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冒険者ギルド。
冒険者たちが集う場所であり、日々大勢の冒険者が訪れている。
その最上階。会議室にて、緊急会議が行われていた。
議題はSSランクの魔物にどう対処するかだ。
エミルもその会議に参加していた。
(まだ集まらないのかしら……)
会議に集められたのは、冒険者ランクトップ10に入る猛者のみだ。
エミルの冒険者ランクは6位である。
現在、会議室にいるのは、6人だけだ。4人ほどまだ来ていない。
高位の冒険者はエミル同様、移動速度も速い。
集まろうと思えば、すぐに集まれるはずだ。
来ていないということは、来る気がないのか、悠長にしているかのどちらかである。
「さっさと会議を始めてしまいましょう。これ以上待っても恐らく来ないでしょう」
メガネの位置を治しながらそう言ったのは、冒険者ランク9位のシャープ・ホーネスである。白衣を着た青髪の男である。
「もう少し待つべきじゃないかい? 第1位が来てないのに会議するってのもねぇ」
黒い長髪の女、冒険者ランク5位のハーナ・テンタルがそう言った。目に強いクマがあり非常に不健康そうな見た目だ。
「あの人はどうせ来ませんわ。わたくしがいれば問題ないでしょう」
ティアラを被ったドレスを着た女、冒険者ランク2位のアリア・ハーネクライツがそう言った。お姫様のような格好であるが、ただの趣味で実際は平民の出である
ほかこの場にいるのは、冒険者ランク7位のダイド・ブランソンと10位のオルソン・カブレイラ、そしてエミルだ。その3人は今のところ言葉は発さず、無言である。
「それではほかの方々は待たず、会議を始めましょうか。グラス島に現れた、SSランクの魔物をいかにして討伐いたしましょうか」
アリアがその場を仕切り始めた。
彼女は冒険者ランク2位であり、この場にいるものたちのなかで一番の実力者である。冒険者たちは強いものが立場が上だ。仕切ったりするのも当たり前で、特に不満の声も出ない。
「SSランクの魔物は単独での討伐は不可能です。皆で連携して討伐にあたるべきでしょう」
シャープが冷静な口調でそう言った。
「ま、Sランクの相手でも難しいのに、SSは中々ねぇ。ここにいる全員でかかっても勝てるかどうか」
「それは聞き捨てなりませんわ。このわたくしなら一人でも倒してご覧に差し上げます」
ハーナの言葉を聞き、アリアは不機嫌そうにそう言った。
「戦ったことあんのかい?」
「ありませんが、勝つ自信はあります。わたくしをあなた方のような凡夫と一緒にされては困りますわ」
アリアの言葉を聞いた冒険者たちは、苛立ってアリアを睨んだ。
エミルは、
(凡夫って何?)
と馬鹿にされたことに気付かず、頭の上に?マークを浮かべていた。
「まあ、一人で倒すのは苦労しそうですし、手伝ってはいただきたいですわね。皆様はわたくしのサポートを全力で行ってほしいですわ」
「ごめんだな。俺は一人でやらせてもらう」
7位のダイドが会議で初めて口を開いた。筋骨隆々の大男である。
ダイドはそのまま立ち上がり、会議室を出て行った。
「待ってください!」
シャープが引き止めるが気にせず去っていった。
「去る者を追う気はありませんわ。わたくしのサポートをする気がない方は、個人で戦ってください」
「ま、待ってください! 連携しないとまずいことになりますよ!」
アリアの出した方針をシャープは止める。
「別にわたくし一人で倒せると言ったでしょう」
「ご、傲慢です。SSランクの魔物は格が違います。いくらアリアさんでも単独での討伐は不可能です」
「どうかしらね。先の魔王とやらも案外あっさり倒されたわ。強すぎると思い込んでるのではないかしら」
「そ、そんなことは……」
シャープは言葉に詰まる。
「どっちにしろ付け焼き刃で連携などしても逆に弱くなりかねませんわ。わたくしのサポートを全力で行うのが、一番勝率が高くなると思います」
「それは一理ありますが……」
アリアは自分の意見を譲る気はなさそうだった。シャープは説得を諦めた。
「ならアタシも抜けるよ。アタシの力はサポートには向いてないんでね。勝手にやらせてもらう」
ハーナも抜けると宣言した。
それから次々に抜けていく。
「私も勝手にやらせてもらうわ」
エミルも同じく協力はしないと決めた。高位の冒険者は我が強く、力もサポートに向いていないものが多い。
こうなるのは当然だった。
結局残ったのはシャープのみ。
冒険者会議は開かれたものの、結局あまり意味をなさずに終わった。