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「はぁ……はぁ……」
エミルはシーラドームのボスと戦い、苦戦を強いられていた。
ボスは大きな馬である。
体高は3mを越すくらいだ。ほかの敵と同じく、変わったマーブル模様である。
その馬には大きな槍を持った、人型の敵がまたがっていた。
「ひひひーーーん!!」
馬は大きく鳴き声をあげ、エミルに向かって突進してくる。
馬上の敵が槍を振り回し、エミルに斬りかかる。
何とかガードする。
馬が前足を大きく上げる。
すると、馬上の人型の敵が形状を変えた。
槍じゃなくて弓を持っていた。
矢を放ってくるので、エミルは何とか避ける。
馬が本体で、乗っている人型の敵は、馬の能力で出しているようだ。
攻撃手段がどんどん変わっていくのは、ブラシドと一緒である。
だが、攻撃一つ一つの威力が高く、さらに馬なので機動力が高い。
上位互換と言ってよかった。
(雷轟化を使うしかないわね……でも……体は果たしてもつ!?)
エミルの奥の手『雷轟化(らいごうか』は、自身の雷轟剣を体に取り込み、その力と一体となるわざである。
スピードが圧倒的に伸びる上に、技の威力も上がる。思考のスピードまで上がるので、体の動きに頭がついていかないということも起こらない。
雷轟化を使うのは体の負担が非常に大きく、一度使うとかなり消耗してしまう。
今まで一日一度以上は使ったことがなく、二回目の使用は避けていた。
(でも、やるしかないわね)
エミルは雷轟剣口から飲み込み、雷轟化を発動。全身が雷となった。
(本体は馬!)
物凄い速度で動きエミルは馬の首を斬り落とそうとする。
がぃーん、と硬いものに当たる男が鳴り響いた。
首には当たったはずだが、硬すぎて切り落とせなかった。
「くっ!」
一度では効かなかったかと、エミルはもう一度斬りかかる。
しかし、二度目は斬れなかった。
馬上の敵に矢を射られる。
エミルはその様子を見て、咄嗟に反応。斬るのをやめ、後ろに全力で下がった。
敵は矢を連射してくる。
威力は中々のようだが、雷轟化状態のエミルに当たるような攻撃ではない。
華麗に避けつつ、後退する。
(首は斬れない……なら!」
エミルは今度は足を狙う。
前足を斬る。
今度は斬ることに成功した。前脚を二本失った馬は、前方に倒れ込む。
「よし!」
相手の動きを封じたので、あとは弱点を探して、そこを斬るのみ。エミルは一旦下がり、馬のどこに弱点があるか観察する。
すると、馬上の人型が再び姿を変えた。
ローブをかぶり長い杖を持っている。
魔術師のような姿だ。
杖を掲げる。馬が白い光に包まれた。
すると、足が復活した。
回復魔法を使用したようだ。
「ちっ」
エミルは苛立ち、舌打ちをする。
雷轟化を使用しているエミルには、戦える時間には限りがある。早く決着を付けたかったが、そう簡単にはいかないようだ。
再び馬上の魔術師が杖を掲げた。
その後、振り下ろし、地面に杖の先を叩きつける。
衝撃波が発生。
『魔波動』である。広範囲を攻撃する魔法だ。
かなり早く避けるのは非常に困難だが、威力は弱く、体勢を崩させるのがやっとだ。よっぽど強い魔力の持ち主でない限り、他者を傷つけることはできない。
「ぐっ!」
エミルは回避することができず、よろめいて転倒する。
痛みはあまりないが、体勢をくずされてしまった。
再び敵は魔法を使用。
燃える岩が頭上から降り注ぐ。
岩は地面に当たると、大爆発した。
『隕石』という、最上級魔法である。
何とか体勢を立て直し、エミルは爆発を避けていく。
「く……」
雷轟化を二度使った影響で、体の動きが鈍くなってきた。
完全には避けきれず、爆風に巻き込まれ、エミルは吹き飛ぶ。
「ぐぅぁ!!」
地面に叩きつけられ、痛みで悶絶する。雷轟化も解けてしまった。
「く……」
何とか立ち上がって、エミルは雷轟剣を構える。
敵は魔法を使おうとしていた。
直撃したら死は避けられない。
しかし、今のエミルに避けるだけの体力は残されていない。
(し、死ぬの……?)
敵の杖の先に魔力が溜まっていく。
エミルは死を覚悟した。
その時、
「魔弾」
聞き覚えのある声が背後からしたと思ったら、強力な魔弾が飛んできて、敵に直撃。
一瞬にして黒い靄となって消えていった。