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「いい? さっきのことは忘れなさい!!」
俺たちは陸に戻った。胸を見られてしまったことで、エミルがぶち切れていた。
「分かった分かった」
そう言うが、忘れるわけない。
間近くに大きな胸が二つ。
形もよく、肌も白くて綺麗。素晴らしい光景と思うしかなかった。
い、いかん、考えていたら、股間が反応してしまう。
俺は何とか邪念を振り払う。
「俺はこれから釣りに行くが、お前らも来るか?」
「シーラ眠いからお昼寝する」
あくびをしながらシーラはそう言った。
魔物は寝たり食べたりは人間と同じくする奴もいれば、しない奴もいる。
シーラは生活に関しては人間とあまり変わらないようだ。
「シーラの面倒は私が見とくわ」
エミルがそう言った。若干眠そうである。一緒に寝たいだけだろ。
シーラと離れるのは微妙に不安だが、まあ、彼女の様子ならいきなり暴れ出したりはしないだろ。
仮にそうなってもエミルがいるなら、何とかなるはずだ。
エミルも高位の冒険者である。シーラがいくら強いとはいえ、瞬殺されるほど力の差はないはずだ。
俺がシーラを止めに行くまでの時間稼ぎくらいは出来るはず。
俺は釣り道具を持ち、二人と別れ釣り場へと向かった。
ビーチから少し離れた場所に釣り場はあった……のだが、人が多すぎる。
デルルを釣ろうとしている釣り人が集まっているというのは、本当の話のようだ。
人が多すぎてここで釣るのは難しそうだな。
よし。
俺は水上歩行の魔法を使う。
海の上を歩いていく。
釣り人たちから驚きの視線が来る。
水上歩行という魔法は意外と習得難易度が高い。相当ハイレベルな魔導士しか使えないうえに、使えたところでメリットも少ない。覚えている奴は少数派だった。
そもそも魔法使えないやつも結構多いしな。
これは完全な偏見だが、釣りが趣味の奴に魔法使える奴はあんまり多くなさそうだ。
驚く釣り人たちをしり目に、俺は沖の方へと向かって歩く。
デルルはどのあたりで釣れるんだろう?
生態が分かっていない謎の魚である。浅瀬にいたという報告もあれば、沖にいたという報告もある。
今回ビーチ付近で見つかったという報告があったが、すでに遠くまで行ってしまった可能性もある。
浅瀬でこれだけの人間が釣っているのに、まだ釣りあがっていないということは、いる可能性は低いし、ちょっと沖まで出てみるか。
渦潮が発生するとかいうニュースもあったが、そんなのに飲まれて死ぬことはないだろう。
俺は気にせずに海上を歩き、沖へ向かった。