第8話 推理披露クライマックス~真実の限界~
「これが事件の全貌だ!」
僕はヒラの望み通り。事件の全てを突きつける。
「まず被害者は十二年前の主謀者を殺害するため。この村におびき寄せられた」
母さんは証拠だけで主謀者を追い詰める、限界を感じていた。
だから主謀者の殺害と言う方法で。
全てを終わらせようとしたんだ。
「安全に人界に渡るため。魔界を通して、国境から侵入した」
ルト村に最も近いのは、魔界の国境だ。
安全かつ最短で向かうには、洞窟を通るしかない。
「だけどこの時。既に犯人の罠は始まっていた」
被害者が国境を通る事自体。犯人は分かっていたはずだ。
「国境には油の兵器があった。そのせいで洞窟には、異常な油の匂いがあった」
洞窟は長い。長時間居ると匂いに慣れるだろう。
何より殺人を企てているのだ。
母さんは警戒しながら、洞窟を通ったはずだ。
「この時犯人は、ある場所で準備をしていた。教会の鎧の中だよ」
鎧には神の力が宿っていると、言い伝えられている。
この村の人々は信心深いらしい。
だから鎧に近づくことすら、なかったという。
「まず犯人は魔法を使って、雨を降らし」
天気予報では晴れだった。
このトリックを使うには、空気中の水分が必要だ。
だから天候変化などと居う、大がかりな魔法を使ったのだ。
「気体を操る魔法で、雲を帯電させた」
気体の原子を衝突し合えば、電子が飛ばされる。
「雷を発生させて、被害者殺害の準備を仕掛けたんだ」
自然現象で火事が起きて、被害者が焼け死んだように見せかけるために。
「でも雷の完全なコントロールは不可能だ」
雷を操るには、もっと大きな魔法が必要だ。
流石にそんな魔法を使えば、バレると考えたのだろう。
「そこで犯人は剣を使ったんだ。教会の天井に剣を突き刺し。刃の部分を少しだけ、教会に残した」
ここは最も村で高い場所。雷が落ちやすい条件も整っていた。
「剣を避雷針として使い、雷が教会に落ちやすいよう仕掛けたんだ」
剣を通じて、現場まで電気が流れるだろう。
「そして犯人は現場に油を撒き。幻影魔法で、被害者の前に姿を現した」
幻影魔法は幻影が見ている視界も、共有することができる。
「幻影を使って、被害者を現場まで誘導し……」
被害者は犯人を殺害するつもりだった。
犯人が逃げれば、当然な後を追うだろう。
「現場で被害者を足止めして、雷が教会に落ちるのを待った」
時間稼ぎで話していたのか。それとも幻影を明かしたのか。
どっちにせよ、被害者の足止めをしていたはずだ。
「犯人の目論み通り、雷は剣に落ち。刃を伝って現場に電気が流れた」
雷の直撃ほどではないが。強烈な電気が流れたはずだ。
「この時落雷の影響で火花が油に飛び散り。火事が発生した」
静電気でも火災が発生するほどだ。
電気の火花を甘く見てはいけない。
「犯人は落雷で起こした炎で、身元が特定できないほど焦げるのを待って」
被害者を別人に見せかける必要があった。
でも全身を完全に焦がすわけにはいかない。
「被害者の炎を消化して、現場から去ったんだ」
この後野次馬と合流して、何食わぬ顔で現場に足を踏み入れた。
「鎧脱ぐ時、隠していたワンダさんに着せ替えて。彼女のペンダントを被害者にかけた」
死体の身元がワンダさんだと思わせるためだろう。
そのためにわざわざ彼女を狙うという、犯行予告まで出したのだ。
「こうしてワンダさんに見せかけられた。一見雷の火災で焦げた様な死体が完成する」
僕は力を込めて、犯人に指を突き刺した。
「犯人は君だよ。人界守護隊。ルト村の衛兵。ヒラ!」
事件の全貌は暴かれた。今までの犯人はここで観念していた。
でもヒラは違う。全貌が暴かれてもなお。
余裕の笑みを崩さない。
「お見事! みんな! 見たかい? これが魔界探偵の推理さ!」
「さっきから。誰に問いかけているんだ?」
「誰って……。みんなだよ」
ヒラは再び指を鳴らした。すると空間に、球体が出現する。
球体の向こう側に、顔らしきものが見える。
誰かは分からない。だが人族やエルフ族など、種族はバラバラだ。
「な、なんだ? これは?」
「幻影魔法の応用さ! 俺の視界を通して、みんなに君の推理を見てもらったんだよ!」
僕がルシェ様に、視界を共有してもらったことを。
ヒラはこれだけの人数相手に、同時に行っているのか?
そもそも彼らは何者なんだ?
「紹介しましょう! 人界の元老院! エルフの政治家! ドワーフの権力者たちで~す」
多くンの権力者が写る中。ひときわ大きな球体が現れた。
「そしてとびっきりの大物。人界の皇帝にも、登場していただきました!」
「な、なんだよこれ……? これで何をしようって言うんだ!?」
「俺はただ君に勝つだけじゃ、足りないんだよ。完全勝利してこそ、ゲームは意味がある」
完全勝利だって? トリックで勝負することが、目的じゃないのか……?
「君につきつける現実。これが真実では絶対に裁けない者だよ!」
「真実では裁けない……。一体何をするつもりなんだ!?」
「はいはい~。みなさん! ここで俺が逮捕されたとします。すると皆さんはどうなるかな?」
球体の向こう側。権力者達にヒラは語り掛けた。
「俺は皆さんがした悪事を、洗いざらい吐いてしまいま~す!」
「お、お前! まさか!?」
「しかも……。俺のおかげで受けていた恩恵を、全て失いま~す!」
ヒラはここに来て。権力者達に自らの正体を明かしたのだ。
彼は初めて脅しと言う者を使うのだろう。
この事件を握りつぶす気だ!
「でもでも! 皆さんが協力してくれたら! 俺は更なる恩恵を皆さんに提供します!」
飴と鞭だ。奴は利益と脅迫。二つを使って、権力者を誘惑している。
「まあ死者が出ているのに。犯人が居ないなんて、誰も納得できないだろうから……」
ヒラは目を大きく開いて、僕の事を見つめた。
「ユウキ君を犯人として、告発しちゃおうっかな!」
「ふ、ふざけるな! どうして僕が!?」
「今の推理を見て。みんな君を脅威に思ったんだよ。どんな謎かけも、解く名探偵としてね」
そうか……。ようやく理解した。
この事件そのものが、僕へ仕掛けた罠だったんだ。
事件を解く事を利用して、脅迫者に僕の脅威を知らしめるための……。
「これが真実の限界だよ。大勢が黒と言えば白でも黒。白と言えば黒でも白になる」
「あ……。あああ……」
「これがお前の大好きな、真実の力なんだよ!」
僕は……。
「でも! 君が告発を取り消したら! 見逃してあげても良いよ」
そうか……。これが奴の言っていた、完全勝利。
僕に絶望を叩きつけて、告発すら取り消させる。
僕はまんまと奴の作戦に乗ってしまった……。
「聖騎士団も考えてね? 俺が元老院の罪を暴露したらどうなるか?」
「……っ!」
「政治が信用を失う。機能しなくなる。そうしたら、お前らの大好きな、人界の秩序が乱れるんだよ!」
聖騎士団は人界の秩序を守ることが、使命である。
例え個人の感情がどうだとしても……。
彼らにも正義があるんだ。人界の秩序を考えると……。
「真実を捻じ曲げるしかない……?」
僕が告発を取り下げれば、この場は収まる。
でもそうしたら。主謀者を追い詰める事は、永遠に出来なくなるだろう。
だとしても。このまま告発を続けても、僕が捕まるだけ……。
これが真実の限界なのか……?
多くの者を犠牲にして。それでも前を向いて。
たどり着いた真実の果てにあるものなのか……?
「父さん……。母さん……」
僕は目の前が真っ暗になった……。
聞こえるのは大雨の音だけ。
まるで僕の心情を表わしたかのような。光を隠す黒雲のみ……。
……………………。父さん、母さん?
そうだ! 突破口は見えた!
「さあどうする? 命が惜しければ、告発を取り下げなよ」
「僕は取り下げない……。自分の命を使ってでも……」
「なに? 今更お前の命如きで、この状況を突破できるとでも?」
僕は再び目を開けた。空を見上げ、ヒラを睨む。
「僕はお前なんかに屈しない! 真実の力を見せてやる!」




