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そ、そんな馬鹿な。
なぜ魔王が俺を狙っているんだ?
何かの間違いじゃないか?
心当たりは……正直ない。
昔、倒した魔物がゲートから魔界に戻って、力をつけてから戻ってきたとか?
……確かに魔物はたくさん倒してきた。だが、魔法でコッパ微塵に吹き飛ばしてきたので、生きているものは誰もいないはずだ。
魔物が魔界に帰る方法自体は、全くないわけではないと思う。
俺は知らないけど。
人間が魔界に行ったみたいな事も、過去はあったみたいだ。
ちなみに魔界に行った人間が、こっちの世界に戻ってきた例は全くないらしい。
とにかく敵の目的は俺である可能性が高い。
俺を殺すことが目的で、ほかの人間たちは傷つけるつもりはないようだ。
……ってことは放っておいても良いのでは?
ほかの人間は傷つけないつもりなら、危ない連中ではない。
俺はどんだけ攻撃されても、多分大丈夫だしな。
もし、魔王とやらが俺とやりあえるくらい強いなら、それこそ悪くない話だ。対等に戦える相手がようやくできたってことだからな。
一つ気になるのは、向こうから攻撃してこない限り、危害を加えるな、とさっきの魔物は言っていたが、つまり攻撃されたら反撃OKということである。
当然、何もしていないのに攻撃されたのだから反撃する権利くらいは魔物にもあるだろう。
ただ、恐らく魔王の討伐にはエミルたち冒険者たちが出るはずだ。
冒険者は魔物の善悪など考えずに、討伐を行う。
場合によってはエミルが大ピンチに陥る可能性もある。
流石にそれは助けないといけないが……
ま、それはエミルたちがきてから考えるか。
今は釣りをしよう。
正直、人間に積極的に危害を加えるつもりがないなら、あまり倒したくはない。
しばらく様子を見ておこう。
俺はそう思い釣りを始めた。
○
会議が終わった後、エミルは急いでグラス島に向かっていた。
同行者はいないが、同タイミングで他の冒険者たちもグラス島に向かっているようである。
到着後、景色を楽しむことなくエミルは魔物の気配を探った。
(島に到着たけど敵の魔力は感じないわね。隠しているのかしら……そうだとしたら厄介ね……)
ゲートをくぐってきた魔物が、魔力を隠すことは少ないながらあることだ。
基本的にはかなり知能の高く、慎重に行動する魔物が魔力を隠す。
そのため討伐難易度は遥かに上がる。
(相手はSSランクの力を持つ魔物……不意打ちされたら避けられず瞬殺されるかもしれない……慎重に進まないといけないわね)
エミルは冒険者としては超一流である。普段は抜けているところも多いが、魔物との戦闘となると、正しい判断をすることが出来た。
「おっと、先に来てたのかい」
背後から声をかけられた。
冒険者ランク5位のハーナが佇んでいた。
「魔物の気配がしないねー。どういう状況なんだい?」
「私もさっき来たばかりだから、細かくは知らないわね。ただ、敵は魔力を隠している可能性が高いわ」
「魔力が感じないとなるとそうかもね。この島から出てどこか別の場所に行ったって可能性も考えられるけど」
「仮にそうなら尚更厄介ね。事件が起きないと見つけられないし、潜伏されると見つけ出すのは困難よ」
「おとなしく潜伏してくれれば、倒す必要がなくなっていいんだけどね」
うんざりしているような口調でハーナは言った。
あまりSSランクの魔物と戦いたくなような様子である。
「とにかくまずはこの島を探すかね。アタシはこっちを探すから、アンタはあっちを探しな」
ハーナはエミルにそう指示をした。
「わかったわ。敵は潜伏しているから慎重に探してね」
「そんなもんわかってるさ。全く誰に言ってるんだか」
呆れたような口調でそう言い残して、ハーナは捜索をするため歩き去っていった。
(冒険者ランク五位。黒蝶ハーナ・テンタル。直接戦ったところは見たことはないけど、私よりも冒険者ランクは上……ま、まあ冒険者ランクはあくまで実績で決まるから、必ずしも現在の実力が私より上ってわけじゃないけど……ただものではなさそうね)
去っていくハーナの背中を見ながら、エミルはそう考えていた。