第5話 捜査終盤~執務室と深まる謎~
「貴方シェイプさんですよね? お話を聞かせてもらっても良いですか?」
僕は食堂で片づけをしている、執事に声をかけた。
本当は事件後の現場周辺で、物に触っちゃいけないんだけど。
人界の守護隊が見ているから、大丈夫なのだろう。
「はい。なんでございましょうか?」
「大統領から、詳しい話を貴方から聞けと言われまして……」
「ふむ。私で良ければ、話をしましょう」
僕はシェイプさんの服装を、観察した。
一切シワの無い、綺麗に整ったスーツだ。
ヒゲにも貫禄があり、どこか隙のなさそうな人物に思える。
「とは言え、私に話せる事があるか……。私は大統領の執務室前に居ましたから」
「執務室の前ですか……。誰か執務室に入った者は?」
「いませんな。少なくとも、屋敷内の扉からは」
外から窓を通じて、通って来た可能性はあるという事か……。
大統領は睡眠薬で、眠らされていた。
ちょっとやそっとでは起きない。僕自身が証明だ。
「それから、屋敷をチョロチョロする者に、説教をしていました」
「屋敷をチョロチョロする者?」
それって怪しい人物ではないだろうか?
これはかなり有益な証言が、期待できそうだ。
「職人ドワーフが、"坊主が会えるのに、何故俺が大統領に会えない!"と申していましたので」
……。親方だな。期待した僕が、バカだったみたいだ。
「更に弟子の方が、脇目を抜けて屋敷を駆けまわっていたようです」
チイさんの事か。あの人そそっかしいからなら。
ふむ。親方達も、この屋敷に来ていたのか。
「弟子の方は逃げられましたが。親分のアリバイは証明出来ます」
これってつまり。自分にもアリバイがあると言いたいわけだな。
死亡推定時刻に部屋に入ったのはルシェ様のみ。
もう一つの出入口、非常口はシェイプさんが見張っていた。
でも屋敷の外から侵入した場合、気づかれないか。
大統領が何も言わないってことは、窓ガラスが割られたりはしていないだろう。
「窓ガラスの鍵なら、開いていたようですね」
「えぇ……。そんな不用心な」
大統領が住んでいる屋敷なのだけど。
「外には見張りが居ます故。ここまで侵入できる者はいませんので」
「でも親方達の侵入を許していますよね」
「……。ふむ。警備兵にきつく言わなくては」
余計な事を言っちゃったかな?
とにかく彼から聞ける情報はこのくらいだろう。
不利な証言もあったけど。有意義な証言もあった。
「どうですかな? この老いぼれは、役に立ちましたか?」
「はい。とても」
窓からなら誰でも侵入可能か……。
このことを熟知している者なら、執務室に侵入できる。
そこから現場を出入りすることは、可能なはずだ。
問題は被害者を持って、どうやって二階まで登ったかだな。
被害者は意識を失っていただろうし。
引きずりでもしたら、目立つだろう。
「あぁ。そうだ。もう一つ言い忘れた事がありました」
立ち去ろうとする僕らを、シェイプさんが引き留めた。
「実は執務室から、ドワーフがジャンプした音が聞こえました」
「え? それって、揺れちゃうんじゃないですか?」
「ええ。少なくとも、床はかなり振動したでしょう」
床が振動したってことは、現場の天井が振動したってことだよな?
何か意図があるのか。もしかしたら、天井に……。
「ユウキ。何か分かったのですか?」
「うん。犯行時、現場は完全な密室ではなかったんだ」
上の階からなら出入り可能だ。でも下の階に降りるには、梯子を下す必要がある。
さっき聞いた話だと、梯子を落とす際凄い音が聞こえるようだ。
そんなことをすれば、外の者が気づくらしい。
「う~ん。結局犯人は、あの非常口を通れないですね……」
「梯子を落とすやり方ならね……」
安全に下りてかつ、上に戻る方法は。
何も梯子を掛けるだけじゃない。
ロープか何かを巻きつけて、滑り落ちる事もできるはずだ。
「それに犯人は、天井を揺らす必要があった。天井に何か仕掛けがあったってことだよ」
天井にはパイプが通っていたな。
あの時は深く考えなかったけど。仕掛けを施せるのはそこだ。
そう言えばあの鉄パイプ。非常口のすぐ傍にあったような……。
「坊主。色々考えている所悪いが……。そろそろ限界みたいだぜ」
僕は考えるのに夢中で、全く気付かなかったが。
外が騒がしくなっている。どうやら騎士団が来たようだ。
衛兵だけじゃなく、騎士団も足止めすることは不可能だ。
ルシェ様が連れていかれる前に、彼女以外に犯行が可能な事を証明しないと。
大丈夫。今まで見つけた証拠の中に、ヒントはちゃんとあるんだ。
「行きましょうか。アリス様。出来れば今回も、仕切ってくれると有り難いんですけど」
「ほう。お前に頼られるとは。良いでしょう」
アリス様、頼られて少し誇らしげだ。
単純なひとだなぁ。なんて顔に出したら、また切られそうだ。
アレを食らうのはもう勘弁なので、僕は何を口にせず衛兵のもとに向かった。
衛兵が集まっている場所には、それを足止めする魔王様と。
衛兵を沈めようとしている、ドワーフ大統領が居た。
更に僕達についてくるように、ルナティックさんとシェイプさんも。
「って……。何で居るんですか? 親方……」
「おう! 坊主! チイと一緒にちょっと、見学にな」
「ちょっとで侵入できる場所じゃないでしょ……」
前の事件の時も思ったけど、大胆なドワーフだなぁ。
酸素ボンベなんて作れるから、凄い存在なんだろうけど。
その態度からは、まるで凄さを感じない。
「でも感謝しろよな。嬢ちゃんが連れていかれないよう、俺も足止めしたんだから」
「そうなんですか……。それはありがとうございます」
「おう。あの嬢ちゃん、かなり不安そうだ。でもお前を信じている」
殺エルフ犯として疑われているんだ。それは不安だろう。
でも僕を信じて、態度に出さないようにしているようだ。
だったら僕も、その期待に応えてみせる!
この場所で真実を明らかにして、犯人を問い詰めるんだ!
今まで通り、議論で流れを変えて見せる。
「ユウキ。準備は良いですか?」
アリス様が大声で、注目を集める用意をした。
僕は頷いて答える。大丈夫だと。
「聞きなさい! この場は私! アリスが仕切ります!」
全員の注目が僕達に、集まる。
「これより犯人が誰かの議論を、開始したいと思います!」
「考える余地もねえ! 魔王の娘が犯人だ!」
「反論があるなら、感情ではなく論証で答えなさい!」
アリス様に剣を向けられたうえ、睨まれるドワーフの衛兵。
隣に居るだけでも凄い迫力だ。僕も怯むほどだった。
「しっかりしなさい。お前が情けないと、彼女が不安がるでしょう」
「え、ええ。そうですね……。やってやります!」
正直な所、今回の事件は殆ど何も分かっていない。
何故被害者は無抵抗で、背中を刺されていたのか?
部屋に荒らされた形跡がある理由は?
被害者はどうやって、現場に入ったのか?
そして、犯人は誰なのか?
「もう一度、分かっている情報をおさらいしよう」
現場には本が大量に散らばっていた。
更には円柱の積み木と、割れた木の板。
天井にはパイプが通っており、大統領の執務室に繋がる非常口もある。
コーヒーには睡眠薬が混入されていたが、眠るほどの量じゃない。
シェイプさんが言うには、屋敷の中から執務室に入った者はいない。
執務室から、誰かがジャンプした音が聞こえてきたとのこと。
ダストボックスで見つかった、重たい鉄球。
間違いなく、現場から落ちたものだ。
最後に被害者を囲むように、前後につけられた布。
「やってやるさ! ルシェ様のためにも!」




