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「え? あれ無視して釣りするの?」


 釣りをしようとした俺に、エミルがそう言ってきた。


「あれはあとで切り崩す。一度釣りを準備してやめることは出来ん」

「た、確かに……一度始めようとした修行は、そう簡単にはやめられないもんね」


 ただただ、めちゃくちゃ釣りがしたいという欲にまみれた理由なのだが、エミルは良いように解釈したようだ。


 湖に糸を投げ入れた瞬間、速攻で引きが来た。


 な、何? こんなにすぐかかるとは。


 今日は、大量の予感――!!


 俺はワクワクしながら、竿を引き上げた。


「……何だこの魚」

「変な色の魚ね。初めて見た」


 釣り上がった魚は、マーブル模様をした妙な魚だった。


 何という妙な模様をした魚だ。

 まさか新種か? 

 大発見か?


 いや……待て……

 このマーブル模様。

 ちょうど、あの塔と同じ模様だ。


 何だか嫌な予感を感じ、俺は魚の頭を斬り落としてみた。


 血も何も出ない。

 中身は空洞だった。


「変な魚ね。中身何もないんじゃ食べられないじゃない」

「食べれる食べられない以前に、こいつはもはや魚じゃないだろ……」


 中身がないとは生物かどうかも怪しい。

 俺は糸をもう一回垂らしてみる。


 すると、またも速攻で魚がかかり引き上げた。

 さっきと同じ、マーブル模様の魚が。


 どうやら湖の中に、この謎の魚が大量発生しているようだ。


 こんなダボハゼより簡単にかかる魚が大量にいたら、釣りなんかまともにできない。


 昨日までこんな魚はいなかった。


 考えられる原因はただ一つ。


「あの塔か……」

「……あ、なるほど……魚と塔の模様がよく見れば一緒だし、あの塔が原因でこの魚が湧いていると考えられるわね。ライズは頭もいいのね!」


 そんなん誰にでも分かるだろ、お前が馬鹿なだけだと思ったが、口にはしなかった。


 この湖で釣りが出来なくなるのは困る。

 距離に関しては、俺は移動速度が速いので、別にほかの場所で釣っても問題はない。ただ、この湖は、質のいい魚が釣れる割に、人がほとんどこない穴場なので、重宝しているのだ。ほかに釣り人がたくさんいる場所での釣りは、なるべく避けておきたい。


 とにかくここで釣りが出来なくなったら困るので、あの塔を調査する。

 問答無用に切り崩してもいいが、それだけだと魚の発生を止められない可能性がある。塔の中を調査してどうにかしなければ。


 早速俺は浮遊魔法を使い浮かび上がって、塔に近付いた。

 エミルも同じく浮遊魔法を使用して、俺に付いてくる。


 近づくと、塔には窓があることが分かった。

 窓を一つ叩き割って中に入る。


 塔の中は塔の中は、どこに光源があるのか分からないが、なぜか明るかった。


 建物内から見ても壁の色はマーブル模様だった。

 四方八方、気持ち悪いマーブル模様に囲まれて、正直長居したくなるような場所じゃない。


 すぐにあの謎の魚が出てきた原因を特定して止めければ。


 俺とエミルは、塔の中の調査を開始した。




「うーん、気持ち悪い模様が続くだけで……何もないわね」


 歩き続けたが何もなく、ずっとマーブル模様を見せられ、気が滅入りそうなってしまう。


 塔の内部構造は入り組んだ迷路みたいになっており、非常にめんどくさい。

 壁を破壊しようとも考えたが、何があるか分からないので、ここは慎重に進むことにした。


 それからしばらく歩行を続けると、上に行く階段を発見した。


「登る?」

「最上階に何かあるかもしれないし、登った方が良いだろう」


 俺たちその階段を登る。


 上の階も、何もない空間が続いた。

 ひたすら迷路を歩き続け、階段を発見そこも登り、どんどん上の階に登っていった。


 階段を五階登り、部屋の探索をしていると、


「……何あれ?」


 前方に何かを発見した。

 赤い発射ボタンの様なものだった。

 押すとまずいことが起きそうではあるが、それでも押したくなるような形をしている。


 正直、罠にしか見えない。

 俺も馬鹿な子供ではないし、こんな見え見えの罠に引っかかるわけ……


「ポチっと」

「おい! 何押してんだ!」

「あ、ごめんなさい。遂ね……」


 苦笑いしながらエミルがそう言った。

 何と短慮な女だ。


 何が起こるか警戒していると、壁のマーブル模様が変化し始めた。


 魔法文字ルーンがびっしりと壁に刻まれる。


 俺はその文字を一部だけ見て、これは爆発を起こす魔法文字ルーンである可能性が高いと判断した。


 これだけ壁にびっしり魔法文字ルーンが刻まれているとなると、本当に爆発を起こす魔法だった場合、その威力は絶大だろう。


 それでも、レベル9999になった俺には通用しないだろうが、エミルはどうなるかは分からない。


 俺は瞬時にそこまで思考を張り巡らせ、上級防壁ハイ・ガードの魔法を使用。


 透明の魔法で出来た壁を作成する魔法だ。

 物理攻撃も魔法による攻撃もどちらも防御する魔法で、今の俺の魔力で上級防壁ハイ・ガードを使えば、どんな強力な攻撃も通さないほど強固な壁となる。


 エミルを覆い囲むように、壁を張り、爆発が一切通らないようにした。


 壁を張った数秒後。

 俺の予想通り、壁に刻まれた魔法文字ルーンは、爆発を引き起こす効果があったようで、大爆発が起こった。


 爆発の威力は、俺の予想よりも大きかったが、とはいえ今の俺にダメージを与えるほどではなかった。

 上級防壁ハイ・ガードの方も傷一つついていなかった。

 生身の状態でエミルが今の爆発を受けたら、高位の冒険者とはいえ致命傷は避けられなかっただろう。使っておいてよかった。


 爆発が起きた後、壁や床が崩れ始めたので、浮遊魔法を使って宙に浮き、一旦塔の外へと脱出する。エミルも俺の後に続いた。


「さっき、壁張ってくれたの?」

「ああ。あの爆発を直に受けてたら、死んでただろ」

「べ、別にあのくらいで死にはしないし……ま、まあ、でもちょっとは痛かったと思うから、一応お礼は言っておくわ。ありがとう」


 かなり強がった様子でお礼を言ってきた。

 本人が耐えられたというのなら、そう言う事にしておこう。


「というか、お前、普通押すか? 罠にしか見えなかったぞ」

「う……いや、だって押したくなるじゃない……」


 気持ちは分からんでもないが、それでも普通は押さないんだよ……


 空から塔の様子を眺めていたら、崩れ落ちていくマーブル色の塔が、徐々に黒く変色していった。


 最終的に真っ黒になって、黒い球体になり湖の底に沈んでいく。


 すると、湖の水までもが黒く変色していき、真っ黒い球体に吸収されていった。


 最終的に湖の水が全て吸い込まれ、湖はただの穴となった。中央に真っ黒の球体は残ったまま動かない。


 一体何が起こったのか、すぐに理解することは不可能だった。


 数秒してようやく事態の深刻さを理解する。


 湖が……なくなった。


「な、何か凄いことになったわね……湖がなくなっちゃった」


 エミルは軽い口調で言ったが、俺は相当焦っていた。

 湖がなくなるのは非常に困る。


 今、起こった現象は一体何なんだ。


 魔法か……? 


 いや、正直、あんな現象を引き起こす魔法は、見たことも聞いたこともない。


 となると……


 ――魔物の仕業


 それ以外考えられない。


 Bランク、いや魔法の規模から考えてAランクの魔物がゲートを通ってやってきて、あの気味の悪い塔を建て、あの現象を引き起こしたに違いない。


 目的は不明だ。

 元々魔物の目的なんて、人間には予想することは難しい。

 知性はあるとはいえ、思考回路的にはぶっ飛んだ奴らがほとんどだからな。


 湖は黒い球に吸収されたが、もしかしたらこの現象を引き起こした魔物を捕らえれば、湖を元に戻すことも可能かもしれない。


 何の恨みがあるのか知らんが、俺の湖を更地にしやがって。



「絶対に許さん! 後悔させてやる!!」


 

 俺は大声で叫んだ。

 

 

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