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魔界探偵2~四種族と死神の復讐~  作者: クレキュリオ
プロローグ 悪魔と死神と探偵と
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第5話 推理議論開廷~ツカサの推理~

 ツカサさんに集められて、僕達は彼の推理を聞くことになった。

 この場には僕とルシェ様以外に。魔王様とアスハさん。

 ホソさんとツカサさん。暗黒騎士数名が参加している。


 被害者、チイ・アリーノは他殺だった。

 それは間違いない。問題は誰が彼を殺害したかと言う事だ。


「さて。これから被害者を殺害し。この俺に矢を放った不届きものを指名するぞ」

「人界の代表剣士殿は。随分と他殺に拘るようで」


 ホソさんはまだ、殺エルフであると信じていないようだ。

 ツカサさんへの反発故だろう。


「暗黒騎士とやらは。随分と頭の回転が遅いんだな」

「アドバイスとして、受け取っておきましょうか」

「反論があるなら。聞くくらいはしてやろう」


 やっぱり他殺か、事故死かは議論になるよな。

 まずは他殺であることをはっきりさせておこう。


「暗黒騎士がなんと言おうと。これは他殺だ」

「人界の剣士殿はロクに捜査に参加しておられないでしょ」


 ツカサさんは、ホソさんと言い合っていたから。

 現場の捜査はロクに行っていなハズだ。

 その周辺も調べていないだろう。


「我々暗黒騎士は、被害者の事を徹底的に調べました」

「人界の聖騎士団に任せれば、とっくに真相を暴いているがな」

「被害者に誰かと争った形跡はありませんでした」


 服装の乱れから、争いの形跡は分かる。

 ホソさんが事故死だと思っているなら。

 その乱れが『なかった』ってことだよな?


「被害者の衣服に、怪しい点はありませんでした」


 僕は遺体を直接見ていないから。

 ホソさんの証言から情報を得るしかないな。


「服装に乱れがない以上。他殺である可能性は、低いはずです」

「ホソさん、それは違いますよ」


 僕はホソさんの発言に、矛盾を見つけた。

 これが被害者が他殺だという、何よりの証拠だ。


「被害者の衣服に乱れはなかったんですよね?」

「ああ。濡れて酷くしわになっていたが。争ったような形跡は……」

「それはおかしいですね。万が一事故で溺れたなら、水面であがくはずですよ」


 溺れそうになる時、知的生命はパニックになる。

 その時水面で大きく暴れるはずだ。

 まるで争った時の様に。


「服に乱れがないなら。被害者は溺れた時に、身動きを取っていないことになります」

「被害者は騎士だ。エルフの泳げない特性を理解して。死を覚悟したのでは?」

「ホソさん。暗黒騎士の貴方も。突然水面に落ちて、冷静にいられますか?」


 僕の問いかけに、ホソさんは無言で仰け反った。

 どうやら答えは出たようだな。


「溺れた時、被害者は暴れなかったんじゃない。暴れられなかったんだ」

「ふん。その程度、報告書を読めば誰でも理解できるはずだ。それでも騎士の隊長か?」

「うぎゃああああ!」


 ホソさんは両手を広げながら、目を丸くした。

 体を振動させて、白目になっている。


「で、でも。被害者に他の外傷はなかった。どうやって争わずに、動きを封じるのだ?」

「いや、ありましたよ。焦げ跡がね」

「確かにアレは最近出来た跡だが。関係あるのか?」


 ホソさんの問いかけに、ツカサさんが鼻で笑った。


「疑わない方が、おかしいと思うが?」

「指摘したのはコイツじゃないのに。なんだ、この敗北感……」


 ホソさんは悔しそうに、苦虫を嚙み潰したような表情だ。

 う~ん。少し可哀そうな事、しちゃったかな?

 でも真実は他殺なんだ。それを認めてもらわないと。


「しかし。そうなると、この焦げ後はなんなのでしょう?」

「恐らくこれは。電気ショックを受けた跡だろうな」


 ツカサさんの意見に、僕は同意だ。

 強い電気ショックを受けると、体に焦げ跡が出来る。

 それともう一つ。身体にショックが走り。


「被害者は不意を突かれて、気絶させられたんだ。だから服装に一切の乱れがない」

「電気ショックでの気絶だと。水に入ったくらいじゃ、目を覚ましませんからね」


 眠っているならともかく。気絶から覚醒は無理だ。

 脳にダメージが入っているのだから。


「これで他殺だと、納得したか? 脳筋騎士」

「致し方ありません。ですが誰が被害者を殺害したのでしょうか?」


 他殺と言う事は、被害者にトドメを刺した存在が居る。

 トドメを刺すには、一度でも被害者と接触する必要がある。

 

「死亡推定時刻は、午後一時。その時、殆どの者が和平交渉の場に居ましたよ」

「死亡推定時刻は。死体の腐敗や体温の状態で推定できる」


 へえ。そうなんだ。確かに時間がかかれば、腐るし。

 死亡直後なら体温が冷たくなるまで、時間がかかるな。


「要するに。死んだ瞬間の時間しか分からんのだ」

「それがどうかしたのですか?」

「溺死と言うのはな。息が出来なくなってから、死ぬまで時間がかかる」


 息止め大会とか見ていれば分かるけど。

 生物は結構な時間、呼吸が出来なくても意識を保てる。


「つまり死ぬ時間を、コントロール出来るんだよ」

「ですが和平交渉の始まりから、現場まで結構な時間かかりますよ?」

「移動する必要はない。仕掛けを使えば、和平の場に居ても殺害は可能だ」


 そこでツカサさんは、彼女を見つめた。


「そうだろ? アスハ」

「え?」


 え?


「ええええ!?」


 僕とアスハさん、ルシェ様の絶叫が重なる。

 ツカサさんは、あっさりと彼女が犯人だと指摘した。


「つまりこの俺の暗殺未遂騒動は。現場を空にするのが目的ではなく。アリバイ工作だったんだよ!」


 暗殺未遂事件が起きてから、会場は封鎖された。

 その時刻に被害者が亡くなったなら。

 会場に居た者にアリバイがある。犯人はそれを利用した。


 一応筋は通っているけど……。

 あの暗殺未遂、本当にアスハさんが起こしたことなのか?


「ちょっと待ってよ! アスハさんが被害者を殺すはずないよ!」


 ルシェ様が、ツカサさんに食い下がる。

 彼は異常なほど冷たい目線を、魔王の娘に向けた。


「だって! チイさんは! アスハさんのお師匠さんなんですよ!」

「それだけ強い繋がりがあるなら。動機になりうることは、起きそうだな」


 確かに強いつながりがありながら。アスハさんは師匠が亡くなったというのに。

 その死が発覚する前と、態度が変わっていない。

 まるで死んだと知っていたかのように。


「犯人はアスハだ。間違いない」

「ど、どうして私が師匠を殺さないといけないんですか?」

「理由は知らん。だがお前以外ありえない」

 

 ツカサさんは、他のエルフ族に目もくれず。

 アスハさんを犯人だと、断言した。

 でも……。そもそも彼は、どこで彼女の名前を知ったんだ?


「エルフを気絶させるほどの電気を放つには。強力な魔力が必要だ」

「に、人間には不可能ですな……」

「ユウにもないよね?」


 ルシェ様。今は僕をからかっている場合じゃないでしょ……。

 でも人族に無理なのは、確かだ。


「それにお前なら。被害者に警戒されずに、近づけるだろ?」

「ううぅ……。それはそうですけど……」

「このアリバイ工作を作れるのは。和平発表の時間を知っていたエルフに限られる」


 つまり会場を警備していた、エルフって事だな。


「暗殺未遂の矢を発射するには、メイ液を生成する必要がある。可能なのはエルフ族だけだ」


 つまりこの時点で、魔物も容疑者から外れたってことだよな?

 でもエルフ族の騎士なら、他にも居る。何故アスハさんを名指し?

 いや。それ以前に。矢が放たれた時、アスハさんが居た位置は……。


「お前はまず、会場で矢を発射してアリバイを作り……」

「それは不可能です」


 僕はツカサさんの推理を遮った。


「ツカサさん。貴方自身も推理したはずだ。矢はステージの上で放たれたと」

「ふん。それがなんだ?」

「でもアスハさんは、矢が放たれた時。ステージ下の警備をしていたのですよ!」


 僕の指摘に鼻で笑いながら、ツカサさんは眼鏡を調節した。


「そんなの、そこの女が嘘をついているだけだろ!」

「僕もルシェ様も。ステージ上で彼女を見ていませんし。他の騎士に聞けば分かりますよ?」


 彼女のアリバイは、僕達が保証する。

 そもそも、彼女はステージに登ることなんて、絶対に不可能だったんだ。


「あの場は魔物と人族の和平交渉の場です。当然ステージを警備していたのは。魔界と人界の騎士です」

「……!?」


 魔王様と人界の代表が居る訳だからね。

 万が一エルフ族に暗殺者なんか居たら困る。

 だからお互い、信頼できる従者しかステージの警備に回していないはずだ。


「だからアスハさんに矢を飛ばすことは……。絶対に不可能なんです!」

「ぐがああああ! ま、まさか。この俺が……!?」


 ツカサさんは頭を揺らした。その影響で眼鏡を落としそうになる。

 必死にキャッチして、再び耳に掛ける。


「でも、ユウ。魔物と人族に被害者を気絶させられない。エルフに矢を放てないなら……」


 ルシェ様もあることに気付いたようだ。


「この事件、誰にも起こせないことになっちゃうよ?」


 そうなんだ。それがこの事件を複雑にさせている。

 当然この場に居ないドワーフにも、犯行は引き押せない。

 全ての種族が、犯行を起こせないということになる。

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