第6話 推理披露中盤~首謀者の正体~
僕はこれから、トリックの解明を行う。
母を殺し、ワンダさんに罪を着せようとしたそいつは。
今も影で笑っているんだ。僕の手で暴露してやるんだ!
「最初に気になったのは。本日の天気は晴れだったはずです」
「ああ。実際は土砂降りだったがな」
「でも天気予報士は、魔法で予測しています。間違えるなんて、あり得ない」
魔法で僅かな空気の流れから、天気を予測する。
その精巧な技術を獲得するため、予報士は厳しい訓練が課せられる。
それはどこの国でも同じはずだ。
「だから大雨自体、犯人が仕組んだ事だと考えられます」
「ふむ。魔法を使えば不可能ではないですね」
「ええ。でも犯人には、雨だけでは足りなかった」
一連のトリックを仕込むためには、雷も必要。
寧ろ下準備をしただけだ。
「現場には風の魔法がありました。恐らく気体を操ったのだと思われます」
「おう。だが何の気体を、何のために?」
「原子レベルの気体を操り。摩擦で電子を飛ばしたのだと思います」
以前ルシェ様が話してくれた。魔王城の雷原理。
犯人はそれと同じことを、自力で行ったのだ。
「ふむ。原子レベルまでの介入。犯人は相当な魔法の手練れですね」
「正体は置いて。飛ばされた電子は、雨雲の中で帯電します」
「そうやって、雷雲を作ったわけですか……」
これで雷を発生させる方法まで、説明した。
「でも雷を完全に操ることは難しい。そこで犯人はある物を使いました」
「森で見つかった、剣ですね?」
「剣を天井に刺し込んだ。刃が教会に残るギリギリのラインまで」
こうして剣が避雷針となり、雷が引き付けられることとなった。
現場を教会にしたのも、雷が高い場所に落ちやすいという性質からだ。
天井は火事で消滅した。剣で刺した痕跡が残るわけがない。
「犯人が用意していたのは、剣だけじゃない。現場で見つかった輪ゴムもです」
ゴムは電気を通さない物体だ。
雷が落ちようが影響を受けない。
「犯人は輪ゴムを弓に、剣を矢に見立てて天井にセットした」
ゴムを引っ張り、剣を飛ばす様にしたんだ。
予め引っ張っておいたゴムを、電灯にでも引っかけたのだろう。
「火事が起きれば、天井が焼け焦げ。ゴムを引っ張るための、支えをなくす」
「ゴムが戻る勢いで、剣が飛ぶ訳ですか……」
「こうやって、村から出る事なく。剣を消滅させたんだ」
どこに飛ぶかまでは、犯人も予測できないが。
角度から森に飛ぶまでは分かった。
「被害者は部屋に入った、落雷の影響で。意識を失ったんだ」
「となると、次は。何故ユミホが、現場に入ったかが問題だな」
このトリックを使うには、被害者が自ら現場に入る必要がある。
魔物の被害者が、ルト村の教会に向かう理由。
「主謀者がおびき出したんだよ。自分への殺意を利用して」
「そもそも何故、ユミホはルト村に来たんだ?」
「きっと主謀者の正体が分かったんだ。ドワーフ屋敷の事件を、監視していただろうし」
被害者は主謀者の動向を、監視していた。
ドワーフ屋敷で大統領から得た情報からたどり着いたんだ。
「主謀者に復讐するため。きっと母は犯人を殺害しようとしたんだ」
「ユミホ……」
かつて一緒に捜査した、ルナティックさんは俯いた。
母を復讐に駆り立てたのは、父の死だろう。
法律では裁けない相手を倒すために。非合法な手段に手を染めたんだ。
今は感傷に浸っている場合じゃない。
一刻も早く事件を解決するんだ。
「犯人はルト村に被害者が来たのを確認すると。自ら姿を現したんだ」
「教会に逃げ込み、被害者をおびき寄せたわけか」
これで被害者が自ら、教会に向かった理由が説明着く。
そして犯人が主謀者だという事も、確信できた。
「でもよ。坊主。犯人が教会に逃げたら。二つのリスクがあるぜ」
「ええ。一つは犯人自身が感電する事。もう一つは落雷前に、被害者に殺されること」
「そのどちらも説明できる。犯人は幻影魔法を使ったんだ」
現場には闇魔法が使われた、残留魔力があった。
ルシェ様が見せてくれた様に、幻影の視界を共有することもできる。
犯人も同じ魔法を使い、被害者をおびき寄せたのだろう。
「でもよ。その残留魔法。この場所にあったんだよな?」
残留魔力は魔法を使った、場所に残る。
だから犯人が魔法を使ったのは、教会内部での出来事だ。
「その時犯人は、どこに隠れていたんだ?」
「さっき示した場所です。村人が絶対に力寄らない場所」
「まさか……。神器の鎧?」
僕はルシェ様の問いかけに、頷いた。
「犯人は鎧に隠れて、被害者をやり過ごしたのです!」
「電気は金属の表面のみに流れる……。あの鎧は全身が覆われていますから……」
「鎧を着ていたら、中身に電気は流れないよ!」
犯人は鎧の中で、落雷もやり過ごしたのだ。
「ですが、幻影魔法を使ったなら、何故犯人は現場に居たのでしょう?」
「事後処理をするためだよ。犯人は死体が、ワンダさんだと、思わせたかった」
そのためにルナティックさんに接触して。
彼女を狙うような発言をしたのだ。
「このトリックを成立させるには。遺体が完全に焼け落ちない事が必要です」
「そうか! 犯人は身元を特定できないほど焼いた後で。炎を自分で消火したのですね?」
「はい。そして事前にワンダさんから奪ったペンダントを、死体に掛けた」
アリス様達に死体がワンダさんと、証言させるためだ。
この時点でワンダさんは、気絶させられていたのだろう。
犯人は鎧を脱いだ後。今度はワンダさんに鎧を着せたのだ。
「更に教会が確実に燃える様。犯人は油を撒いていました!」
「ああ。確かに油の匂いがしたな」
ルナティックさんなら、直ぐに気づいたはずだ。
「でもこんだけ臭っていたら。流石に被害者も気づくだろう」
「いや。被害者は気づけなかったんです。国境の洞窟を通ってきた訳ですから!」
あの洞窟は戦争の名残で、油の匂いが強かった。
しかもかなりの距離、強い匂いが残っている。
「被害者は洞窟を通ったせいで。鼻が慣れてしまったんですよ。油の匂いにね!」
「しかも事件当時雨で、匂いはかき消された。脳が油の匂いを記憶し続ける訳ですね」
犯人は全て計算に入れたうえで、被害者を罠にかけたのだ。
「後は気絶した被害者が、火事で燃えるのを待てばいいだけです!」
「なるほど。じゃあそろそろ指名してもらおうか。この事件の犯人をさ!」
「はい! 犯人は……。一連の事件の首謀者は……」
僕はここ一番で、主謀者へ向けて指を突き出した。
「ヒラ! 貴方がこそが、主謀者だ!」
「なっ! なんですって!?」
僕の指摘に、本人よりアリス様が驚いていた。
「ヒラは只の下っ端ですよ!? そんな大がかりな事を……」
「でも彼しかいないんです! 一連の条件に当てはまる人物が!」
僕は自分の推理に自信を持っている。
「まさか……。主謀者は元老院と繋がっていたし。各国の権力者にも影響力をもっていた」
「そうです。僕達はそのせいで、それなりの地位の人物だと、思い込んでいた」
その心理も首謀者の罠なのだろう。
彼は下っ端騎士でありながら、一国を操るほどの力を見せた。
おとぼけた態度をしているが。その本性は狡猾で、残忍だ。
「ヒラ! お前から何か反論は……」
アリス様が問い詰めると。ヒラ……。笑っていた。
その表情はどこか不気味で。まるで狂気と言うものを、表わしているかのようだった。
「ふぅん。初めて見た時から思ったけど。頼りない見た目の割に、随分と自信たっぷりだね」
ヒラは指を鳴らす。すると頭上に残留魔力が現れて。
雨雲から粒が降り注ぐ。魔法で天気をコントロールしたのだ。
「でもね。俺も結構自信があるんだ。今度のゲーム。勝てるってね……」




