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俺はシーラが建てた城の頂上に到着した。
城を登る際、変な敵やらアトラクションやらがあったが、あっさり突破してすぐに到着した。
「もう来ちゃったんだ。もっと楽しんで来ればよかったのに」
シーラがニヤニヤと微笑みながら佇んでいた。頂上にいると言うのは本当だったみたいだ。
……まあ、こいつが本物のシーラだったらだが。
俺に魔力で敵の強さは測れないし、本物かは戦ってみるしかないな。
「大丈夫。安心して、本物だよ」
俺の言いたいことを察したのか、シーラはそう言ってきた。
「そうか。じゃあ、さっさと着いてきて、湖を元に戻しやがれ」
「シーラ、何言ってるか分からないよ〜」
とすっとぼけやがる。
やはり捕まえるしかなさそうだな。
「お兄ちゃん強そうだから、楽しく遊べそうだね。『創造』」
シーラは手を上に掲げた。
魔力が集まっている。シーラの頭上に、変な模様の爆弾が完成した。
「ぽいっ!」
爆弾を俺に向かって躊躇なく投げてきた。
飛んできて爆発する。中々の威力だが、当然俺は無傷。
爆発した後、大量の黒いぬいぐるみが出てくる。どうやら爆弾の中に入っていたようだ。
一斉に襲いかかってくる。
「魔波動」
周囲に魔法の衝撃波を放つ中級魔法を使用した。
衝撃波をくらい、俺に襲いかかって来たぬいぐるみたちは全て消滅する。
「わぁ……一瞬……」
先ほどまで余裕そうな表情だったシーラだが、少し動揺しているように見える。
俺は一瞬でシーラとの距離を詰めた。
「!?」
あまりの速さに、シーラは驚いて目を見開く。
「魔縛」
魔法の縄を作成。シーラを縛った。
「む……むむむぅ!」
シーラは力で縄を引きちぎろうとするが、切れない。
恐らくシーラクラスの魔物なら、相当な力を持っているだろうが、それでも俺の魔縛から逃れるのは不可能だ。
「無駄だ。観念しろ」
「…………」
シーラは俯く。泣いているのか?
見た目通り中身もガキだし、仕方ない……
「凄いお兄ちゃん! めっちゃ強いんだね!!」
悲しんでると思ったが、目を輝かせせてそう言った。
「今までシーラが近づいたら、皆逃げていってたから、捕まえるなんてお兄ちゃんすごい!」
なぜか興奮している。捕まったことに対して、恐怖心はないようだ。
近づいたら皆逃げると言うのは、恐らく魔界での話をしているのだろうか。
シーラクラスの魔物は、魔界でも多分少ないのだろう。近づけば逃げられるのも当然だな。
「あっちの世界は退屈で人間さんたちのいる世界に行って遊びたいと思ってたけど、来て正解だったな〜。お兄ちゃんもっとシーラと遊んでよ!」
縛られているのに無邪気でシーラはそう言う。
「この縛るのがお兄ちゃん楽しいの? わかった! いっぱい縛ってね!」
「ま、待て! 違う!」
変な趣味を持っていると誤解されそうになった。思わず俺は束縛を解いてしまう。
逃げられるかもと思ったが、逃げたりはせず、俺の手を握ってきた。
「どこか遊びに行こうよ~。シーラね、もっと面白いもの作ったんだ!」
嬉しそうな様子でシーラはそういう。
「ちょっと待て、一旦話をさせろ」
「お話? いいよ! いっぱいお話ししよう!」
シーラは笑顔でそう言った。こうしてみると、ただのかわいい女の子である。魔物であるという感じは全くない。
「お前は何で変な建物を作って回ってるんだ?」
「変じゃないよ~。もちろん人間さんたちと仲よく遊ぶためだよ?」
「遊ぶため? 明らかに殺しにかかってるだろ」
普通の人間がこのシーラ城に迷い込んでいたら、間違いなく死んでいる。
何なら結構強い冒険者とかでも、死んでいるだろう。
「えー? 死ぬわけないよこの程度で! お兄ちゃんも生きてるじゃん!」
「俺は別だ! 普通の人間なら確実に死んでたぞ!」
「ええー本当? 死んじゃったら痛いし楽しめないよね……」
シーラはしょんぼりしている。
どうも悪気はなさそうだな。やってることはやばいことではあるが。
俺が初めての客とか言ってた気がするし、自分のやってることが人間にとってどれだけ危険なことなのか理解していないのだろうな。
しょんぼりしている様子を見ると、流石に退治するのは気がひけるな。
「じゃあ、作り直しもっと簡単なのにしたら、人間さんたちに遊んでもらえるかな?」
「た、多分な」
デザインの時点であんま人間は立ち寄らないと思っていたが、正直には言わずに誤魔化した。
「でも今はお兄ちゃんと遊んでもらえればいいかな!!」
「そ、そうか」
俺と遊べればいいと言うことは、ほかの建物はもう作らないと言うことか?
その方がいいだろう。流石にこのまま建造物を作り続ければ、人間の冒険者が退治しにやってくるだろう。
シーラの強さを考えると、簡単にはやられないだろうが、冒険者も決してひ弱な存在ではない。
特にトップの冒険者は人類最強と言われているらしい。俺を除いてではあるが……
「俺の名前はお兄ちゃんじゃなくてライズだ。よろしくな」
ずっとお兄ちゃん呼ばわりされていることが気になっていたので、名を名乗った。
「ライズお兄ちゃんだね! ……言いにくいからお兄ちゃんって呼ぶね!」
「……」
結局変わらないのかよ。まあ別にいいか。
「ところでもう一人俺以外の人間がいたと思うんだがそいつがどこにいるか分かるか?」
エミルについて俺は尋ねた。やつは高位の冒険者なのでそう簡単にやられないだろうが、シーラが土龍を作っているのを考えるとどうなるかは分からない。
シーラの作った敵にやられている可能性もある。
「……あ! そういえばシーラドームに誰か来てたんだった!! その人のことかな?」
「多分そいつだ。シーラドームってのは結構難しいのか?」
「……難しいよ〜。めっちゃ強い子を作っちゃったから、流石に人間さんもこれだと痛い目見ちゃうと思って、作り直そうかなって思ってたんだ」
やたら人間が強いと思っていたシーラが、そういうということは、相当危ない場所なのでは?
少なくともシーラ城よりかは、危ない場所である可能性が高い。
「場所を教えろ。今すぐ向かう」
「分かった! でも危ないよ! お兄ちゃんも危険かも」
「大丈夫だ」
俺がやられることはないだろう。
過信ではない。事実だ。
もし、俺を倒せるほどの強敵なら嬉しいが、作成者のシーラ以上の強さはないだろう。
「でも、シーラより強いから、もしかしたらまずいかも」
「シーラより強い? 自分より強いものも作り出せるのか?」
「うん。言うこと聞かなくなることあるし、自分で消せなくなっちゃうから作りたくないんだけど。こっち来たのが嬉しくて作っちゃった。あの子はシーラの言うこと聞いてくれたから、良かったんだけど」
制限があるが自分以上に強い者も作れるのか。
相当強力な能力だな。
ただ、それが本当ならエミルは危ない。
いくら高位の冒険者とはいえ、Sランク相当の魔物の相手は、きついだろう。
「早く案内してくれ」
「はーい」
俺はシーラの案内で、エミルがいるであろう場所へと向かった。




