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魔界。
暗闇の中に、禍々しい見た目の城が聳え立っていた。
その城の最上階。
凄まじい力を持った魔物たちが集結していた。
見た目からして強そうな魔物たちだらけの中、玉座にはぱっと見普通の人間の女に見える者が腰掛けていた。
青い長髪の女だ。体は細身。鋭い目つきをしている。見た目は普通の人間のように見えるが、禍々しいオーラを放っていた。
魔物たちは彼女を見て怯えていた。圧倒的な力の差を感じているようだった。
「ま、魔王様。準備が整いました」
手下の一人が声を震わせながらそう言った。
「そうか。では行くぞ、人間界へ」
報告を聞いた後、魔王と呼ばれた女はすぐに立ち上がりそう言った。
「ライズ・プライス。貴様だけはこの手で殺してやる」
魔王は怒気を放ちながら、ゆっくりと歩き続けた。
○
「あー、最悪だ……」
朝食を済ました後、イライラしながら俺は釣りをしていた。
あれが夢なのか現実なのか、いまだに分からないが、現実だったらふざけた話である。
今は釣りをしてとにかく心を沈めよう。
『ここで速報です。グラス島にて、膨大な魔力を持った存在が確認されたようです。恐らくSSランクの魔物が出現したと見て、調査を進めています』
ラジオからニュースが流れ込んできた。
SSランクの魔物……?
そりゃまたとんでもないのが出てきたな。
魔王級の強さということになるからな。
『魔物専門家のロット先生。今回の件についてどう思われますか?』
『計測された魔力からすると、とてつもない力を持った魔物であることは間違い無いかと。今は計測に魔力反応が見られず、魔力を隠していると推測されます。高い知恵を持っている可能性が高いですね』
『誤計測の可能性はないのでしょうか?』
『そうですね……可能性はゼロではないですが、誤計測が起こる可能性は極めて低いです。もしSSランクの魔物であれば、世界的な危機が訪れます。計測結果は正しいということを前提として早めに対処したほうがいいでしょう』
割と冷静にニュースを伝えているが、緊迫感が伝わってくる。SSランクの魔物というのは非常に危険な存在だ。
下手したら世界が滅ぼされてしまうかもしれない。
『しかし、SSランクの魔物となると、対処は可能なのでしょうか?』
『冒険者たちの力を借りても、厳しいかもしれません。前回の魔王ベルゼブブは、勇者リオン殿の力で撃退しましたが、リオン殿は現在何をしているのか分かりません。果たして倒せるかは分かりませんね』
リオン……懐かしい名前だ。
魔王討伐は俺がやったのだが、表向きは俺の所属していた勇者パーティー全員の力で行ったということになっている。
そして、世間的には主に勇者リオンの力で達成したことになっているだろう。
まあ、リオンはかなりの天才だったので、俺が倒さなくても今頃魔王を討伐できるほどの力を持っていたかもしれない。
パーティーメンバーとして一緒に戦っていたころは、リオンはまだ10歳だった。それでも俺やほかのパーティーメンバーと引けを取らないくらい強かったからな。
顔はかなりの美少年だった。今は相当イケメンになっているだろう。
ニュースでリオンが何をしているか分からないと言っていたが、俺も知らない。
魔王を倒してから、パーティーは解散した。
それ以降、パーティーメンバーとは会っていない。
俺が瞬殺してから、何故か気まずくなってしまったからだ。
冒険者として活躍しているというわけでもないので、元パーティーメンバーがどこで何をしているのか全く知らなかった。
俺の住んでいる国では実力者は冒険者になることが多いが、強制ではないので力を持っても冒険者になっていないものもいる。俺もその一人だしな。
それに他の国にいるという可能性もある。他国では冒険者制度がない国も多い。他国に行かれたら何をしているかは、全くわからない。
リオンは簡単にくたばるような奴ではないので、今もどこかで元気にやっているだろう。
「ねぇ! ライズ! 聞いた!! SSランクの魔物が出たって!!」
混乱した様子のエミルがそう叫んだ。
そうだ。思い出に浸って忘れていたが、SSランクの魔物が出たんだった。
正直大大ニュースではあるが、俺はあっさり魔王を倒した過去があるし、正直今回も同じように倒せば良いだけだと思っているので、慌ててはいなかった。
「そうらしいな」
「な、何よその反応! めっちゃ大変なことよ!」
エミルはめちゃくちゃ慌てていた。彼女の反応の方が自然ではある。
「とにかく緊急招集がかかったから、急いで冒険者ギルドに向かうわ!」
エミルはそう言って慌てて飛んで行った。
冒険者は割と個人が自由に魔物を倒したり、冒険したりしているが、流石にSSランクの魔物出現ともなると、連携を取らざるを得ないだろう。
今回のSSランクの魔物が悪いやつは限らないが、もし悪いやつだった場合は、俺が対処しないと中々倒すのは難しいだろう。
魔王が出たのはグラス島か……
結構大きめの島だったはずだ。人は少数しか住んでおらず、自然豊かな場所である。
未知の魚も色々釣れるかもしれないし、旅行がてら行ってくるか。
シーラも連れて行かないとな。
グラス島に行くと伝えたところ、シーラも行くと返答があった。
俺は準備を整え、グラス島へと向かった。




