第4話 捜査中盤~犯人像~
僕は周辺人物の聞き込みを開始した。
ルシェ様が犯人でないなら、周辺の者が怪しい。
まだ犯人像が明確じゃないから、聞き込みから明らかにしようという算段だ。
僕が廊下で周囲を探していると。現場の前でドワーフの大統領と出会った。
彼は僕に気付くなり、軽く頭を下げてくれた。
僕も慌てて頭を下げて、挨拶をする。
「大変な事になってしまったな。客人に申し訳が立たない……」
大統領は捜査を指揮している様子はない。
多分ドワーフの衛兵が、独断でルシェ様を疑っているんだ。
「君達に申し訳ないが。私にも立場がある。衛兵の面子を保ちたいんだ」
「はい。理解しています」
ドワーフの国としては、客人を殺された犯人を自分達で捕まえたいだろう。
双子塔事件の時、僕はマホさんに同じように謝罪された。
それだけ国の面子と言うものは、重たいのだ。
「少しお話を伺っても、宜しいでしょうか?」
「こんな私で役に立てるならな」
大統領と言う立場の割に、随分と謙虚なお方のようだ。
ルナティックさんは彼の関与を疑っているけど……。
僕には演技をしているようには見えない。
「事件が起きた時、大統領は何か見聞きしましたか?」
「いや。恥ずかしながら、その時は執務室で気を失っていた」
「気を失っていた?」
なんだろう。凄く気になるワードだ。
「あの会談の後、何故か朦朧として。私は執務室で休むことにした」
「執務室と言うと。現場の上にある部屋ですね」
現場で見た緊急用の非常口が、繋がっている部屋でもある。
会談の後に意識を失っていたか……。
僕と同じ状況が、大統領にも起きていたようだ。
「深く眠っていたようだから、何も見聞きできなかったよ」
「そうですか……」
「情けない事に。執務室に誰か入ってきても、何も気づかなかっただろうな」
それほど深い昏睡状態にあったと言う事か。
僕も気が付けば一時間ほど寝ていたからな。
やはり何か仕込まれていたとしか、思えない。
「君達には申し訳ないが、現状最も疑わしきは、ルシェ殿だ」
「密室の中に居たからですか?」
「それだけじゃない。被害者の死亡推定時刻が分かったのだ」
あの技術は人界だけのものじゃなかったのか?
「被害者は会談終了後、一時間前までは生きていた。彼は目撃されている」
「あぁ……。死体の具合ではなく、目撃証言で割り出した訳ですか……」
「そしてその間、現場となる部屋に入ったのは、ルシェ殿だけらしいのだ」
現場は密室だった上、現場に入ったのはルシェ様だけか。
とんでもなく不利な条件だけど。重要な証言が出てきたな。
「ルシェ様だけってことは、当然被害者も入っていないわけですよね?」
「その通りだ。だから何故被害者が部屋の中で、死んでいるのやら……」
なるほど。大体中の様子は、見えてきたな。
僕は現場となっている部屋をじっと見つめる。
青い看板に、赤い字で客室と書かれている。
「ルシェ様は、何故客室に居たのだろうか?」
僕は看板を不審に思い、救護室を調べてみた。
看板は固定されており、すり替えることは不可能なようだ。
「ん? この看板。僅かだけど、何かが貼られた跡があるな……」
赤い看板に青い文字で、救護室と書かれている。
あの時大統領は、赤い看板が救護室だと言った。
この場合文字ではなく、看板の色の事だろうな。
きっと意識が薄れて、文字が読めないと判断したのだろう。
だから文字ではなく、看板の色を教えたのだ。
「大体の事は分かってきたけど……」
現場の状況は分かってきた。現状僕にとって、不利過ぎる事も。
後僕に出来る事は、他の者に聞き込みをすることと。
ルナティックさんの報告を待つ事だけか。
「ありがとうございます。大統領。参考になりました」
僕は大統領にお礼を、口にした。
彼のおかげで事件の状況が、大体掴めてきた。
「ああ。そうだ。詳しい事ならシェイプに聞くと良い」
「シェイプさん?」
「私の執事だよ。食堂でコーヒーを配っていただろ?」
ああ。あの少し年配のドワーフの事か。
名前を初めて聞いたので、判別がつかなかった。
「彼は今、食堂に居るらしい。話を聞いてみたらどうだ?」
「ありがとうございます。そうしてみます」
僕は大統領にもう一度頭を下げてから、この場を立ち去った。
食堂はルナティックさんが、捜査中の場所だ。
情報共有がてら、シェイプさんに話を伺っておこう。
「ユウキ、ここまでで具体的犯人像は見えてきましたか?」
「まだぼんやりしていますが、少しずつ見えてきましたよ」
「では一度、犯人像をプロファイリングしてみてはいかかげですか?」
今ある情報を整理して、犯人像を明確にするか。
やるだけやってみよう。
「まず犯人は食事に何か仕込んだ。これは間違いないよ」
「ふむ。事前に食事に細工出来る者ってことですね?」
「つまり、この屋敷に前もって居た人物と言う事になる」
食堂の位置や、食事の内容、食器の位置など。
どこに仕込むにせよ、それらを把握することは不可欠だ。
「部屋の荒れ具合も、何かを隠すためなら相当詳しい者のはずだ」
「確かに。現場に何があるのか把握していないと、荒らして隠すのは難しいでしょう」
「密室を作れる事から、犯人は屋敷に熟知している者だと考えられる」
このことから長年屋敷に、仕えていた者ってことになる。
だから会談に来ただけの存在は、犯人から除外されるだろう。
「更に犯人は、ダストボックス捨てられた。重たい球体を軽々持ち上げられる人物だ」
「ふむ。よっぽどの力自慢てことですね?」
「そんなことが可能なのは、ドワーフ族くらいだろうね」
ここから見えてくる犯人像は。
屋敷に熟知した、長年仕えてきたドワーフ族と言う事になる。
やっぱりこの場合、執務室がある大統領にも容疑が広がる。
この屋敷で執務を行っていたなら、屋敷に相当長くいたはず。
彼に聞けば、他に長くいたドワーフは分かりそうだけど……。
多分容疑者は相当多いだろうだな。
「取り合えず、浮かび上がったのはこれくらいかな?」
「まだ数は多いですが、絞り込めた方ではありますね」
「とにかく、食堂で情報を集めよう。あまり時間もないし」
既に捜査開始から、三十分が経過している。
残り時間は半分。それも長く見積もってもだ。
時間を無駄にしている余裕はない。次の食堂で多くの情報を集めるんだ。
僕は祈るような気持ちで、食堂に向かった。
ここでは既にルナティックさんが、部下に指示を出していた。
「よう、坊主。何か分かったか?」
「ええ。状況は大体把握してきました」
「そんな坊主に朗報だ。やはりコーヒーに、睡眠薬が仕込まれたいたよ」
あのコーヒー、変な味がしたけど。
やっぱりあれは薬の影響だったんだな。
「だが妙なことに、検出された量は殆ど眠らないような少量だ」
「え?」
「しかも、全員のマグカップの方から検出された。俺達全員が、少量の睡眠薬を飲んだことになる」
少量の睡眠薬だって? じゃあ何故僕は、眠らされたんだ?
しかも全員に仕込まれたなら、何故特定の人物にのみ強い作用が。
「ルシェ様が座っていた席、調べてみる必要があるな……」
僕はマグカップだけじゃなく、席にも睡眠薬が仕込まれた可能性を考えた。
ルシェ様が座っていた席を知らべてみる。
「残念だが、そこから睡眠薬は検出されなかったぜ」
「そうですか……。ん? 何か香りがするような……」
商談の時は緊張していて、気づかなかったけど。
この席、妙にいい匂いがするような気がする。
ルシェ様の匂いって事はない。彼女が席をたって、随分時間が経っているからな。
「これはハーフの匂いか?」
ルシェ様の席にハーブが塗られていたのか?
ちょっと待て。ハーブの話、つい最近したような気がするぞ。
「なるほど。大体真実が見えてきたな」




