第8話 推理議論終盤~明かされた真実~
「ちょっと待て! なんでチイが犯人になるんだ!?」
告発に、本人より先に反応する親方。
可愛い弟子が疑われたのだから、無理もない。
でも彼しかいないんだ。犯人になりえる人物は。
「彼なら、親方の工房にある道具を持ち出せます」
「確かにハーブも、布もうちの製品だが……」
「その条件に合い。アリバイがないのは、チイさんだけなんです!」
僕だって、出来る事なら信じたくない!
前の事件で協力してくれた、チイさんが犯人だなんて。
でも。真実なんだ。彼がルシェ様に罪を着せようとした!
「屋敷に詳しい奴が犯人だろ? チイは今日初めてここに来たんだぞ!」
「それは違いますよ。良く知っていると思いますよ」
僕はチイさんに向けて、再び人差し指を突きつけた。
「衛兵やシェイプさんから逃げ切った貴方は、屋敷の構造を熟知しているはずです」
そもそも屋敷への侵入自体。構造に詳しい必要がある。
親方達が入れたのも、チイさんの手引きがあったからだろう。
「た、確かにチイは上手い事、隠れる場所を見つけてくれたけどよ……」
「貴方は元々この屋敷の者だ! 何らかの理由で、親方の工房へ移動んでしょうけど」
「……。ああそうだよ。どうせシェイプさんが、知っているから白状するけど……」
初めて発言をするチイさん。その表情は、今までの面影を消している。
大人しそうな雰囲気が一転。自身に満ちた、見下したような顔になる。
「僕は一年前まで、この屋敷で働いていた」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
親方は必至で、反論を続ける。気持ちは分かる。
僕だってルシェ様を疑われたらそんな反応をするだろう。
「チイには動機がねえ! 被害者はムカつく野郎だが……。殺すほどの動機は……」
「あるんですよ。チイさんには、被害者を殺さなければならない理由がね……」
この告発には勇気がいる事だ。ドワーフの国が、変わりかねない。
でも僕は真実を見つけると誓った。それが探偵の役目なのだから。
「口封じなんですよね? 告発文への」
ソウヤさんは告発文を書こうとしていた。
それは自分の罪と向き合った証拠だ。
でもそれが。ある者達に不利益を与えてしまう代物だったんだ。
「その告発文には……。大統領の、過去の罪が書かれているはずです」
「大統領の過去の罪だと……?」
「大統領。貴方は十二年前の、コン家没落事件に一枚噛んでいますね?」
あの事件は、エルフとドワーフの国境で起きた。
判事をドワーフ族が、務めていたはずだ。
「貴方はあの事件で、判事を務めた。鉱石の独占と引き換えにね……」
「お、おい! その鉱石ってまさか……!」
「はい。酸素ボンベの材料となり、大統領をのし上がらせた物です」
大統領は国のトップに立つために。悪魔と契約したんだ。
十二年前に判事となり、わざと真実を覆い隠した。
その見返りとして、悪魔は彼に鉱石を独占させたんだ。
「その受け渡しを行っていたのが。被害者のソウヤさんですよ」
多分彼は上から命令されただけで、何も知らなかったはずだ。
でも昨日の事件で、十二年前の真相が暴かれた。
だから彼は、大統領を疑い。告発文を書こうと決心したんだ。
僕が真実を暴き出したばかりに、彼は殺されたんだ。
ソウヤさんの心を変えたばっかりに!
「告発文が世に出れば。政権は変わります……」
現在の大統領は異例の経歴を持つ。貧困街の出身だ。
貧しい者の暮らしが分かるからこそ、支援を続けていたのだろう。
でも本来大統領になれる存在は。生まれながらのエリートなのだ。
「貴方は貧困層への支援を打ち切らせないために。告発文を握りつぶしたんだ」
「……。大統領がトップになるまで。この国の格差は、それは酷いものだった」
チイさんは俯き、目線を隠しながら語り始める。
「生まれ持った家系が全て。教育を受けられる者が裕福になり。負け犬はゴミを漁って生きる」
僕は昔のドワーフの国が、どんな状況だったか知らない。
でもそこまで格差がある社会だったのか……。
「だが大統領は、この国を変えてくれた。僕達全員に、チャンスがある国にしてくれたんだ!」
かつて貧困街だった場所。そこが活気づいた様子から分かる。
今の大統領は、本気で格差社会の撲滅を図ったのだ。
そのためには、悪魔に魂を売るしか方法がなかったのだろう……。
「政権の交代が起きれば。貧困層への支援はなくなる。また格差社会が来る」
チイさんは顔を上げて、僕を睨んだ。
「君は部外者だから。あの地獄を知らないから、好きな事を言えるんだ!」
「分かるさ! 僕だって……。力が全ての悪魔族の中で、力なき者として生まれたから!」
悪魔族と言う種族は、力があるものが権威を振るえる。
僕みたいな力なき者は、欠落者として生き物とすら扱われない。
僕にはそれを救ってくれる魔物が居た。彼にとって、それが大統領なのだろう。
「だからって! 真実を隠して、他者に罪を着せて良い理由にならない!」
僕は気が付けば、頭に熱が入るような感覚にとらわれた。
考えた言葉が、自然と叫び声として出てくる。
「どんな理由があっても……。生物は犯した罪から逃げちゃいけないんだ!」
今回の真実を暴くことは、僕にとって罪になるだろう。
貧困層の生活を無茶苦茶にした、魔界の悪魔として。
でも僕は探偵として。真実を暴いた後に不幸にした者の事を、忘れない!
「認めない……」
歯ぎしりをしながら、声が掠れているチイさん。
その言葉と態度は、僕への憎しみを表している。
「僕は認めないぞ! 君なんかに、真実が暴けるはずがない!」
そうだ。僕がまだ彼の動機を話しただけ。
決定的証拠を突きつけるのはこの後だ。
「鉄球を落として、被害者を持ち上げたって? 笑わせるな!」
鉄球がダストボックスの先にあったから、間違いない。
問題は鉄球が落ちた時、何故音がしなかったかなんだ。
「そもそも、君の推理では。犯人は部屋に入っていないんだろ!」
それも間違いない。もし犯人が部屋に入ったなら。
梯子をかけないと、出られないからね。
「だったら! どうやって、鉄球をダストボックスに捨てたのさ!」
やはりそこを突いて来るか……。
「犯人が部屋に入っていない以上! ダストボックスから、鉄球を捨てることは不可能!」
「それは違う! 犯人は鉄球の移動も、部屋に入らずに行ったんだ!」
犯人は事前に部屋に仕掛けをしていた。
鉄球を転がす事も、仕掛けられたはずだ!
「ダストボックスは扉の反対側にあった! 扉は本がつっかえて開かなかった!」
あの並べられた本は、ただ密室を作るだけが目的じゃなった!
「本を開いて置けば……。本の上に落ちた鉄球が、ダストボックスまで転がっていく!」
それだけじゃない。分厚い本がクッションになって、音を軽減するんだ!
犯人は全てを計算に入れたうえで。密室のトリックを使ったんだ。
「だがどうやって、鉄球を転がした!? 犯人は部屋に入っていないから、転がせない!」
僕が起きた時、何かが三階ほどなった音が聞こえた。
それと同時に、落下音の様なものが聞こえて。
僕は慌てて、隣の部屋の確認に向かったんだ。
「鳩時計だよ! 時計から飛び出す、鳩を使って! 鉄球を遠隔で移動させたんだ!」
「ぐっ!」
これも親方が紹介してくれた、商品の一つだった。
三時になれば、鳩が飛び出して。三回ほど鳴く仕掛けだったはずだ。
聞いた音の数も、三回。辻褄が合う。
「貴方は現場から離れた後。三時に自動的に鉄球が動く仕組みを作った!」
時間を指定したのは、死亡時刻を調整するためだろう。
鉄球が落ちる音がすれば、必然的に確認しようと人が集まる。
死亡推定時刻が伸びるほど。チイさんにとって不都合だったはず。
「貴方は僕が昏睡状態になり。救護室で倒れる事も、想定していた」
薬の量とハーブの効果から。意識が戻るまでも逆算出来たはず。
「そして僕が起き上がる時刻に。鉄球が落ちて部屋を確認するよう、仕向けたのです!」
「ぐっ! こんな……」
「もう終わりにしよう……。チイさん」
彼の気持ちは良く分かる。この真実が、何をしてしまうのかも。
でも僕は、真実を突きつける!
「最後に僕が事件を振り返って! 貴方の犯行を全て明らかにする!」




