、巨大なエネルギー設備を完成させた。

国家間の競争や野心を失った今、そのような設備を作るのは難しくなかった。

ナイフや包丁、フォークにはさみ。生活に欠かせないものもある。

だがこれらが残る限り何かの間違いで人を傷つけ、愚かなる野蛮人の血を呼び起こされた誰かが暴れ回るとも限らないでないか。

団結した人類にもはや不可能などなかった。

かなりの年月を要し、ナイフやハサミに変わる新たな道具を開発したのだ。

一見虫眼鏡のように見えるこの道具はレンズに切りたいものを映すだけで必要なものを必要な分だけ自動で切ってくれる。切断時に発せられるレーザー光線は、人間だけは絶対に傷つけない優れものだ。

スタンガン?警棒?いらない。

警察もいらない。武力を行使する組織は軒並み解散だ。基より壊滅していたし、それに、悪意のある犯罪を行うものなどいないのだから。

人類の功罪を一新に背負った連中だ。

こんなに気心の知れた社会体系で一体どうして他者を疑い、罰する必要があるだろう。


そして移動手段。機械の通信を通じた人工の付き合いよりも直接出会った方が出来ることが色々と増えてくる。

とりあえず、各大陸に橋が架けられた。

時間がかかるとはいえ、全人類が自由に地球上を行き来できるようになった。

言葉の壁ももちろんあったがこれは訳ない。

軍事ロボットの出番だ。

敵国の情報、言い換えれば世界中の言語を大量にインプットしたロボットの知能は小さな翻訳デバイスとして生まれ変わり、平和の礎を築くために大いに役立った。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

第五次世界大戦を終え、地球人類は団結し、すべての力を永劫の平和へ捧げることを誓った。

それからどれほどの時が立っただろう。

人々は夢のテレポート装置のおかげで世界中の行き来が可能となり、国境は完全に消滅した。かつて架けられた橋は誰も使わなくなり朽ち果てたが、世界は本当の意味で一つになった。かつて争いに向けられていた熱意や資源はすべて平和へ向けて投資された。

人々は戦い方も忘れ、争いがなくなったこの星に、幾多もの時代の人々が待ち望んだ安住の地、ぽかぽかとした陽気に包まれた昼下がりのひと時のような穏やかな時代を迎えた。

もっとも、暇を持て余した人々は、時々こんなことをつぶやきあう。

「平和になったのは良いことだが退屈でかなわん。何かアッと驚くようなことは起きないものだろうか。」

「そいつは贅沢ってもんだぜ。誰も生活に困らず、だれかに殺される心配もしなくていい。くだらない喧嘩にのせられて武器を手に取り同じ星の仲間同士で殺し合いをするなんてこともありはしない。そもそも俺たちは武器の使い方どころか人の傷つけ方すら知らないじゃないか。」

争いを忘れた人間たちは尖ったもので体をぶすりと刺せば痛むということすら知らなかった。

しかし、時間は前へ進み続ける。止まることはあり得ないのだ。


「私たちには国交を開くメリットがないのです。」

--全生物の夢である不老不死も、金銀ダイヤモンドを錬成する技術も、

あなた方が持たない科学力を私たちが提供してやろうと言っているのです。これをメリットと呼ばず何と呼ぶのでしょう?

宇宙船がない?そんなの問題じゃない。

私たちと国交を開いてくださればすぐにでも定期船を手配します。

我々と地球人では文化や概念が違うって?

ハハハ、惚けたこと言わないでくださいよ

ちゃんと調査済みです。

お宅らはちっぽけな惑星内の問題を全て片づけ、文化の違いやルールマナーの違いもちゃあんと適応したじゃないですか--



その通りだ。幾度にわたる殺し合いを経て、ようやく片付いた。

彼らとも、時間をかければうまいことやっていけるかもしれない。

そう、時間をかければ…


--つまり時間をかければ出来るんでしょう。

我々だってそうしてきました。さっさと終わらせましょう。

平和ボケした市民らは皆心の底では新たな時代を待ち望んでいるんですから。今更辞めるなんて言わせませんよ。‐‐


市民にとって平和な時代は退屈な時代でもある。

その上未知の人類、宇宙の神秘、おまけに格上の科学力ときた。拒む理由はないだろう。

しかし…


‐‐さあ、早く指切りですよ指切り、契約のあかしです。

ゆぅびきぃりげぇんまぁんうっそつぅいたら針千本のーーますっ。ゆーびきった!‐‐

……おめでとう。約束通り今すぐ定期船を手配しよう。地球紙幣と宇宙紙幣の交換比率も定めなくては、ほらほら、痛がっている場合じゃありません。やることはいくらでもあるのだから。

えっ、なぜ指を切ったかって?

だってこれが地球人流の契約手段なのでしょう。

違う?本当に指を切るわけでない?

そうなのですか?

……まあいいでしょう。

我々のミミクチノ契りだって大差ないですし。書類や判子なんて、、そんなものになんの価値があるっていうのですか。

無くしたら終いだ。

それに心配は入りませんよ。

我々が開発した万能治療薬があれば指なんて何度でも再生できます。

指だけじゃない、足でも首でも、病気だって、なんでも治せてしまう。もっとも、契約用の指と混同しないよう色は変わりますがね。ドド色、ナヤサ色、、ああ、地球人の視覚じゃあ認識できないか。

じゃあロロ色、ヒニイト色のどちらかで。

この星で言う医者なんて必要ありませんよ。

えっ、今いる医者はどうなるかって?

…たしかに職は失いますねえ。

でも問題ないでしょう。

医者がダメなら薬の開発をすれば良い。

セールスでもいいけどね。

どうせこれから職は増えるんです。

そんなちっぽけな犠牲、宇宙の発展と比べたら大したものじゃないでしょ。

生活は格段に向上するでしょう。

文化もより豊かに、人々はより活発に、より景気良くなります。

ほら、窓の外を見なさい。

新たな時代に胸を躍らせ歓喜の声を上げているのが聞こえるでしょう。

あなた方地球人は素晴らしい決断を下したのです。

こうして三角柱型の新たな友人は、繊毛のような指をゆらゆらと揺らし、六つの目を嬉しそうに歪めた。

昼下がりの時は再び動き出した。

note、アルファポリスにて同作品を投稿しております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ