13
シーラの要望通り、俺はアトラクションで遊ぶことにした。
最初に乗ったのは、空飛ぶ船みたいな奴だ。
相変わらずのマーブル模様のデザインで、人が4人くらいは乗れそうなサイズの船だ。
乗ると動き出し、物凄い速度で動き始める。
上空を不規則に飛んでいく。乗り物に弱い人ならすぐに酔いそうである。
しばらくすると、
『襲撃! 襲撃! 撃退せよ!』
と無機質な声が響き渡る。
それと同時に、翼の生えたぬいぐるみたちが襲い掛かってきた。
かなりの数で100体以上はいる。
撃退せよとの事なので、俺は追尾魔弾を撃ちまくる。
飛行している敵をホーミングし、直撃していく。
一体も漏らすことなく撃退した。
『遠距離魔法攻撃感知! 防御せよ!』
今度はそう声が聞こえてきた。
炎、氷、風、雷など、様々な属性の魔法攻撃がこちらに向かって飛んできていた。
上級防壁を使用。船全体を囲う。
魔法は上級防壁に阻まれ、船には当たらない。
魔法攻撃は30秒くらい絶え間なく続いたが、全て防御する。
最後に大きめの魔法が来た。炎属性の最上級魔法、爆炎弾だ。
大きい火の球が飛んできて、上級防壁に直撃。
大爆発が起こる。
かなりの威力だったが、もちろん無傷。上級防壁で完璧に守り切った。
その後、船は地上に向かって動き出し、着地した。
降りると、スタンプを持ったぬいぐるみがいた。俺にカードを差し出すように促す。
大人しくスタンプカードを渡すと、スタンプが押された。
熊のマークのスタンプだ。顔が怖いのであまり可愛くない。
『完璧だったね。ちょっと簡単にしすぎたかな?』
「俺だから守れたが、普通の人間なら間違いなく死んでたぞ」
高位の冒険者でも無傷で防ぎ切る事は難しいだろう。そのくらいの猛攻撃だった。
『そうなの? 死にはしないと思うけど。怪我したら治してあげるし』
「いや死ぬんだよ……お前人間の耐久力分かってないな……」
人間を楽しませるためとシーラは言ってたが、どうも人間について不勉強のようだ。
このアトラクションを楽しめるのは、ごく一部の強者だけだろう。
『えーでも、完璧に守ってたよ! 人間って思ったより強いと思ったんだけど』
「俺が例外なだけだ。普通は魔物より圧倒的に弱い」
『えー、うそー』
さっきの戦いを見ても、俺が人間の中で強い方だとは思っていないみたいだ。
『まあいいわ。次のアトラクション楽しんでね!』
シーラが明るい様子でそう言った。それから俺はアトラクションに乗っていった。
基本普通の人間なら即死しているくらい危険な奴ばかり。
もちろん俺は無傷でクリアしていく。
『うーん、何かあっさりクリアしちゃってつまんないなー。もっとぎりぎりでクリアするところとか見たかったけど。お兄ちゃん本当に強いんだねー』
シーラはがっかりという口調でそう言ってきた。
「そう思ったのなら、早く俺に会え。これ以上見ても楽しめないぞ」
『うーん、あ、でも、次はお兄ちゃんでも苦戦するかも』
シーラはどうしても俺が苦戦する姿を見たいようだ。
近くにいた虎っぽいぬいぐるみが、付いてくるよう促す。
付いていくと地下に続く階段があった。そこを降りていくので、俺も降りる。
しばらく降りると広い地下空間に出た。
灰色のキリが立ち込めている場所だ。これは瘴気だ。魔物が出す人体な有害な物質である。
毒と言った方が早いかもしれない。
普通の人間はここにいるだけで苦しいだろうが、俺には特に問題はない。
下級の魔物たちが争いを繰り広げている。魔物が魔物を食べたりもしていた。
一匹、大きなハエの魔物が飛来してきた。魔弾で撃ち落とした。
『そこは疑似魔界だよ。こういうのも人間は興味あるかもと思って魔界の感じを再現してみたんだ』
疑似魔界ね。この世界に来た魔物たちの話から、魔界がどんな場所かの情報は伝わっている。
概ね情報通りのようだ。立ち込める瘴気、大量の下級の魔物。
しかし、再現してみたとは。
シーラの能力はあの気持ち悪い模様の建物やぬいぐるみを作るだけではないのか。
もしかしてこの魔物たちも、連れてきたのではなく能力で作ってみたとか。
「それで俺はこの疑似魔界で何をすればいいんだ?」
『歩くだけでいいよ。道があるでしょ? そこをずっと歩けば、一周して元の場所に戻ってくるようになってるから』
歩くだけ。まあ、途中で魔物とかが襲ってくるんだろうな。適当に歩いて蹴散らすか。
俺は魔界の道を歩き始めた。
〇
シーランド中央にそびえたつ城。
その最上階でシーラは、遠視という魔法を使い、ライズの様子を確認していた。
四角い画面が中に浮かび、そこにライズの姿が写っている。
「このお兄ちゃん強いけど、流石に今回は危なくなるでしょ」
ニヤニヤとシーラは笑みを浮かべる。
「来た。土龍」
画面の中には、巨大な蛇が出てきて、それをライズがじっと見ている映像が流される。
龍種は魔物の一種だ。
魔物は格が高くなるほど、人間に近い見た目になり知能も高くなっていく。
人間から離れた姿形をしている魔物は、基本的にそこまで強くないのだが龍種は例外だった。
見た目は巨大な蛇やトカゲなので、人間からは遠くかけ離れているが、凄まじい力を持っている。
パワーや防御力などの単純なスペックでは、Aランクの魔物よりかなり高い。
龍種は知能は低いので、工夫して戦えばAランクの魔物でも勝ち目はある。
ただ、簡単に勝つことは不可能だった。
シーラは苦戦するだろうと思って遠視を見ていた。
ライズは魔弾を一発使う。
すると、土龍の頭は弾け飛んだ。
土龍は本物ではなく、シーラの能力で作ったものなので、黒い靄となって死体を残さず消滅した。
「な……」
流石にシーラは驚いた。
一撃で倒されるとは流石に想定していなかったからだ。
「……むー、もっと楽しめると思ったのになー」
ここもあっさりクリアされるのかと思い、シーラは頬を膨らませた。
もっと苦労しながら攻略している様子が見たかっただけに、拍子抜けだった。
「でも、あの人相当強そうだし、シーラが直接遊んであげても壊れないかも。会ってあげよっか」
シーラは不敵な笑みを浮かべた。
土龍を一撃で倒したライズを見ても、自分の方が弱いとは考えていなかった。
シーラはライズが擬似魔界の道を一周するのを見届けた。