第3話 捜査前編~首謀者の暗躍~
僕達はルナティックさんと共に、教会を出た。
現場での細かい作業は、部下に任せる。
「それで。人界の聖騎士が。何故魔物を呼び出したんですか?」
僕は疑問を騎士団にぶつけた。妙なことは他にもある。
アリス様と出会ったのは、落雷のすぐ後。
現場と合流地点は離れている。
ならば落雷前から出発したはずだ。
でもその時既に、ワンダさんは殺されたと言っていた。
「数時間前。俺達の前に現れたのさ」
「現れた? 何がですか?」
「十二年前の主謀者。全ての元凶がな」
曇天の空のした。静かな場所で、ルナティックさんが発した言葉は。
僕の胸を大きく貫いた。
「主謀者が? 自ら?」
「勿論正体は隠していた。だが奴は言った」
「"お前達の大事な人を殺害する。これはユウキへの挑戦状だ"と言ってました」
アリス様達の大事な人。すなわち、ワンダさんの事か。
だからアリス様は死体を、彼女だと確信していたのか……。
「主謀者は、お前との勝負を望んでいた。だから俺達は……」
「ちょっと待って下さい。貴方が主謀者の言いなりになるのは、おかしいですよ」
「勿論。最初は俺の手で蹴りをつけるつもりだった」
ルナティックさんの性格上。直ぐに他者を頼らない。
きっとこの結論に至るまで、様々な事件があったはずだ。
「この事件は、主謀者が自ら手を下した。奴はそう言っていた」
「なっ! 今まで他者を操っていた、主謀者が?」
「これはゲームだそうだ。お前が自分にたどり着けるかのな」
そんな……。僕と知恵比べをするためだけに。
事件を引き起こしたというのか……。
僕は主謀者へ怒りと、畏怖の感情が半々で出た。
狂っている。そうとして言えない。
命を奪う事に、何の躊躇いもない。それどころか、楽しんですらいる。
探偵として色んな事件を解決してきたが。どの事件も、動機はそれなりにあった。
「動機はもう一つある。ワンダは独自に、十二年前の事件を調べていた」
「十二年前。ワンダさんは、担当弁護士でしたね」
「主謀者にとって。坊主に情報が行くのは、都合が悪いのだろう」
ゲームと言う割に、フェアじゃないな。
もっとも自ら手を下したという事が、怪しいものだ。
でもドワーフ大統領は言った。この村に、主謀者が居ると。
「奴は自分の正体について。ヒントを口にしやがった」
「随分と余裕ですね」
「とは言え。情けない事に、それだけじゃ、俺らは首謀者の事が分からなかった」
人界最高の騎士が解けない謎とは、相当だな。
「お前さんなら、解けるんじゃないかと思って。アリスに呼び出したんだ」
「それにしても、危険すぎる賭けですね。国境付近には血の気の多い、魔物がいますよ?」
「ワンダが狙われたんだ。俺も冷静さをなくしていた」
確かに妻が狙われているなら、焦っても不思議じゃない。
それも主謀者のやり方なのかもしれない。
「奴が提示したヒントは三つ。一つはドワーフ大統領の証言は正しい」
人界の騎士が主謀者と言う事か……。
「二つ目はドワーフ屋敷の事件。チイの事も、主謀者が操ったと言っていた」
「まさか! あの事件は、トリックもチイさんが考えたはずです」
「そう思われたが。実は巧みに誘導されいたようだ」
現場となって部屋を使うように、誘導したとかか?
そうなると、犯人はチイさんに接触できる人物と言う事になる。
「最後は双子塔事件で。魔王の部屋を荒らしたのは自分だと言っていた」
あの事件で魔王様の部屋に、血があった理由は不明だった。
それが主謀者自らが、行ったという事か……。
なるほど。見えてきたぞ。
「ルナティックさん。この村から、騎士を含め。誰も出さないようにしてくれますか?」
「ああ。勿論封鎖しているが……」
「主謀者はまだこの村に居ます。ここで逃がすわけにはいかない」
絶対に逃げられない方法で、正体を明らかにしてやる。
まだ主謀者の正体に、確信は持てないけど……。
和平成立から、ずっと僕達と一緒だった奴のは確かだ。
「坊主には既に、真相が見えているのか?」
「薄っすらとですけど。これから確信を持つつもりです」
遺体は判別できないほど、焦げていた。
つまり、被害者がワンダさんとは限らないという事だ。
問題はもし被害者すり替えトリックが起きたなら。
ワンダさんが姿を表わさない理由だ。
この事件、被害者が誰なのかが争点となるだろう。
「そのために、僕はこれから森と洞窟を調査します」
「私が同行しましょう。道案内は必要でしょう?」
アリス様が自ら買って出た。
この村の騎士でもある彼女だけど。犯人ではないだろう。
犯行は彼女が洞窟の中にいる間、行われていたし。
何より今まで共に事件を解いた仲間が、犯人なんて思いたくもない。
僕はアリス様を信じて、頷いた。
微かだか、彼女の頬が緩んだ気がした。
「急ぎましょう。主謀者は十二年、隠れた相手です。時間をかければ……」
「いいえ。逆です。ゆっくり行きましょう」
村にたどり着くまで、必死に走ったから。
僕達は森の情景や、洞窟の事に詳しくない。
魔界からルト村までのルートが、鍵になるはずだ。
「お前が言うなら良いですけど……」
「アリス様。この村から、洞窟までの最短経路を教えてください」
「分かりました。ついて着てください」
僕達は村のすぐそばにある、森へ向かった。
アリス様は迷うことなく、道を選んでいく。
「随分と詳しいんですね。僕は故郷でも、道があやふやです」
「昔、散々遊びまわりましたからね……」
昔話をするアリス様の表情は、どこか儚げだった。
「昔の私はハチャメチャだったんですよ」
『昔は?』っと思ったが、口にしたらまた斬りかかられる。
「多くの友と。母と一緒に、この森を散々駆けっこしました」
「ワンダさんとですか……」
「十二年前。あの事件が起きるまではね……」
コン家没落事件。それは多くの者の道を狂わせた。
ここにも一人。日常が変わった人物がいたのか……。
「父も母も、あの事件執着して。私に構ってくれなくなりました」
「気持ちは分かります……。僕もその時。両親が目の前から消えましたから」
同じ事件の捜査のため。母は失踪して、父は家を離れた。
親代わりの魔物が、一緒にいてくれたけど。
やっぱり家族が居ない寂しさだけは、消えなかった。
次第両親の愛情すら、僕は疑問に思っていた。
本当に母は、僕を生んで良かったのかと考えた事もあった。
「だから私は、騎士を目指したんです。十二年前の事件を、解決するために」
全て終わったら、両親が元に戻ってくれる。
傍に居ながら構ってもらえない状況なら、そう考えてもおかしくない。
「美味しいところはお前にもっていかれましたが。後少しだったのに……」
ワンダさんが死んだと思って。アリス様は悲しんでいるようだ。
表情や態度には出さないくても。言葉には感情が宿っている。
この姿を見て、僕は真実を。推理を口に出来るだろうか?
ワンダさんが生きている、死体がすり替わっている可能性。
今このことを口にしたら。いらない希望を抱かせるだろう。
「さて。無駄話は終わりです。最短ルートは、実はこの道なんですよ」
アリス様が向かったのは、整備された道。公道だ。
商業様に手が加えられていて、生物が動きやすいように出来ている。
「直進が近い様に思えますが。この森は、土が柔らかいですからね」
「その上雨も降っていた。確かに、公道以外では足元が取られますね」
この最短ルートを知っているのは、森に詳しいものだけ。
すなわち、ルト村で過ごした誰かのはずだ。
僕はわざと公道を外れて、山から直進するルートへ向かった。
現場は濡れている。ここに足跡がなければ、僕の推理は外れている。
祈るような気持ちで、僕は土を覗き込んだ。
「足跡だ……」
土を靴で踏んだ後が、村の方向へ伸びている。
僕は足から力が抜けて、倒れそうになった。
足跡は洞窟から、直進するように村へ伸びていた。
「どんな残酷な真実でも。それを導き出すのが、探偵だ……」




