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「ぐ…………」
アルバスはうつむきうなり声をあげた。
拷問の恐怖に負け、邪神を復活させる方法を全てしゃべってしまった。
方法を知ったリーグはすぐに邪神復活の儀式を始めた。
(どうする? このままだとすぐ復活するぞ……? 魔物の血さえあれば、復
活の儀式にはそれほど時間はかからない……)
操ることのできない邪神を復活させられたら、もちろん自分も死ぬ。
儀式を完遂されるまで、何とかする方法を頭をフル回転させて考えていたが、取り押さえられている現状どうすることも出来ない。
「ふはははは! ついに! ついに蘇る! 邪神ラクトーアが!!」
リーグが狂喜しながらそう叫んだ。
(ま、まずい!!)
とてつもない魔力が解放されたのをアルバスは感じ取った。
「お……終わった……」
邪神ラクトーア復活の儀式は完了した。そう、直感で思った。
凄まじい魔力を持った存在を上から感じる。
とてもじゃないが、人間に叶う相手ではない。
人間どころか魔物でも叶うものはいないだろう。
アルバスは感覚がそう告げていた。
「……なに!?」
数秒後、リーグの驚愕したような声が響き渡る。
なぜ彼が驚いたか、アルバスもすぐに原因に気づいた。
「邪神の魔力が……消えた……!?」
先ほどまで感じていたとんでもない魔力が一瞬にして消滅した。
(どういうことだ? 儀式に失敗した!?)
アルバスは困惑する。
「な、なぜだ……なぜだぁ……?」
リーグがこれ以上ないというくらい困惑していた。
「あれ?」「俺は……」
先ほどまでリーグが操っていた党員たちが、正気を取り戻したようにそう言った。
どうやらリーグは動揺して、魔法を解いてしまったようだ。
がっくりと肩を落としているリーグ。茫然自失という状態だった。
(今のうちに!)
邪神の復活には失敗したようだが、リーグを倒しておかなければ、腹いせにここにいる人間全員を皆殺しにしかねない。
Bランクの魔物は一対一では基本は勝てないが、隙だらけの状況なら倒せるかもしれない。
「闇槍!」
アルバスは自分が使える最強の魔法を使用した。
鋭い黒い槍が、リーグの背中に突き刺さる。
「ぐあ!」
ほかの党員も、アルバスの考えに気づき、一斉に魔法をリーグに放ち始めた。
アルバスの魔法一撃では倒しきれていなかったようだが、数十人いる党員の魔法は流石に耐えきれないようだ。
リーグは力なく倒れ伏した。
(た、倒したのか?)
アルバスは、倒れているリーグに近づく。
間違いなく死んでいることを確認した。
(リーグは死んだか……しかし、これからどうする? 本当に邪神復活の儀式は失敗したのか?)
邪神復活が本当に失敗したのか、アルバスは不安だった。
魔力は依然消滅したままだが、この目で邪神がいないことを確認しないことには、安心はできない。
アルバスは党員たちに周辺の捜索を命じる。
自分も外に出て、状況の確認を行うことにした。
外に出る。アジトの真上は海である。
アルバスは魔法を使って、海の上に浮遊した。
周辺を捜索するが何もいない。
アルバスは捜索を続ける。近くのビーチへと向かった。
ビーチでは何やら肉が振る舞われていた。
海水浴をしているものたちは、特に被害を受けた様子はなく、楽しそうにはしゃいでいる。
肉は魔法を使って焼かれているようだ。魔法を使って男が肉を焼いている。
パッと見ただけで、中々の腕を持った魔法使いであると、アルバスは理解した。
(しかし……この肉……)
アルバスは肉に違和感を覚えた。
ただの魚や動物の肉ではない。
じっと見つめて観察していると、
「食べるか?」
と肉を焼いていた者に渡された。
思わず受け取り、間近で観察する。
「解析」
肉の正体が気になったので、アルバスは魔法で調べることにした。
解析を使用すれば、どんな生物だったのか調べることができる。
「なっ!!?」
解析結果を受けて、思わず大声を上げた。
(この肉は生前は圧倒的な力を持っていた……! 魔王級……いや、それを超えるくらいの力……まさか……)
それだけ強い力を持つ存在に、アルバスは心当たりがあった。
(邪神!?!?)
解析結果を信じるなら、これが邪神の肉である可能性が高かった。
「お、おい」
アルバスは肉を焼いている男に話しかけた。
「何だ?」
「この肉は何の肉だ?」
「さあ……デカい鮫が海にいたから、殺して取ってきたんだ」
「デ、デカい鮫……確か、邪神は文献では鮫のような頭をしていたと」
「何ブツブツ言ってるんだ?」
つぶやくアルバスを男は不審な目で見る。
「倒したのは君なのか?」
「そうだ」
男は頷いた。
「……」
アルバスはしばらく放心状態になる。
邪神を倒せる存在。
とんでもない強さを持っていることは間違いなかった。
能力の高い魔導師には見えるとはいえ、そこまで強い力は感じない。
邪神を倒したと言うのが本当なら、本当の力を隠しているのだろうとアルバスは思った。
「……もう真面目に生きるか」
もはやどうでも良くなってきたアルバスは、肉を一切れ食べてそう思った。