第9話 推理議論クライマックス~事件の全貌~
「これが全ての真相だ!」
僕は改めて、事件の事を振り返った。
「犯人はまず。事前に屋敷に侵入していた」
トリックを仕掛けるには。事前に屋敷に居る事が不可欠。
「コーヒーを出される事を予測して。前もってカップに睡眠薬を入れたんだ」
恐らく客人用のマグカップは決まっていた。
だから以前勤めていた犯人は。使われるマグカップが分かったんだ。
「睡眠薬を眠らない量、仕込み」
全員が眠ったら、トリックの意味がない。
怪しまれない様、眠らない様調整したんだ。
「ルシェ様と被害者の席に。眠気を強めるハーブを塗ったんだ」
誰がどこに座るか、決まっていた。
「睡眠薬とハーブを擦った二人は。他の者より症状が重く出て……」
ルシェ様にいたっては、会談中に体調が悪くなった。
それだけハーブの効き目が強かったという事だ。
「昏睡状態に陥ってしまった」
被害者は中庭で。ルシェ様は現場で意識を失ったのだろう。
「この時、ルシェ様は赤い看板が、救護室だと知らされていた」
分かり易いように、色で教えてくれたのだろうけど。
シェイプさんの言葉は、犯人に利用されたんだ。
「ルシェ様は意識が朦朧としていたから。看板の文字は読めなかったはずだ」
僕も会談後、視界がぼやけたから分かる。
ルシェ様は色だけで、部屋を判別したんだ。
「多分犯人は、看板を入れ替えていたんだ。その結果、ルシェ様は自分の意思で現場に入った」
そこを目撃されたうえ、現場で意識を失ったのだ。
犯人は最初から、ルシェ様に罪を着せるつもりだった。
「しかも犯人は。二人の隣に座った。僕と大統領もハーブを吸うと計算していた」
吸った量は二人より、少量だったはず。
だから僕達は、遅れて症状が出たんだ。
「僕は救護室で。大統領は執務室で。それぞれ意識を失った」
この時僕が現場の隣に居る事も、犯人は計算していた。
第一発見者にすることで、犯行時刻を狭めたんだ。
「大統領が眠ったのを確認すると。滑車を使って、被害者を執務室の中へ入れた」
この時使ったロープと鉄球は。回収しているはずだ。
後で使うのだから。
「犯人自身も窓から執務室に侵入し」
この時は普通にロープで登ったはず。
ドワーフは力持ちなうえ、犯人は職人だ。
腕力には自信がある。
「非常口から、被害者を現場に落とした」
先ほどのロープが括られたままだから。
被害者の死体は音がしないよう、ゆっくり降ろされた。
「鉄球をパイプに欠けて。非常口に剣を固定した」
非常口を閉じた直後に、犯行が行われたはずだ。
「この時、現場は既に犯人の手で。細工が施された居たんだ」
密室を作るトリックは、もっと前から仕込まれていたのだろう。
「つっかえる様に本が並べられ。その先のダストボックスまで繋がっていた」
このせいで、僕達は鍵がかかっていると錯覚した。
「犯人は二階でジャンプすると。二階の床。つまり現場の天井が振動したんだ」
ジャンプした音がすれば、気づかれるだろうけど。
警備を過信していたシェイプさんは。
中に誰も居ないと思い込んだ。
「この振動で鉄球がパイプから外れ。落下した」
恐らく犯人は軽い振動でも外れる様に。
甘めに鉄球を挟んでいたはずだ。
「鉄球が落ちた事で。滑車の原理で被害者が非常口のドアへ」
本来なら持ち運べる鉄球の重さが足りないけど。
エルフ族は軽い種族。重さは十分だ。
「非常口に仕掛けられた。そのまま背中に刺さったんだ」
被害者は即死じゃなかったけど。
まだ意識がないかったから。振り向いた形跡がなかったんだ。
「普通なら天井の血で気付けるけど。犯人は血痕を吸い取れる布を使ったんだ」
ハーブと同じく、親方の工房で作られたアイテム。
犯人はそれを悪用した。
「被害者を殺害した後。再び非常口を開けた犯人は……」
もう一度ジャンプしたら、気づかれると思った。
だから犯人は、剣を素手で取り外せる。
非常口に固定していたのだ。
「道具を使って、紐を燃やし。被害者と剣を地面に落とした」
被害者の上にあった燃えカス。
アレはロープを燃やした形跡だろう。
「全てを終えた後。犯人はそのまま窓から逃走」
入口をシェイプさんが見張っている以上。
窓からしか出ることは出来ない。
「三時に飛び出す鳩時計を利用して。鉄球を転がした」
本を開いてい居れば。鉄球が左右に動かない。
「そのまま鉄球はダストボックスへ。そこから落下する音に、僕は気が付いた」
僕が目覚める時間を逆算して。
三時に鉄球が落ちる様に、セッティングした。
「その音を聞いて飛び出した僕は。現場でルナティックさんと合流」
この時扉をいくら押しても開かなかった。
音のせいで焦った僕らは、鍵の有無を確認しなかった。
「僕達は体当たりで無理や扉を開けた」
いくらつっかえていたとはいえ。本だ。
少し強い力を与えれば、ばらける。
「その結果。敷き詰められた本がバラバラになった」
そのせいで密室の原因と、鉄球の移動を隠した。
「犯人は本の散らばりを誤魔化すため。事前に他の者も荒らしていたんだ」
部屋が荒れていれば。本の散らばりは目立たない。
犯人はそこまで考えて、準備していた。
「こうして犯人は。現場に入ることなく、被害者を殺害したんだ」
僕は最後に。力いっぱいの人差し指で、犯人を指した。
「そうだよね? この事件の犯人。ドワーフ工房のチイさん!」
犯人。チイさんは突きつけられた人差し指に。
仰け反ったような反応を見せた。
「そんな……。僕の仕掛けが暴かれた……?」
チイさんはハンマーと釘を取り出した。
その場で木材を掘り始める。
「違う! 僕は天才なんだ! 才能があるんだ!」
木彫りを始めるチイさん。
無茶苦茶な動きで、木材は形にならない。
「僕の仕掛けを暴けるはずが……。こんな……!」
チイさんはハンマーを。力いっぱい振り下ろした。
釘に当たった反動で、ハンマーは飛び跳ねる。
そのままチイさんの頭に直撃。彼は体をふらつかせた。
「畜生……!」
チイさんは反論が出来なくなり。その場で膝をついた。
「なんでだよ……。なんでルシェ様に罪を着せようとしたんだよ! チイさん!」
僕は詰め寄るような形で。チイさんに近づいた。
「それは彼女が上流階級だからだ!」
「なんだって?」
「お前達上の者いつもそうだ! 敗者の気持ちなど、分かりはしない!」
狂ったような笑みを向ける、チイさん。
「僕の父は。上流階級の者に。見世物にされて殺されたんだからな!」
「なっ……。そんなことまで……」
「だから僕は格差社会を許さない……! それを作るエリートを許さない!」
チイさんの動機は、単純な社会正義だけじゃなかった。
上流階級への強い憎悪。それが殺エルフに至らせたんだ。
「どうやって。ソウヤさんの告発文を知ったんだ?」
「前の事件の後。僕はソウヤを付けてみたんだ」
船の事件の時。二人は一緒に居たな。
「そこで魔王とコソコソ話しているのを聞いたのさ」
そうやって。告発文の存在を知ったのか。
何てことだ……。今回だけは。主謀者は何も関与していない。
僕が真実を暴き出したせいで引き起こした事件なんだ……!
「良いか? ユウキ! よく覚えて置け!」
邪悪な表情を向けながら、チイさんは僕に告げる。
「真実はいつも美しいとは限らないんだよ! 時に残酷で。殺害の動機にもなりえるんだよ!」
「……っ!」
「お前が今回暴いた真実で。また誰かが犯罪を犯すかもな!」
そうだ。彼を逮捕するには、必ず動機が必要になる。
そうなれば今の大統領は退任するだろう。でも……。
「罪の上に築かれた平和なんて。脆く崩れやすいものだよ」
僕は彼らの正義を否定した。その一言が余程効いたのか。
チイさんは狂ったように、雄たけびを上げた。
「ユ……。ぎゃああああ!」
こうして、事件の真相は暴かれた。




