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「見つけた。あれか」


 街の通り、普段は平和なこの場所は悲鳴を上げながら逃げる人々でごった返していた。


 俺は逃げ惑う人の波に逆らいながら歩く。


 俺の視線には、空中に浮かんでいる黒い渦『ゲート』が写っていた。


 人々はゲートから逃げるように走っている。


 俺はこっそりと人気のない路地裏に入る。

 そして、背負っていたリュックを下ろす。


 中から狼の顔を象ったお面と、魔法使いがつけるような黒いとんがり帽子を取り出して、身につけた。


 リュックを置いたまま、路地裏から出てる。

 黒い渦がある場所を目指して歩く。


 しばらく歩き、ゲートがある場所に到達する。


 その瞬間、ゲートから何かが出てきた。


 出てきたのは顔はカバ、体は筋肉質の人間という姿の異形の生物だ。


 魔物と呼ばれている生物だ。

 巨大で人間の数十倍の大きさである。

 そいつは地上に足から落ちてきた。


 かなり重量があるみたいで、着地の瞬間、轟音が鳴りながら、地面が大きく揺れる。


「フハハハハハ! 大暴食グラー様降臨!」


 その魔物は、『存在名』を名乗った。

 恐らくこいつは『Bランク』の魔物だな、と俺は予想する。


「おいグラーとやら」


 面倒だが俺はいつもやっている問いかけを行う。


「何だてめー人間か? 変な仮面つけてやがるな」

「ゲートから出てくる魔物は、たまーに自分の意思に反して来る奴がいる。そういう奴は悪さをしないから殺すのはかわいそうなので殺さないようにしているのだが、お前はどっちだ?」

「は? 何言ってんだてめーは。俺様は大暴食! この世界の全てを食うために来た! ここには魔界より美味そうな物が多いな。まずは貴様を食ってやろう!」

「あっそう」


 登場の仕方からして、聞く前からわかってたけどな。


 殺すの確定だ。


「いただきまぁぁぁぁす‼︎」


 グラーが大口を開けて俺に食らいついてきた。

 俺は右手の指で銃を作り、グラーに向ける。


 そして、


魔弾バレット


 初歩中の初歩である魔法、魔弾バレットを使用。

 グラーに向けている人差し指から青白い光の弾が撃ち出された。


 その弾は一直線でグラーに向かって飛んでいき命中。

 そして大爆発が起こった。


 爆発が起こり煙が立ち込める。

 グラーがどうなったのか見えない。

 数秒経つと、風が煙を全て吹き飛ばし、見えるようになる。


 爆発が起こった場所には、黒焦げになったグラーの肉片が散らばっていた。


「はぁー……Bランク程度じゃ当然そうなるか。結構抑えて撃ったんだけどな」


 俺は憂鬱な気分呟いた。


 グラーを倒したことで、達成感や高揚感を得るということない。


 何も感じることはない。

 ただただ、虚ろな気分だった。


 その後、リュックを置いた路地裏へと急いで向かう。

 到着したら、仮面と帽子を脱いでリュックに収納した。


「帰るか」


 用を果たした俺はリュックを背負い、路地裏から出る。

 すると、逃げていた人たちが戻ってきていた。

 グラーの死骸に野次馬たちが集まっている。


「だ、誰が倒したんだ?」「お、俺、見てたぞ! あの人だ」「あの人って……?」「狼の仮面を被った、さいきょうの魔導師……」「それってまさか」

「「「狼の魔導師様!」」」


 人々は声を揃えて叫んだ。


「凄いよな最近話題の!」「どんな魔物も一撃で倒す!」「正体を知られないように倒すところとかすげーかっこいいよな!」「お近付きになりたい……!」


 人々が仮面をかけた状態の俺を賞賛する。


 素顔の俺は地味な顔立ちをしているので、誰も俺が狼の魔導師であると気付いていない。


 俺は人々の賞賛を聞き、得意げになるでもなく、嬉しくなるでもなく、心底気持ち悪い気分になった。


『虫唾が走る』という言葉が今の俺の心中を正確に表しているだろう。


 自身を称賛する声を聞くのが耐えきれなくなって、俺は駆け足で逃げるようにその場を後にした。


「あんなのは……あんなのは俺の力でもなんでもねぇ……」


 自分以外の人間に聞こえないくらい小さな声で、俺は呟いた。



 俺の名は、ライズ・プライス。年齢は20歳。

 日本で死に、この世界に転生してきた転生者。


 今から五年前、神様からレベルを9999にまで上げられ、ありとあらゆる敵を初級魔法一撃で倒せるほどの力を得てしまった不幸な男だ。



 

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