第3話 捜査序盤~容疑者~
ドワーフの衛兵が現場に押し寄せた途端。
僕達は追い出された。当然現場は封鎖状態だ。
衛兵達はルシェ様に疑いを向けて、彼女を拘束した。
この状況だと、無理はない。何せ現場は密室だったのだから。
でも彼女が犯人でない事は、僕自身が一番理解している。
僕が考え事をしていると。魔王様が慌てた様で、走ってきた。
「ユウキ君! ルシェは!? 娘は無事なのか?」
「魔王様。ハッキリ言って、状況はかなり悪いと言えますね……」
僕は現場で見たことを、魔王様に話した。
現状だと、ルシェ様以外に容疑者が見つからない事。
救護室に居るはずの彼女が、何故現場にいたのか説明出来ない事。
とにかく僕達にとって、不利な条件ばかりが提示されている。
でも希望がないわけじゃない。現場には何か仕掛けが施された痕跡がある。
これはルシェ様以外の誰かが、現場に細工をしたという事だ。
「それに、犯人が何故ソウヤさんを殺害したのかも、分かっていませんし……」
「ふむ。もしかしたら……。例の事がバレていたのかもしれないな……」
「例の事?」
僕は魔王様に聞き返した。
「告発文だ。彼は船内の事件を得て、自分の罪を告白しようとした」
「ソウヤさんの罪? なんですかそれは?」
「自分が十二年前の事件に関与していた事。それを指揮する者がいたことだよ」
十二年前の事件と言うと、コン家没落事件の事か。
確かにソウヤさんは、コン家の土地を購入している。
それは誰かの差し金なのだろう。
「その人物はエルフ族のお偉いさんだ。だから彼はドワーフの国で、告発文を書こうとしたんだ」
「確かにドワーフの国で提出されたら。エルフの政治家でももみ消せませんもの」
ソウヤさんが僕達に付き添っていたのは、それが理由だったのか。
犯人は告発文の提出を、阻止するためにソウヤさん殺害した。
でも告発を受けるのは、エルフの政治家のはずだ。
この場に居るのはドワーフと、人界人と魔物のみ。
エルフ族はソウヤさん以外、いなかったはず。
「動機が分かった代わりに、謎が深まりましたね……」
「いや。そうでもないぜ」
ルナティックさんが頭を掻きながら、現場から出てきた。
表情から察するに、国際騎士の介入は失敗したそうだ。
「十二年前。コン家の領地で見つかった鉱石があったろ?」
「はい。酸素ボンベに使われた、材料の事ですね?」
「その鉱石を独占して、今の地位に上り詰めたのが。現在のドワーフ大統領だと言ったよな?」
船の上でそんな話をしたような気がする。
十二年前の船の沈没事件。アレは初めから、ケー・コンさんに罪を着せるつもりだった。
全ては鉱石を得るためとのことだったけど……。・
「十二年前の告発文が出て。困るのは誰だ?」
「それはまあ……。大統領ですけど……」
でも大統領が国民から受ける印象と、微妙に差異があるんだよなぁ。
貧困街出身のドワーフが、大統領になるにはやっぱり後ろ盾がいるんだけど。
彼は貧困街を救い、彼らから英雄視されている。
「でも現在大統領の恩恵を受けている者の仕業ってことも、考えられます」
「まあな。結局容疑者を絞り出すには、根拠が薄い」
でも大きな手掛かりでもある。告発文か。
覚えていた方が、良さそうだな。
「それから俺は一つ気になるんだがよ。食後ちょっと頭が、ボーっとしなかったか?」
「え? ルナティックさんも。実は僕も意識が朦朧となって……」
「私もだよ。ふむ。どうやら食堂を調べた方が良さそうだね」
全員が意識が薄まったってことは、食事に仕掛けがあったってことだ。
でも出される食事に、何かを混入するなんて。
ウェイターかコックにしか不可能だよなぁ。
「食堂は俺が調べておこう。お前達は別の場所を頼む」
「ふむ。では私はルシェが連れていかれるまでの、時間を稼ごう」
ルナティックさんと魔王様の動きは、決まったようだ。
「僕はダストボックスの先と、現場の真上を調べようと思います」
「現場の上の部屋は無理だな。何せあそこは、"大統領執務室"なんだから」
現場の上の階が、大統領の執務室か……。
「アリス様はどうなれますか?」
「お前が熱くなって余計な事をしない様、見張っておきましょう」
正直見張られるのは、居心地が悪いが。
アリス様は知識は沢山ある。捜査のサポートをしてくれるのは、有り難い。
「まずはダストボックスの先を調べましょう」
「ゴミ漁りですか。捜査の基本ですね」
現場からダストボックスに、何か捨てられた可能性がある。
手がかりがあるなら、探らない手はないだろう。
僕達はゴミの処理場がある、地下へと歩き出した。
「それで、お前は実際どう思っているのです?」
「なにがですか?」
「ドワーフ大統領が、犯人の可能性があるのかと言う事ですよ」
大統領が犯人の可能性は、正直高いと思う。
でも親方の話だと、大統領は殺エルフなんかするドワーフじゃない。
勿論国民の前では、演技をしている可能性も否定できないけど……。
「もしそうなら、告発は慎重に行うべきですね」
「ええ。ここはドワーフの国。最高権威者を告発するのですから」
この国では大統領が、法律である。
彼の罪を立証しようものなら、相当な戦略が必要となるだろう。
でも僕は思う。本当に彼が犯人なのだろうかと。
考え事をしながら地下室を下りると、直ぐにゴミ処理場にたどり着いた。
地下室は作業場のようで、客人に見せるような場所ではなさそうだ。
「凄い数のゴミですね。本当にこの中から見つけるのですか?」
「はい。ルシェ様の無実のためなら、僕は何でもします」
とは言え、手がかりが何もないわけでもない。
現場から投げ捨てられたのは、つい最近の事だ。
つまり気になる物は、上の方に置かれている可能性が高い。
僕がゴミを漁り始めると、あるものを見つけた。
それは鉄球だ。手のひらサイズなので持ってみようとしたら。
意外と重くて、持ち上がらなかった。
「これ、滅茶苦茶重たいですね。エルフの大人より重いんじゃ」
「ふむ。質量が高いようですね。鉄球に見えますが、鉄ではなさそうです」
「なんでこんなものが、捨てられているんだ?」
ここは燃えるゴミの処理場のはずだ。
この金属球は燃えるゴミなのか?
「これ、本当に現場から落ちたのでしょうか?」
「間違いないと思います。僅かですが、木材が付着しています」
この木材は、現場で見た木の板と同じものに見えた。
と言う事は、この球体は木の板と接触したという事になる。
その後ダストボックスを通って、この場所まで来たのだ。
「他に気になるものはありませんね……」
まずいな……。魔王様が交渉してくれているが。
ルシェ様が騎士団に連れていかれるまで、もって一時間と言ったところだ。
今の所手がかりがなさ過ぎる。犯人が誰でどうやって被害者を殺したのか。
「ルシェ様……」
僕は探偵であると同時に、彼女の付き人でもある。
彼女は悪魔として失格だった、僕に仕事をくれた魔物だ。
それに僕は……。なんとしても彼女を助けたい!
僕は深呼吸をして、心を落ち着かせた。
ここで焦れば、全てが台無しになる……。
ここは落ち着いて、探偵らしく捜査を続けるんだ。
「ほう。軟弱な胴体の割に、メンタルは中々のものですね」
「伊達に悪魔をやってませんから」
まだ捜査すべき所は残っている。
例えば聞き込みとか。僕は本当にドワーフ大統領が犯人か、疑問に思っている。
そのためにも大統領がどんなドワーフか。その周りの者に聴くのが一番良い。
「一体誰が犯人なんだ?」




