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「そ、そんなに大事なのこの湖」
「もちろんだ。ここ以上の釣りスポットは中々ないからな」
釣りをしていた場所に戻り、ラジオをつけようとする。
何か情報を聞けるかもしれない。
「犯人捜しをするの?」
「ああ。とっ捕まえて、あの湖を元に戻させてやる」
「……もしかしたら私、犯人が分かったかもしれないわ」
「何?」
エミルは高位の冒険者だ。
もしかしたら俺の知らない魔物の情報を知っているかもしれない。
「教えてくれ」
「……あの、奇妙な塔と、あの爆発……あんな魔法があるとは私は聞いたことないし……そこで思ったんだけど……あれは……魔物の仕業だと思うの」
「……何の魔物だ?」
「そこまでは分からないわよ。でも、魔物の仕業なのは間違いないわね」
まるで世紀の大発見をしたかの様な、得意げな表情を浮かべながらエミルは言った。
「あのな……その程度の事は誰だって分かんだよ」
「え? まさか気づいてたの?」
「当たり前だ。だからラジオを聞こうとしてたんだろ」
「さ、流石ライズね……ってあれ? 音魔法受信具の事らじおって呼んでるの? そんな呼び方があるのね。知らなかった」
ラジオというのは、前世の知識からそう呼んでいるので、俺以外に同じ呼び方をする者はいない。
しかし、エミルに期待した俺が馬鹿だった。
無駄に時間を使ってしまった。
もしかしたら、今の無駄な会話をしているうちに、求めている情報を聞き逃してしまったかもしれない。
慌ててラジオをつける。
ラジオを操作し、ニュース番組をやっているチャンネルに、周波数を合わせた。
『えー続いては、最近起こっている変わった事件の情報です。ここ最近、各地で奇妙な模様の建物が数件見つかっております。今のところ中に入った人もおらず、特に被害も出ておりませんが、この建物は高位の魔物が建造した物であるという疑いがあります。危険ですのでもし見かけても入らないようにしてください。また、冒険者の皆様は分かっているとは思われますが、魔物の建造物に侵入するのは、相手のテリトリーに入ることとなり、大変危険です。建物を建造した魔物はAランク以上である可能性が高いので、よほど腕に覚えのある高位の冒険者様以外は、立ち入らないようにしてください』
これは……
間違いない。湖にオブジェを立てた魔物だ。
まだ被害は出ていないので、魔物速報は出ていないようだが、気持ち悪い建物を各地に建てたということで、ニュースにはなったようだ。
それから、建造物が見つかった場所が読み上げられる。
俺はそれを紙に書き残した。
ここから結構近い場所だった。
湖に塔を建て魔物と、同じ魔物の仕業だろうから、当然ではあるだろう。
「……ニュースを聞いて思ったんだけどさ……もしかしてたら、湖に奇妙な建物作った魔物と同じ奴なんじゃない?」
エミルがしばらく考えてようやく気付いたようにそう言った。
察しが悪すぎるだろこいつ。
とにかく、絶対に犯人は捕まえてやる。
俺はそう決意し、犯人捜しのための準備を始めた。