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「海綺麗だね〜」
俺たちはグラス島に到着していた。シーラが海を見てはしゃいでいる。
グラス島の海はコバルトブルーの美しい海だった。
ハープトビーチもそれなりに綺麗だったが、グラス島の海の綺麗さに比べると流石に見劣りする。
色あざやな熱帯魚が泳いでいるのが、肉眼でも確認できた。
綺麗ではあるが、正直美味しそうには見えない。
食べるより飼う用の魚って見た目だ。
まあ、食べて見ないことには味は分からない。
釣ってみるか。
この島には大きめの池もある。そこほかの場所では釣れない魚がいそうだ。とにかく各地を回って色々釣ってみよう。
「……この島綺麗だけど、なんか怖い感じするよ」
シーラが怯えたように言った。
忘れていた……
この島にはSSランクの魔物が出たので、様子を見に来たのだった。
ただこの島に来てから強い魔物の気配は感じない。
俺は他者の魔力を感知するのが苦手ではあるが、流石に魔物が近くにいれば感知することは出来る。SSランクの魔物の存在に気づかないということはないだろう。
恐らく魔力をうまく消しているのだと思う。
シーラは恐らく普通より感知する能力が高いので、感じ取る事が出来ているのだろう。
ちなみに俺は特に自分の魔力を隠してはいないのだが、魔力量が莫大にあるという事を何故か誰も感知できない。
魔力量が多すぎて逆に感知できないのかもしれない。理由はなんであれ、自分の魔力量を隠すのめんどくさいので、隠さずに済んでいるのは良い事である。
「大丈夫だ。何かあったら俺が守ってやる」
「お兄ちゃん……」
シーラは俺にしがみついて来た。
彼女がここまで怯えるのは珍しい。
本当にSSランクの魔物がこの島のどこかにいるのかもな。
魔物の目的がわからない以上、いきなり倒すのも良くはない。
一応、何故この世界に来たのかは聞いておこう。
その上で侵略とかが目的なら、退治しないといけないだろうな。
SSランクの魔物だし、放っておいたらどれほど被害が出るか分からん。
とりあえず一旦釣りは後回しにして、魔物探しだな。
釣りは解決してからで大丈夫だろう。
怯えるシーラを連れて、俺は島の探索を始めた。
数時間探索を続けるがいない。
この島には一応人が住んでいるはずだが、誰一人いない。
すでに避難をしたか、魔物に殺されてしまったのか、どちらかだろう。
「おい、そこの人間」
不意に声をかけられた。
声のした方を向くと、翼の生えた男がいた。
翼だけじゃなく額に第三の目がある。
明らかに人間ではない、魔物だ。
目の前にいるのだが魔力を感じない。隠しているのだろう。
こいつがSSランクの魔物か?
高位の魔物は手下を従えてくることもある。
魔物だからと言ってこいつがSSランクの魔物とは断定は出来ない。
「なんだ?」
危害を加えて来そうな雰囲気ではなかったので、立ち止まって話を聞くことにした。
「おお、逃げないのか。ここにいる人間達は俺を見たらすぐ逃げるから困ってたんだ」
「そりゃそうだろうな」
そんな明らかに魔物と分かるような見た目をしてたら、逃げられて当たり前だろう。
「俺は『風撃』ドーランズ。人を探しているから、話を聞きたいんだが」
「人を探している? 人間を殺すためにこっちに来たわけじゃないのか?」
「もちろんだ。人間は殺すなと魔王様に言われているんだ」
「魔王様?」
「魔王様ってのは俺の主人だ。とある人間を探して人間界に来たらしい」
今回の魔物は魔王を名乗っているようだな。それだけ強力で、大勢の魔物を従わせているということだろう。
しかし、人間を探しているね……そんなことあり得るのか? 魔物が人探しで人間界に来るなんて話は聞いた事がない。
「探している人間の特徴を言うから、知っていたら情報をくれないか?」
「別に構わんが。強引に聞き出したりはしないのか?」
「そんなことしたら魔王様に殺されちまう。人間は殺すな、向こうから攻撃してこない限り、危害を加えるなと言明されている。魔王様は嘘を見抜くから、こっそりやるのも無理だ」
「ほう。結構良いやつなんだな」
「良いやつなものか! とんでもなく恐ろしいお方だぞ!!」
魔物から見たらそうか。
目的は人探しで、人間に攻撃の意思はなし。
これは退治しなくてもいいかもしれないな。
まあ、誰を探しているかにもよるが。
「とにかく協力するから、探している人間の特徴を言ってくれ」
「助かる。とんでもない魔力の持ち主で、どんな相手も一撃で倒すくらい強いようだ。見た目は普通の男。魔力は普段隠しているのか、見ただけでは分からないようだ。魔王様がそこまで言うくらいだから、とんでもない実力の持ち主だろう。人間界では恐らく有名なはずだから、心当たりがあるのではないか?」
「いやないな」
「そんなはずは」
「全く知らない」
「そ、そうか……分かった。ほかの人間を当たる」
魔物はそう言って落ち込んだ様子で去っていった。
人間に危害を加えるつもりはなさそうだし、放っておいても良いだろう。
しかし、どんな敵も一撃で倒すくらいの魔力を持っていて、見た目は普通の人間ね……
そんな凄いやつに心当たりは……
…………………………
俺じゃねーか!!!!




