第8話 推理議論終盤~最後の追及~
僕は真犯人。エルフ騎士のアスハさんを指摘した。
最初のツカサさんの指摘だけは、本当だったんだ。
わざと僕に間違いを指摘させ、彼女の疑いを逸らしたんだ。
二人が共犯関係なのは、間違っていない。
どんな繋がりがあるか分からないけど。
「ユウキ。本気で言っているの? 私が犯人だって?」
アスハさんは肩を抑えながら、震えている。
僕は迷わずに頷いた。
「はい。僕は貴方を告発します」
「で、でも、ユウ! アスハさんは、お師匠さんを尊敬しているんだよ?」
「それは彼女の口から、直接聞いただけです」
ちょっと冷たい言い方だけど。
僕達は彼女の本当の一面を知らない。
生命とは多面的存在。いつどんな理由で、殺しをするか分からない。
僕は探偵として、そんな事件に何度も遭遇してきた。
僕達は彼女と出会って、時間が浅い。
一面すら見えていたかどうかも怪しい。
「でもユウキ。そのトリックなら、私以外のエルフ族ならだれでも……」
「それは通用しないよ」
確かに、被害者を殺害させるだけなら誰でも出来る。
でも他の仕掛けを成立させるには。
アスハさんである必然性があるんだ。
「まず、橋が雷で焼かれたと誤認させるため。目撃者を作る必要がある」
「なるほど。その目撃者が、我ら魔王一族と言う事だね?」
「はい。その上橋を焼いて、僕らが迂回するルートを誘導しないと。丸太にたどり着けませんからね」
僕はアスハさんを指した。
「道案内をしてくれたのは。貴方でしたね? アスハさん」
「うぐぐ……!」
アスハさんは剣の刃を、噛み始めた。
焦りからか、額に汗びっしょりだ。
「なんなの? さっき私に犯行は無理と言った癖に……! コロコロ意見を変えないでよ!」
「僕は、"暗殺未遂"は不可能と言ったんですよ?」
「言葉の綾じゃん! そんな……!」
動揺しているが、反論が出てこない。
なんだか違和感があるが、このまま畳みかけよう。
「さ、殺エルフで疑われるのは良いとして……」
そこは良いのかよ!
「こんなやつと! この糞野郎と共犯とだけは言われたくないわ!」
「糞野郎? もしかして、アスハさん。ツカサさんの事をよくご存じで?」
「どぎゃあ! し、失言しちゃったぁ!」
な、なんか追い詰められたボロが出まくっているな……。
本当にこのエルフが、トリックを仕掛けたのか不安になってきたぞ……。
「まあ、一方的な協力でしょう。もしお互い承知の上なら……」
僕は未だにニヤニヤしている、ツカサさんを指した。
「"丸太を使う"と言い出すのは、ツカサさんの役目ですからね!」
「またしても、正解! いや~、凄いね~」
最も疑わしい点は、丸太の使用を提案したことだ。
これを暗黒騎士が言い出したら。
偶然の産物で済ますことができたのに。
「アスハさん……。本当にお師匠さんを?」
「認めない……。認めないわ!」
アスハさんは歯形が出来るまで、剣を噛み続けた。
白目剥き出しになりながら、僕を睨む。
「アンタの推理では、崖下からペットボトルを発射しただったわね?」
「ええ。川沿いの端に、水の残留魔力がありましたから」
「だったら、矛盾しているじゃない! 忘れたの?」
やっぱり。その点を突いてきたか。
「私は時間通り。貴方達の前に現れたのよ!」
「そうですね。一分の狂いもなく」
それはよく覚えている。時計で確認したからね。
「崖下から上に向かうには、ニ十分かかるわ!」
「あ! そうだよ! 私達が雷を目撃してから、ニ十分経ったら……」
「時間にニ十分近く遅れて、到着するはずよ!」
そう。僕達は橋のすぐ傍で、雷を目撃した。
雷がその場で橋を燃やしたのを、見ているからね。
だからニ十分もかけて登ったら。約束の時間に間に合わない。
「貴方はエルフ族ですからね」
「まさか羽根を使ったとか言わないでよ? 崖の上には強風が吹いているのよ!」
「軽いですからね。良く飛ぶでしょう」
アスハさんは勝ち誇った表情をしているが。
残念だけど、その反論は既に通らない。
僕は崖上で、決定的証拠を見つけている。
「滑車を使えばね」
「っ!? 滑車で登るなら、私より重い、重りが必要よ! そんなものなかったでしょ!」
「あるじゃないですか。勢いよくペットボトルロケットが」
これがエルフ族。アスハさんにのみ犯行が、行える証拠だ。
崖の上には何かが打ち付けられた、跡があった。
アレは、滑車を取り付けていたんだ。
「現場には、もう一つ。ペットボトルロケットがあったんですよ」
「はああああ!? ペットボトルロケットに掴まって、飛んだとか言わないでしょうね!?」
「いくら軽いエルフでも、それでは飛べませんが……」
風の影響を受けやすい。体の軽いエルフ族だからこそ……。
「自分を括り付けた、反対側に口を上向きにしたらどうでしょう?」
「!!!!!!?」
「噴射の勢いに、重力がプラスされますから。登れるんじゃないですか?」
アスハさんはペットボトルロケットを、下向きに発射したんだ。
崖下で水属性の魔法を使って、メイ液を生成。
その瞬間、気化膨張が働き。ペットボトルが崖下に発射される。
重力とペットボトル自体の質量が加わって。
ロープを下向きに引っ張ったんだ。
反対側に括られているアスハさんは。崖上まで一分もかからず登れる!
「貴方はその後、ペットボトルを回収しましたが。処分する暇がなかった」
魔法で処分したら、残留魔力が残る。
橋を雷が燃やしたと思わせたいから。
炎の魔法は使いたくないだろうし。
「だから案内中、隙を見て脇道に投げるしかなかった!」
僕が偶然それを発見したんだ。
リュックにあるペットボトルは、その時使われたものだ。
「これで時間的問題は、解決しましたね」
「ぐぐぐぅ! そんな、バカな!?」
「まあ、貴方が時間通りに来た時点で。怪しいとは思っていましたけど」
雷がアクシデントなら、アスハさんは時間通りに来られない。
偶然雷が発生したなら、彼女は橋と一緒に焦げているはずだ。
そう。彼女は遅れて到着するべきだった。偶然を装って、迂回したと言い訳するために。
「ツカサさんがどこまで知っていて。何故貴方に協力したのか、分かりませんが……」
ツカサさんは、一方的に協力していた。
その理由はまだ明らかになっていないが。
これで殺エルフの証明は完了したはずだ。
「貴方が共犯を意を否定している以上。全て貴方が仕組んだという事になります」
「……!」
ここで共犯していたと主張しないなら。
彼女はツカサさんに、憎悪を向けていることになる。
「誰が……。こんなクズと、共犯なんかするかああああ!」
「クズ呼ばわりかい? 酷いなぁ~。まあ、事実だから良いんだけどね!」
ツカサさんの真意はまだ不明のままだが。
この事件における全ての謎は解かれた。
「もうおしまいです! アスハさん!」
「うぐぐぐ……。ユウキの分際でぇ……!」
なんだよ。まるで僕の事を昔から、知っているみたいな言い方だなぁ。
「最後に今までの事件を振り返り! 全ての謎を明らかにする!」