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 グラーを退治した翌日の早朝、俺はベッドから起き上がり窓を開けた。

 気持ちのいい日の光が体に降り注ぐ。

 天気は清々しいほどの晴れだった。

 そして、心地よい気温の風が吹き込んでくる。


 時間を確認する。


 この世界には魔法で作られた時計がある。

 その時計が俺の家に置いてある。

 大きく背の高い時計だ。

 時間は地球と同じ。

 1日が二十四時間で、1年は365日である。

 時計の仕組みも、地球と同じだ。

 長針が6、短針が7を指しているので、現在の時刻は7時30分である。

 ちなみに月も十二ヶ月でさらに季節も春夏秋冬の4つ。

 月別の気候も日本と同じなので、かなりわかりやすい。

 違うのは雨季は9月にあるということだけか。


 現在の日にちは、5月9日。

 過ごしやすい気温の季節である。

 さて、朝飯を食うか。

 この世界に米はなくパンしかない。

 そもそも俺はパン派だ。

 元々あまり米は食わない。

 なので特に不便はなかった。

 今日の朝もパンにしよう。

 それで、おかずは魚にするか。


 俺は家にある食料庫に行き、魚を取ってくる。

 食料庫には大量の食料が入っている。

 かなり前から保管されている食料もあるが、腐っている食料はない。

 この世界には保存魔法という、食料の腐敗を防ぐ便利な魔法がある。

 結構高度な魔法なので、使えるものは限られている。

 俺は十四歳くらいの時に覚えた。

 魚を一匹取って来くる。

「スラズ」と呼ばれている魚で、鮭に味はよく似ている。


 夏頃に釣れる魚だ。昨年の夏に自分で釣った。

 包丁を手に取り、3枚に下ろす。

 そして切り身に切り分けていく。

 結構でかい魚なので、15切れ出来た。

 朝はそれほど食べるタイプではない。

 俺は一枚だけとり、残りは箱にしまう。

 保存魔法の効果は切れていない。

 なので、適当に保存しても腐ることはない。


 俺は切り身に塩を振る。

 その後、小麦粉を切り身の両面にまぶす。

 そして、フライパンを取り出す。

 フライパンの上にバターを適量置く。

 真ん中に穴が空いている鉄の台を用意。

 その上にフライパンを置く。

 左手を台の下にやり、


「スモールファイア」


 と言って、小さな火を起こす魔法を使用する。

 火の強さを間違えて、フライパンを溶かしてしまったことが過去にあるので、魔法は慎重に使用する。魔法の調節は必死で練習して習得した。

 火を起こしたあと、空いている右手で自作の菜箸を持つ。

 それを使い、バターをフライパン全面に引く。

 切り身をフライパンで焼く。

 いい感じの火力を保ちながら、しばらく焼き続ける。

 頃合いを見て、菜箸で切り身を裏返す。

 おいしそうなきつね色だ。

 もう片方も焼き終わったら火を止める。

 フライパンから切り身を銀の皿に移す。


 そして、以前苦労して作成したタルタルソースを付ける。

 スラズのムニエルの完成だ。

 いい匂いがする。かなり美味しそうだ。

 我ながらよくできたと思う。

 パンと一緒にムニエルを食べる。


 うまい。


 いい感じに小麦粉が魚の旨味を閉じ込めてくれている。

 タルタルソースともよく合う。

 完食した。美味しかった。

 満腹というほど腹は膨れていないが、朝はこのくらいが丁度いい。


 さて、朝食をとった後、何をしようか。

 する事と言っても、釣りをするか何か作ってみるかくらいだ。

 今日は天気もいい感じだし、釣りでもしよう。

 俺は釣具の準備をする。

 釣り竿と糸、針、魚を入れるための箱を用意する。

 それと自作ルアー。


 ルアーはスライムの死骸を加工して作ることが出来る。 

釣り竿や糸は針、日本にあるものと遜色がない。

 糸は見つかりにくく、細く、丈夫だ。

 針は返しが付いており、抜けにくい。

 釣り竿はよくしなり、リールまで付いている。

 この釣り具を作成するのに、涙ぐましい努力があるのだが、長くなるので説明はしない。


 そうだ、これも持っていかないとな。

 俺が手に取ったのは、灰色の筒のような形状をしているものだ。

 表面に、魔法文字ルーンがびっしりと書かれている。

 これは遠くに音を届ける魔法を受信するための装置だ。

 魔法で出来たラジオといえば、わかりやすいだろう。

 正式名称は、音魔法受信具だが、俺は普通にラジオと呼んでいる。

 ラジオには色んなチャンネルがある。


 地球にあったラジオのように、周波数みたいなものがあって、それに合わせて様々な番組をやっていた。「魔物速報」という機能もある。 

 ラジオを聞いていなくても、近くにゲートが発生し、魔物が出現した場合、それを知らせてくれる機能だ。

 町の近く以外のゲートは、速報されない。

 やばそうな奴が近くに現れた時はすぐ行けるよう、常に持っておく必要がある。

 もっとも、そこまで頻繁に強力な魔物は出てこない。

 一ヶ月で一回あれば多い方である。


 釣り道具、ラジオなどを持ち外に出た。

 俺の住む家は湖の近くに建っている。

 アブロ湖という名だ。大きさはそこそこ。周りは自然豊かで綺麗な湖だ。

 しかし、少し標高が高い場所にあり、交通の便が悪く、魔物のゲートが比較的空きやすい場所として知られているので、人は俺以外住んでいない。

 魔物が出ても倒せばいいだけなので、俺は問題ない。


 俺は湖に向かって歩く。

 心地の良い風が頬を撫でる。

 今は5月9日、過ごしやすい季節だ。

 5月9日といえば、前世ではゴールデンウィーク明けくらいだ。

 いつも憂鬱になっていたが、今では心地の良い気温が気持ちいいばかりである。


 湖に到着。


 桟橋に向かう。自分で作った桟橋だ。

 桟橋の近くには小舟が浮かんでいる。

 これも自分で作った。

 釣りは桟橋からか、小船に乗るかどちらかで行う。

 今日は桟橋から釣るか。

 狙いはピネールにしよう。

 ポピュラーな淡水魚だ。

 5月が旬の魚で、鯉に似ている。


 意外とおいしい。


 釣り具の準備を終えて、ルアーを湖に投げ入れる。

 ついでにラジオにもスイッチを入れる。

 ニュースをやっており、あまり関心を惹くようなことは、言っていなかった。

 興味のないニュースだったので、逆に釣りに集中できる。

 釣竿を揺らしたりしながら、魚がかかるのをひたすら待つ。

 魚釣りは退屈な趣味だとよく言われている。

 しかしこう見えて色々テクニックがいる。

 嵌ったら抜け出せなくなる趣味である。

 異世界独自の気を配る要素などもあるため、地球での釣りともまた違った楽しさもある。


 ……まあ、日本にいたころ釣りは数えるくらいしかやったことないけど。

 釣り糸を垂らしながら1時間経過。


 釣れないなぁ……


 1時間待っても一匹もかからない。

 そんなもんだ釣りは。

 忍耐が大事なのである。

 でも、ちょっと眠くなってきた。

 ふわ~、と俺はあくびをする。

 その時、


「あ?」


 湖の上に黒い渦『ゲート』が出現している。

 俺の視界の左側にある。結構遠くにあるようだ。

 ゲートは魔物が、魔界から出現する時に開く穴である。

 弱い魔物が出るときは穴が小さく、強くなればなるほど大きくなる。


 あのゲートは大きい。


 恐らく、『Aランク』くらいの強さの魔物が出てくるか。


 魔物はSS~Gまでランク分けがされている。

 Aランクは街一つ滅ぼしかねないくらいの強さを持っている魔物で、非常に危険な存在である。


  それより上のSランク、SSランクは出てきたら、世界規模の危機に陥る。

まあ、俺はそのSSランクの魔物であった、魔王を一撃で倒してしまったわけだが……


 Bランク以上の魔物は、人間並みの知能を持っており、さらに『存在名』を持っている。

 存在名とは魔物の自身の在り方や特性を示す名前である。

 俺が昨日倒したグラーの場合は『大暴食』だ。

 恐らく食べることに関する技を使う奴だったのだろうが、瞬殺したため見ることは出来なかった。


 ゲートは発生してから2分くらいで出てくる。

 今、1分経ってるので、後1分で出てくるだろう。

 ちなみにラジオは無反応。

 日本の地震警報のように、揺れる前から速報が来るなんてことはない。

 ゲートを探している巡回兵という者たちがいて、そいつらがゲートか魔物を発見すると、速報が流れる。


 なので、辺境に発生したゲートは、速報として出ない。

 街に出た場合は速報が出る。

 今回は俺の目の前に出てきたので、ラジオで速報が流れることはないがな。

 この湖は魔物が出ることが多いというのは事実で、何度も出て来ては俺が倒している。

 出来るだけ人目に触れず、魔物を処理したいとは思っているので、そういう面から見てもこの湖は良い場所だった。

 たまに悪党じゃない魔物出てくる。今回もそうかもしれな。

 もしそうだった時は見逃す。

 Bランク以上の魔物には割といい奴がいるからな。


 そういう奴は、人間に混じって社会生活を送っていたりもする。

 もうすぐ出てくるころかな。

 あくまで釣りはやめず俺はゲートを眺めていた。


 その時、

 いきなり雷の音が鳴り響いた。

 物凄く近い。

 俺の真後ろくらいだ。

 いきなりの轟音に心臓が飛び出すくらい驚く。

 思わず釣り竿を落としてしまうところだった。


 な、何だ? 今日は快晴のはずだぞ。

 雷なんてなるわけが……


 そう思って後ろを振り向く。

 すると、そこに何者かが立っていた。


 長い金髪の女だ。


「エミル・トール! 見参したわ!」


 その女は持っていた剣を掲げながら、そう言い放った。

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