第4話 現場捜査終盤~最後の聞き込み~
僕達は和平交渉が行われた場所に戻ってきた。
真相を知らない騎士が、まだ捜査を続けている。
その中に、青い髪の毛をロングにした少女が居る。
銀色の鎧に身を包みながら、魔法で周囲を照らしている。
黒い瞳には何かを探すような、表情が隠されていた。
彼女が"アスハ"さん。僕達を案内してくれたエルフ族だ。
「アスハさん。お話良いですか?」
僕は捜査中のアスハさんに、声をかけた。
彼女は僕達の存在に気付くと。
手の魔法を引っ込めて、向き合った。
「ユウキ。何か見つかった?」
明るい微笑みで、僕を見つめるアスハさん。
この人は親しみやすく、自然と口が軽くなる。
「まあ、大体の事は」
「こっちは何も分かっていないけど。師匠の死因は分かったの?」
師匠っというと、被害者のチイさんの事だろう。
この二人は師匠と弟子の関係にあるのか。
って、そもそも死因なら、既に発表されているけど……。
「被害者は溺死です。僕達は。他殺を疑っています」
「他殺ぅ!? つまり師匠を殺した、不届きものが居るんだね!」
「あくまで仮説ですから。張り切り過ぎないようにね……」
僕は確信しているけど。現時点で確実とは言えないだろう。
下手に情報を渡すわけにもいかない。
「アスハさん。いくつか聞きたい事があります」
「ええ! もう私に出来る事なら、なんでも! 剣を取る事以外は!」
取らないよ。今回の事件、剣は使われていないし。
「被害者とは、お知り合いだったのですよね?」
「ええ! 捜査のイロハ! 騎士道! 剣筋全てを磨いていただきました!」
『ワ―ハハハ!』っと笑いながら、誇らしげに胸を張るアスハさん。
「立派なエルフだったんですね」
「ええ! もう! 父が亡くなってから、お世話になりっぱなしです!」
「父が亡くなってから……?」
見知らぬ子供を、ボランティアで育てたのか。
或いは、アスハさんとは関係があり育てたのか。
「チイさんはどんなエルフだったんですか?」
「騎士の鑑です! いつも情熱的で、正義感の強い。長に相応しいエルフでした」
そんな立派なエルフとなると。
殺害動機が気になるんだよなぁ
「チイさんとはどれくらいの付き合いで?」
「……。もう十二年になるのかな?」
十二年前となると。僕もルシェ様もまだ六歳だな。
「十二年前。私の父はある事件の捜査中。命を落としたわ」
「ある事件?」
「本件とは関係ないからね。今はまだ言いたくない」
今はまだか……。いずれ、口を開く時が来るのだろうか?
「師匠は父と親友だったみたいで。私を娘の様に可愛がってくれました」
騎士としてだけじゃなく。エルフとしても育てられたわけか。
被害者のエルフ像が見えてきたな。
「やはり私は、十二年前の呪いから逃れられないのね」
また呪いか……。そんなもの、存在しないのに。
「そうだ。アスハさんにも、確認したい事があります」
「ん? 何かしら?」
「僕達が丸太を運んだ時。その場に居ましたよね?」
そもそも丸太を運ぶように言ったのは、アスハさんなのだが。
「ええ。それがどうかしたの?」
「その場に居たのは、僕と魔王様一族。アスハさんと二人の暗黒騎士でしたよね?」
「うん。間違いないわ。人界側の人員は、既に渡り切った後だったから!」
そうなんだよな。僕達が到着したころには。
人界守護隊は既に、エルフの国に到着済みだった。
だったら。あの"人"は、なんであんなことを?
「アスハさん。他に丸太の事を話した人物は?」
「居ないよ。そもそも私の咄嗟の機転で、その場凌ぎをしただけなんだから」
「……!」
暗黒騎士は鎧と兜のせいで、顔が見えなかった。
それに僕と丸太を運んだあの騎士。一言も発しなかった。
でもそんなことをする意図はなんだ?
「最後に。アスハさんは僕達を迎えに来ましたよね? でも本当は……」
衛兵長であるチイさんが、迎えに来るはずだった。
でも"待ち合わせ時間ピッタリに"アスハさんは来たんだ。
その"直前"に橋が焼け焦げたにもかかわらず。
「師匠、昨夜から行方不明だったから。急遽代理で私がね」
「被害者が、昨夜から行方不明だった……?」
昨夜か……。
「昨日の時点で、人界の人達はエルフの国に到着していましたか?」
「ううん。彼らが来たのは、今日だけど……」
嘘を言っているようには見えない。
どうやらこの事件。とんでもない悪意が隠れているようだ。
その悪意を明らかにするには。魔界裁判と似たような話し合いをしないと。
「捜査は順調かね?」
「あ! 魔王様」
ステージ脇に居たはずの、魔王様が話しかけてきた。
「先ほど人界代表剣士殿から、連絡があった。真相が分かったそうだ」
「ツカサさんが……!」
どうやって攻めようか考えていたが。
まさか向こうから、動いてくるとは。
「"今から貴様らの脳でも分かるよう説明してやる。さっさと現場に来い"だとさ」
相変らずの上から目線な言い草だな。
真相が分かったなら、魔物や人を集めないで。
さっさと逮捕するはずだよな。彼は代表なのだから。
この行動の裏には何かある。彼の推理を聞いて。
裏にある悪意を引き出してやるんだ!
「行きましょうか」
僕達は真実を暴きに、再び被害者溺死現場に向かった。
その間に僕は集めた情報を整理しておく。
まず暗殺未遂事件から。一矢が人界代表の脇を通り過ぎた。
アレはメイ液と呼ばれる気体を使ったトリックだ。
メイ液は常温で一気に気化して。その膨張で物を飛ばすことができる。
そう。物を何でもね。例えば、ペットボトルなんかも。
メイ液は水魔法を使えば、エルフなら誰でも生成できる。
それに川の脇道に、水魔法を使った痕跡があった。
被害者が溺死した時刻は。暗殺騒動と同時期だ。
その場に居たみんななら、アリバイがあるという事になるけど。
もし死亡時刻をずらせる方法があるなら? アリバイは無効だ。
現場にはエルフなら入れそうな、空洞のある丸太があった。
丸太の中に押し込まれれば。手足を動かせなくなる。
そしてこの丸太は。事件前に僕達が運んだものだ。
あの時丸太は『重かった』のに。事件後は『軽くなっていた』。
本来川の上流にセットしたはずの丸太が。湖に流れていた。
事件前に国境の端は、雷によって焼き払われていた。
そのせいで僕達は迂回することになったのだけど。
アスハさんは、時間通りピッタリ合流してきた。
これだけの情報があれば。事件で何があったのか。
証明することが出来るんだけど……。
気になるのは、あの人の態度と発言だ。
『ああ。生意気なエルフの小娘の、提案でな』
今思えばなんだけど。あの人はその場にいなかったはずなんだよな。
それどこから魔界側の案内をしていた、アスハさんと会ったかも怪しい。
でもあの人はハッキリ言ったんだ。"生意気なエルフの小娘"と。
うっかり口を滑らせたのか。それともこれは罠なのか。
どっちにしろ疑問を恐れてはならない。
僕は真実を暴くだけだ。探偵なのだから!
「来たか。愚図で愚者で、脳みそ筋肉どもが」
「ツカサさん。事件の真相が分かったとか」
「ああ。これは間違いなく殺エルフ事件だ」
ツカサさんの断言に、何か言いたげのホソさんだったが。
僕は彼に合図を送って、発言を見送らせた。
「今から話してやろう。俺の見抜いた、たった一つの真実をな」
これは魔界裁判とは違うけど。
この場のみんなで話し合えるというのは、強みだ。
まずはツカサさんの推理を崩して。この場の空気を変えよう。




