エピローグ 近づく主謀者の正体
「チイが全てを認めたよ」
ルナティックさんが報告してくれた。
チイさんの身柄は、国際騎士が預かることとなった。
現在も狂ったように笑いながら。自分の仕掛けを自慢げに話しているらしい。
僕は何度も自問する。これで良かったのだろうかと。
僕が明かした真実は。一国を変えるほどのものだ。
それだけの責任を、僕が背負う事が出来るのかと。
「なんだ? 解決した後で、後悔しているのか?」
「いいえ。後悔はしていません。ですけど……」
全部終わった後で、責任の重さを自覚した。
少しだけ、ビビったなんて言えないよな。
「坊主。悩んでいるなら、お門違いだぞ」
「え?」
「お前さんがさっき言った通り。罪の上で成り立つ平和など、脆い」
そうだ。例え罪を犯して、平和を成り立たせたとしても。
その影で誰かが苦しんでいる。
犠牲がある限り。崩壊の手はいつでも来るんだ。
「それに……。大統領から話があるようだぜ」
「大統領から?」
ルナティックさんが、親指で背後を指した。
指先には大統領が、近づいている。
先ほどの真実に、苦情でも出すのかと警戒した。
「ユウキ君。だったね?」
「はい。そうです……!」
やはり偉い者を前にすると、緊張するな。
僕はビシッと背筋を伸ばした。
彼の言葉から、非難が出るのを覚悟する。
「見事な推理だった」
「え?」
「君の言う通りだ。私は罪を犯し。脆く、偽られた平和を築いた」
大統領から出た意外な言葉に。
僕は面食らった。まさか褒められるとは……。
「その代償を。あろうことか、市民に払わせたのだ」
チイさんの犯した罪の事。動機の事。
大統領なりに、気にしているのだろう。
「今後同じ事が起きるかもしれない。だから私は、大統領を辞任する」
「大統領……」
「大丈夫。こう見えても、後任の育成はちゃんとしているから」
いずれ政権交代が起きるだろう。
ドワーフだって、永遠に生きられる訳じゃないのだから。
大統領はそんな日を予見して。後継者を育ててていたのか。
彼が信じるものなら。貧困層を見捨てたりしないだろう。
その事実だけで。僕は少しだけ救われた。
「貴方ほどの者が、上に立てないなんて。余程の状況だったんですね……」
「私は立派ではないさ。貧乏が嫌で嫌で。悪魔に魂を売ったのだから」
悪魔。十二年前の主謀者か……。
「大統領は主謀者が、どこのだれかご存じで」
「いや。奴は警戒心が強く。何重にも細工を施して
そう簡単に尻尾を掴めないか。
十二年逃げ切られていたのだから。
「恐らく奴の正体は、誰も知るまい」
「誰も……」
そこまで警戒心の高い者なのか。
それだけじゃない。トリックを他人に仕掛けさせる狡猾さ。
躊躇なく他者を切り捨てる冷酷さもある。
「分かっているのは。奴が人界の騎士だという事のみだ」
やはり人界人だったか。魔界に魔の手が及んでいないのは。
人界と戦争中だったから。だけど和平が結ばれた。
主謀者はその時を、待ち望んでいたはずだ。
「いや、もう一つ。情報があったな」
大統領は何かを思い出し、手を叩いた。
「主謀者は、人界のルト村の出身らしい」
「なに? ルト村だと?」
聞き覚えがあるのか、ルナティックさんが反応した。
ただ聞いたことがあるだけではあるまい。
彼の反応。良く知っている地域のようだ。
「ルト村は。俺やアリスの故郷だ」
「ええ!?」
と言う事は、ルナティックさん達の故郷の人が。
十二年前の主謀者と言うことに?
「だがあの村は小さくてな。都心の衛兵になるのは。一年に一人いるかいないかだ」
田舎町なら、その町の衛兵が精々だろう。
その土地を収めている貴族は、一家のみだろうし。
「その中で聖騎士団に選ばれたのは。俺とアリスのみだ」
「でも人界の元老院を、操れる立場なんですよね?」
僕にはルナティックさん達が、主謀者とは思えない。
でも元老院やツカサを操っていたことから。
間違いなくその立場の人間に。接触出来る者だ。
「大体大統領は、その情報をどこで掴んだ?」
「いつか主謀者に脅されると警戒してな。あることを調べていた」
大統領の権限があれば、調査は可能だろう。
「死神を自由に出来るのはなぜか? 答えは簡単だった」
「死神……。ツカサの正体を知っていたからですね?」
「ああ。そしてその正体が暴かれたのが。ルト村で起きたとある殺人事件だった」
死神は人界の殺し屋だから。
多分仕事でルト村の者を殺害したのだろう。
「死神は一切の証拠を明かさない殺し屋だが。主謀者は僅かな手がかりで、たどり着いたのだ」
主謀者は自らの推理で。ツカサの事を知ったのか。
「そして死神の人脈を利用して。各国へのコンタクトを謀った」
「人界の元老院。エルフの政治家。ドワーフの大統領……」
「死神には権力と言う後ろ盾を。エルフには、政治家になれる知恵を。私には財力を与えた」
トップに立てる人材を瞬時に見抜き。
その者が欲する物を、与えて支配下に置く。
これが主謀者のやり方だ。
「私はここ数年。主謀者の命令で、死神の入国を許可してきた」
「死神の仕事を、ドワーフの国にまで広げるためですね」
「ああ。何名ものドワーフを犠牲に。私は地位を保っていたのだ」
意のままに操れるものを、大統領に納めるために。
その邪魔ものを、全て排除させていた。
主謀者の情報網はそれだけ、広いという事か。
「だが私は。これ以上民を犠牲にする気はない。自分の罪を公表するさ」
「大統領……」
「ありがとう。君が気づかせてくれた。だからお礼を言いに来たんだ」
やはり大統領は。親方達の言う通り、立派なドワーフだった。
彼すらも操るほど、主謀者は力を持っているのか……。
万が一大統領が犯人だったら。この国の法律で、裁くことは出来なかった。
僕は首謀者を見つける事が出来るだろうか?
見つけた所で、裁くことができるだろうか?
「気をつけろ。主謀者は恐らく。君達の近くに居るぞ」
大統領は最後に、忠告を聞かせてくれた。
こうして。ドワーフ屋敷で起きた事件は解決した。
最後に大きな謎と。ヒントだけを残して……。
主謀者は十二年も前から。三種族の国を、支配下に置いてた。
統治者の欲望を満たすことによって。
だけどこの時。僕達が暴き出した真実達によって。
主謀者は追い詰められていたんだ。
その結果。あの事件が引き起こされることとなる。
人界で起きた殺人事件。これがこの物語最後の事件となる。
主謀者の正体は誰なのか? 復讐者死神の素顔は?
これらは全て、次の事件で明かされる。
後にルト村弁護士殺人事件と呼ばれる物語。
その顛末をお話しようと思う。
僕達に突きつけられる、真実と向き合ったあの事件。
全ては十二年前の、コン家没落事件から始まっていたのだ。




