第6話 推理議論序盤~昏睡方法~
「さて、魔界側の主張では。ルシェさんに罪を着せる策謀とのことだけど……」
相変らず推理の場になったら、アリス様が仕切ってくれる。
ルシェ様が犯人だなんて、あり得ないのだ。
必ず罪を着せた犯人が居る。僕はこの場でそれを証明する。
議論に参加するのは、魔界の王である魔王様。
ドワーフの国最高権威者、ドワーフ大統領。
人界聖騎士団の長、ルナティックさんと中々のメンバーだ。
「まず話し合うべきは、ルシェさんの体調不良についてですね」
ルシェ様は僕らよりも少し前に、体調が悪くなった。
僕も他の者に比べて、少々具合が悪かったようだ。
まずは犯人がどうやって、ルシェ様の意識を奪ったのか。それを証明しよう。
「まず、全員のコーヒーの睡眠薬が混入されていたのが、気になりますね」
「ああ。それも全て同じ量だ。どれも昏睡しないはずのな」
睡眠薬は眠らせるために、利用するべきものだ。
本来眠らない量の薬を飲ませるのは妙だ。
「犯人がルシェに罪を着せたらな。娘をピンポイントで狙ったのか?」
「コーヒーを選んだのは、俺達自身だ。つまり、誰がどのカップを取るかランダムなんだよ」
その通りだ。コーヒーは誰がどれを取るか。
犯人もコントロール出来なかったはず。
「先ほども言いましたが、薬の量は全て同じです」
「むぅ……。ならルシェは何故、眠ったんだ」
「本人が証言しているだけだな」
大統領の主張も分かる。彼女が意識を失っていたかどうか。
証明するのは彼女の証言のみだ。
「薬が同じ量な以上。睡眠状態になることはあり得ない」
「それは違うと思いますよ」
僕は大統領の主張に、反論を述べた。
「確かに睡眠薬だけなら、昏睡状態になることはあり得ませんが、ハーブと合わせるとどうでしょう?」
「ハーブ? どういう事だね?」
「僕は今朝、ドワーフの商店で。ぐっすり眠れるハーブを見ました」
ハーブとは呼吸で吸うものだ。香りはしても、目には見えない。
だから誰も気づくことが出来ずにいたんだ。
「親方は言ってました。薬を飲んでしまうと、意識が朦朧としてしまうと」
「なるほど。座席の方に、ハーブを仕込んでいたわけか。座席は指定だったからな」
「はい。こうすることで、被害者とルシェ様だけを狙って、昏睡させる事が可能なんです」
全員が睡眠薬を飲んだのなら、睡魔が来ていたはずだ。
その状態でハーブを吸ったら、親方の言う通り意識が朦朧とするのだろう。
「その証拠に、ルシェ様の隣の席に居た僕も意識を失いました」
「僅かにハーブを吸った訳だな。そう言えば、被害者の隣に座っていた大統領も……」
「うむ。確かに体調が悪くなったな……」
どうやら全員納得したようだ。
「もしハーブが被害者殺害に関係あるなら。ルシェさんに犯行は不可能ですね」
ルシェ様は今朝、屋敷に来たばかりなのだ。
事前に睡眠薬を仕込むことは勿論、ハーブの入手も不可能だ。
「ですが、現場は密室でした。ハーブが事件に関係する証拠はありません」
「うん。だから次は、密室について議論をしようと思う」
密室の真相が分かれば、ルシェ様への疑いは晴れる。
現状彼女が最も疑わしいのは、現場が密室だったからだ。
「現場は密室状態で、外側から開けることは出来ませんした」
「ああ。でも鍵がかかっていたか、定かじゃないぜ」
ルナティックさん達と確認したのは。ドアが開かなかったかだけだ。
確かに鍵がかかっていたとは、言い切れない。
「では鍵以外の方法で、扉の開封を封じたのかね?」
「それなら犯人自身も、密室から抜け出せないのでは?」
大統領はあくまでルシェ様を疑っているようだ。
ドワーフ騎士団の見解上、そう主張するほかないのだろう。
「いや。そうとも限らねえ。あの扉は内開きだ。何かものを引っかけたなら、扉の開閉を封じられる」
「そうですね。僕もそれに賛成です」
あの扉に鍵なんてかかっていなかった。
僕はそう確信している。
「本ですよ。現場には大量の本が、散乱していました」
「ふむ。確かにそうだが……。本などで、扉を塞げるのかね?」
「確かに普通に積むなら不可能ですけど。反対側の壁までぎっしり詰め込めば良いんです」
殆ど隙間の内容に、ぎっしりと詰め込んでおけば。
反対側の壁に引っかかって、押し出すことが出来なくなる。
「このやり方なら、扉を閉める前に。扉と接触する本を立てかけておけば……」
犯人が通れるギリギリの隙間を、扉に作っておく。
そこに本を立てかけておけば、扉を閉めた時に倒れるだろう。
「密室の外に居ながら、扉の開閉を封じることがかのうです」
「なるほどな。そうなれば、ちょっと押したくらいじゃ、扉は開かないってことか」
「はい。扉が普通では開かない状態を作れば、犯人にとって良かったはずですから」
鍵がかかっていると、錯覚させる事が出来ればそれで良いのだ。
強い力で押せば、本はバラけて扉は開くけど。
錯覚が起きた後なら、扉が開いても不都合はない。
「しかも扉を開けた時、本は散らばりますから」
「ついでに証拠隠滅かよ……。でもよ。俺らが鍵を持ってきたら、鍵がかかってないのにバレちまうぞ」
「あの時は大きな音がしましたから。慌てて部屋に入る事も計算済みだったはずです」
何かあったのか心配になり、僕らは扉をぶち破った。
そういう焦りを利用して、このトリックを仕組んだのだ。
「やれやれ。人界の聖騎士の長がまんまとやられちまったわけか……」
「なるほど。あの部屋は、外から密室が作れると……」
密室が作れる以上、ルシェ様以外にも部屋には居る事が出来るんだけど……。
「ですが探偵殿。被害者の死亡してい時刻に部屋に入ったのは、ルシェ殿だけですよ?」
僕はシェイプさんに反論される。
やっぱりそこを突かれるよなぁ……。
その通りなんだ。犯行時刻に部屋に入ったのを目撃されたのは、ルシェ様のみ。
その前に密室を作ったら、ルシェ様は入れないし。
その後に作ったなら、犯人が目撃されないとおかしい。
「そもそもルシェさんは、何故現場に居たのでしょうか?」
本人は覚えていないとのことだ。
睡眠薬で意識が朦朧としていたのだから、仕方のない話だけど。
きっと犯人はそこにも、仕掛けを施しているはずだ。
「それに被害者が現場に入った姿を、誰も見ていないのも気になります」
「シンプルに考えれば、別の入り口から入ったってことになるよね?」
被害者が現場に入った別ルート。
それこそが、この事件を根本的に覆るきっかけとなるのだ。
「ユウキには分かっているようですね? 他のルートの存在が」
「うん。多分犯人は、被害者を……」
ここから先は、僕はとんでもない事を口にする。
この発言をしてたら、後には引けなくなる。
覚悟は良いかっと、自分に問いただしてから口を開いた。
「大統領執務室にある、非常口から入れたはずだからね」
「なっ……!」
全員が絶句するのが、聞こえてくる。
当然だ。そうなれば、被害者は大統領の執務室に、訪れたという事になる。
そして事件当時、大統領は執務室に居たのだ。
「まさか大統領を、告発する気ですか?」
「いや。それはないですよ。事件の前に大統領も、睡眠薬とハーブを吸っていますから」
あの時僕が意識を失ったように、大統領にも同じ症状が起きたはずだ。
マグカップ全てに睡眠薬が仕込まれた以上。
大統領も間違いなく、薬を飲んでいるはずなのだから。
「でも裏を返せば、大統領が意識を失っている間。誰かが執務室に入っても気づかないって事なんだよ」




