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ここは……
俺は気づいたら真っ白い空間にいた。
「こんにちは」
背後から声が聞こえた。若い女の声だ。振り向いて確認する。
巨大な3mくらいはありそうな女が立っていた。
髪は緑。顔は作り物みたいに整っている。煌びやかな服を身につけていた。
何だか神々しさを感じる。
な、なんだこいつは……
「私は秩序を司る神でございます。お話があるため、ライズ様の夢の中にお邪魔させていただきました」
「神……?」
以前にも神と名乗るやつにあったことがある。
嫌な思い出しかないが、そいつと同じ存在だということか。
「神が何の用だ」
「実は……大変残念なお知らせですが、あなたには間違った転生特典をつけしまったようでして……一旦今の転生特典を無かったことにして、改めて新しい物をつけさせていただきたいのです」
「な、なに……!?」
耳を疑うような提案だった。
今の転生特典をなかったことに……!!
そして新しい転生特典!?
レベル9999じゃなくなるのか?
い、いや待て……
どうせ新しい転生特典とやらもチートに決まっている。
レベルはいつもと同じだが、経験値が入りやすくなって、一瞬でレベル9999になるとか。
もしくは、目で相手を見ただけで、殺せてしまうとか。
そんな力を貰うことになるに違いない……
「その新しい転生特典とやらは何なんだ」
「そ、それは料理が上手になる……です」
神はいいづらそうに言った。
「美味しい料理を作って、人のお腹を満たすことで、仲間を作りやすくなる……はずです! レベル9999になるという特典に比べると、見劣りするかもしれませんが、それで優秀な仲間を味方につければ、十分無双できるはずです!」
焦った口調で神はいう。
りょ、料理がちょっと上手になる?
そ、そんなの大して使えない能力じゃないか!
確かに美味しい料理を作れば、人を喜ばせられるかもしれないが、コミュ障気味の俺が、その程度で仲間に恵まれるとは思えない。
強くなるには前のように修行が必須だ。
それに美味い料理を作れれば、食生活も豊かになるし良いこと尽くめだ!
やっとチート能力から解放される。
嬉しさが心から込み上げてきた。
「あ、申し訳ありません……」
神が謝ってきた。
俺は自分の両目からいつの間にか涙が出ていることに気づいた。
嬉しすぎて泣いていたのだろう。
神はチートを取り上げられることが嫌だと思って泣いてると、勘違いしているようだ。
「早速レベルを下げてくれ!!」
「……ええ!? あれ? 嬉しそう!?」
俺がそう言うと神は驚いた。
「ま、まあ、抵抗されないならこちらもやりやすいです。それではレベルをさげさせて……」
「先輩! 待ってください!!」
突然、ほかの声が聞こえてきた。
幼女のように高い声である。
「その人じゃないです! その人の転生特典は正常です!! 別の人です!!」
「え!? 本当ですか!?」
「間に合ってよかったです!! 早くやめてください!」
幼女の声は必死な様子でそう言った。
「ど、どうやら手違いがあったようです。あなたの転生特典はそのままでございます」
「……」
「引き続き楽しいチートライフをお送りください!」
にっこりと神はそう言った。
「ま……待てええええええ!!!!」
夢から目覚めた。
俺は天井に向かって手を伸ばしていた。
ただの夢?
俺の願望が見せた夢?
いや。
本能が言う。
夢に出てきた神は本物だった。
「クソガアアアアア!! 期待させやがって!!」
心の底から俺は叫んだ。
人生最悪の目覚めだった。