第7話 推理議論~犯人指摘~
「ふむ。確かにそのルートなら、被害者の目撃証言がないのは納得できますが……」
シェイプさんはまだ納得していないような、態度だった。
「探偵殿はお忘れですかな? 私はずっと、執務室の前に居たのですよ?」
「はい。ですから犯人は、窓から侵入したってことになります」
シェイプさんが嘘を言っている可能性は低い。
何故なら彼は、親方に説教をしていたからだ。
必然的にこの二人には、アリバイがある。
「それに非常口から出入りするには。梯子を落とす必要があります」
非常口は二階に繋がっているから。
梯子がないと下りることは出来ても、登れない。
「ですが梯子が落ちた音など、聞こえませんでしたよ?」
「そうでしょう。犯人は被害者を現場に落としただけなのですから」
被害者を落とすだけなら、さほど音は聞こえない。
「もしそうなら、犯人は現場に入らなかったことになりますな」
「はい。犯人は現場に入りませんでした」
「だとしたら、それはおかしなことになりますよ」
そうなんだ。そのおかしな事こそ。
この事件の根底にある、謎なんだ。
「犯人が現場に入っていないなら。別の場所で殺害されたことになります」
「ん? でも衛兵も俺達も。別の部屋で血痕を見ていないぜ?」
「当然大統領の執務室でもありません。それなら大統領が気づいているはずです」
その通りだ。だから殺害されたのは、間違いなく現場。
だからと言って、犯人が現場に入ったとは限らない。
「被害者は間違いなく現場で、殺害されたのです」
「まあ。そうだろうな。現場にはちゃんと血があったし」
「別の場所で殺害された被害者を、気づかれずに非常口から投げ捨てたとでもいうのですか?」
「そんなこと言いませんよ」
被害者が別の場所で殺害された可能性なんて、ないはずだ。
彼らの言う通り、血痕が飛び散った部屋は他にない。
それに血を出した死体を持ち歩いたら。それだけで目立つ。
「僕は犯人が部屋に入らず。遠隔で被害者を殺害したと主張します」
「え、遠隔ですと?」
「はい。部屋を荒らしたりは、事前に行っていたのでしょう」
死亡推定時刻前に部屋に入っても、怪しまれることはない。
犯人はその時に、密室の細工などを行ったのだ。
「シェイプさん。確か執務室から、ドワーフが飛んだ音が聞こえたのでしたね?」
「ええ。それは間違いありません」
「犯人はその時に。トリックを発動させたんです」
犯人が天井に振動を起こした理由。
それは遠隔で被害者を殺害する準備をするためだ。
「ふむ。遠隔で殺害なら。犯人は部屋に入らずに済みそうですが……」
部屋に入らないなら、梯子を落とす必要はない。
これなら音で気づかれずに、被害者を殺害出来るはずだ。
「一体どんな方法を使ったのでしょうか? そんな方法があるのですか?」
「非常口のすぐ傍に、パイプが通っていました」
あくまで通り道なので、出口はなかったけど。
ドワーフが作ったパイプなのだ。それは頑丈だろう。
「そこに紐を通して、被害者を落下させれば滑車が出来ますよね?」
「ああ。だがそれがどうした?」
「滑車の片方が下がれば。被害者は非常口にぶつかるんです」
僕は思い出した。被害者が亡くなっていたのは。
丁度非常口の真下だったはずだ。
「犯人は非常口に剣を固定して。滑車で登ってきた被害者を殺害したのです!」
「な、なんですとぉ!?」
僕の推理に、シェイプさんが驚いている。
「で、ですが! 滑車を動かすには、被害者より重い物体が……」
「ダストボックスに、重たい球体がありました」
もう一度エルフ族の特徴を、おさらいしてみると。
彼らは空を飛ぶため、体重が軽いのだ。
「あの重さの鉄球なら、落とすことは可能です」
「ふむ。でも犯人が鉄球を落としたなら、その時非常口は開いていたことになる」
パイプは天井のすぐ傍にあったから。
滑車の仕掛けをしたのは、非常口からだろう。
「非常口が開いていたら、剣が刺さらないではないですか!?」
「ええ。滑車の動きは、非常口を閉じてから行ったはずですよ」
これで全てが繋がった。犯人が行った、トリックを。
全て解明してやるんだ!
「犯人はパイプに、鉄球を引っかけたのです」
「引っかけた? ま、まさか私が聞いた、ジャンプの音は……!」
「はい。犯人が天井を振動させ。被害者を殺害する音だったんです!」
今までの流れをおさらいしておくと。
犯人は被害者にロープを括り付け。反対側に鉄球を付けた。
そのロープをパイプに通して、被害者を非常口真下に落下。
鉄球をパイプに挟んでおき、非常口を閉じる。
その後上の階で、ジャンプすることで天井に振動が発生。
揺れの影響で鉄球が落ちて、被害者は非常口にぶつかる。
その非常口には剣が固定されており。
被害者は背中から剣が突き刺さって、殺害されたという事になる。
「そ、そんなトリックを使えば、天井に血が……」
「ですから犯人は。血痕さえも吸い取る布を使ったんです」
あの布は返り血を防ぐためのものじゃない。
天井で被害者を殺害したことを、隠すためのものだったんだ。
前後に装備されていたのは。
天井に血痕を残さないためと。
下に垂れて仕掛けがバレないためだろう。
「この方法を使えば、被害者を遠隔で殺害することは可能です」
「なんという事だ……。また坊主がやってくれたなあ」
これでルシェ様以外にも、殺害が行えることを証明した。
問題はここからだ。誰が犯人なのか。
この仕掛け自体は、屋敷に居たドワーフなら誰でも行える。
「しかし、もう一つ疑問がありますな」
「被害者をどうやって、執務室まで連れ去ったか。ですよね?」
「は、はい。探偵殿はその方法も分かっているのですか?」
これは何てことの無い、やり方だ。
「犯人は被害者を、中庭に誘導したんです」
「中庭ですか。確か執務室の窓があるのも、そこですな」
「睡眠薬で体調不良でしたから。"風にでもあたって"とでも言えば良い」
被害者が自分の意思で中庭に向かったなら。
目立つことはないだろう。
「その後同じく滑車を使って、被害者を執務室まで持ち上げたのです」
「トリックの再利用ですか……。エコですね」
「いや。死体作ってるから、環境破壊だろう」
……。
「執務室の窓や、事前の仕込みから。犯人はこの屋敷に精通している者と考えられます」
「ふむ。屋敷の者を疑うのは心苦しいですが、そうなりますね」
「いや。今も屋敷で働いているとは、限りませんよ」
昔屋敷で働いていたとか。屋敷の建築とかに詳しい者なら。
誰にだってこのトリックを仕掛けることは可能だ。
「まさか探偵殿は、既に犯人が分かっておられるのですか!?」
間違いない。トリックに使われた道具の準備。
屋敷に詳しい事を隠しているドワーフ。
アリバイがない犯人はあのドワーフだ!
「はい。この事件の犯人。ソウヤさんを殺害したドワーフは……」
僕は犯人に向けて、人差し指を突き出した。
そのドワーフは屋敷に詳しい事を、示すようこがある。
何故なら巧妙に、シェイプさんから逃れていたのだから。
「チイさん。貴方だ」




