エピローグ 死神の復讐
デッカさんが全てを認めた。十二年前の犯行を含めて全てを。
後日改めて、海底の捜査が開始される。
その時、デッカさんが残した証拠も回収されるだろう。
酸素ボンベの無実が証明された以上、彼はもう言い逃れ出来ない。、
僕は両親の残した事件を解決することが出来た。
でもそれは表面上の話だ。まだ事件は何も終わっていない。
「首謀者か……」
ツカサもデッカさんも、十二年前の首謀者に操られた駒に過ぎなかった。
その首謀者は利益によって、他者を支配する。
ルナティックさんの話によれば、人界の元老院も数名支配下にあるらしい。
それだけじゃない。デッカさんの様に、エルフ族にも首謀者の言いなりの存在が居る。
エルフの政治家にも、首謀者の息がかかった者がいるのだ。
だからこそ、マホさんは政治家になり、逸れに抗おうとした。
「もしかしたら、ドワーフの国にも……」
首謀者は鉱石を、ドワーフに売る様に指示を出した。
それによって、利益を得た存在も首謀者の駒なのかもしれない。
ドワーフの国さえも、首謀者の影があるという事だ。
一つ確かな事は、魔界に首謀者の息がかかった者はいない。
恐らく首謀者が人界人だからだ。魔界と人界は長きに渡り争っていた。
和平が昨日結ばれるまで、首謀者は魔界に手出しできなかったはずだ。
「でも和平が結ばれた今……。いつ魔の手が伸びてもおかしくないんだよなぁ……」
僕は星空を見上げながら、呟いた。
現在はエルフの国の宿泊施設に泊まっている。
バルコニーから外に出て、空気を吸っていた。
昨日と今日で色々あり過ぎた。少し頭がパンクしそうだ。
でも明日から、ドワーフの国にもいかなければならない。
ルナティックさんは調べもの。僕らは買い物に行くために。
「明日こそ、何もなければ良いんだけど……」
僕は不安に思いながら、コーヒーに手を付けた。
魔界と人界の和平が成立した瞬間。立て続けに事件が起きている。
どうやらこの和平で、良くない勢力が動き出しているようだ。
「ノー。明日も事件が起きる」
「!? 誰!?」
背後から声をかけられて、僕は警戒しながら振り返った。
見知らぬ人物が、僕の視界に入る。
黒いローブで身を包み、フードを被った人物。
顔を青い仮面で隠し、素顔を封じた謎の人物。
性別も分からない。外見からの情報が少なすぎる。
「私は君の敵ではない」
「だったら、素顔を隠さないと思うけど?」
「だが味方でもない。私は真実を追うものだ」
この人物に異様な空気を感じていた。
どこか懐かしさがあるような……。
それでいて物かなしさがあるような。そんな雰囲気だ。
「真実を追うなら、僕も一緒だ」
「違う。君のやり方では、黒幕にたどり着けない。合法的やり方では、首謀者は倒せない」
同じ真実を追うものでありながら。フードの人物は違法な方法で捜査をするのか……。
僕はどうなんだ? 捜査権がないのに、勝手に捜査する僕も。
合法的存在と言えるのだろうか?
「黒幕を倒すには、他者を利用する事も必要」
「利用だって?」
「そう。例え絆があっても、切り捨てる事が必要。アスハの様に」
「まさか……。貴方は……」
アスハさんの事件は、何者かに諭されて起きた事件だ。
あの時彼女は、死神によって動かされたと言っていた。
実際本物の死神は、ツカサだった訳だが。彼は知らないと言っていた。
「もう一人の死神……」
「イエス。そしてまたの名を、ヘイホウ・コンと言う。
「ヘイホウ……。十二年前の裁判の証人……」
そしてコン家没落事件で逮捕された、ケー・コンさんの息子でもある。
確かに当時子供でも、十二年も経ったら僕より年上だ。
「これは復讐なんですか? 父親を罠に嵌めた者達への……」
「……。あの事件は多くの者を不幸にした。私はその首謀者を許せないのだ」
なんだ? 今の発言の間は……。
ヘイホウ・コンの動機にしては、少し不自然な気がするけど……。
「君は見事十二年前の真相を暴いた。だが、もう首謀者を追うな」
「どういう意味ですか?」
「君の追っている事件は。君が思っているより、遥かに強大な事件だ」
確かに。僕が当初思い描いていた謎より、ずっと恐ろしい真実だった。
でも何故、もう一人の死神が僕のみを案じるような事を言うのだろうか?
「首謀者は私が必ず見つけ出す。そしてこの手で始末する」
「それをすれば、二度と真実を明かす事が出来なくなりますよ?」
「構わない。私が罪を被れば、主謀者の目的は、潰える事となる」
どうやらこの人と僕の目的は一致しているが、やり方が合わないようだ。
合法的なやり方では、主謀者を追い詰める事が出来ないか……。
その点だけは、僕も同じ考えた。
「それは出来ません。僕は正義より、真実が大事なんです」
「君が目指す先に、残酷な結末が待っていたとしてもか?」
「はい。きっと僕の両親なら、そうすると思うんです」
僕は両親と一緒に過ごした時間は短いけど。
この気持ちだけは、きっと彼らから引き継げたものだ。
「僕は父と母の話を断片的にしか聞いていません。だからどんな人物かも分かりません」
「……」
「でも僕には分かるんです。同じ事件に直面して。彼らが何を思ったのか」
きっとこの気持ちだけは、両親と同じはずだ。
真実を明らかにしたいという気持ちだけは。
「だから僕は、貴方の言うことは聞けません。僕は真実を暴く、探偵ですから」
「そうか……。余計なお世話だったな」
「忠告は聞きます。最低限の警戒はしますよ」
「その割に、目の前の怪しい人物と親しんでいるようだがな」
少しだけフードの人物が、笑った気がした。
その笑顔にどこか懐かしさと喜びを感じる。
「直感ですけど、貴方の事は信頼できる気がするんです」
「私がホソを操り、魔王の身代わりになることを提案したとしてもか?」
「はい。きっと貴方なりの、正義があったんでしょうね」
ホソさんが亡くなったことは、許せないことだけど。
憎むべきは犯行を仕組んだ、ツカサの方だ。
「そうか。"立派になった"な」
「お蔭様でね」
「でも君の両親は、君が思っているような立派な人物じゃない」
物悲しそうな声で、フードを取る仮面の人物。
女性だ。それだけは判別で来た。本物のヘイホウ・コンじゃない。
彼の名前を語るだけの、復讐者なのだろう、。
「君の両親は十二年前、真実を掴み損ねた。そして多くの人物を不幸にした」
「でも十二年間、真実を追い続けた」
「その結果、現実を知り。当初の志を失った」
僕にはこの人物の正体が、理解できた。
分かってしまった。でも今それを口にすることはできない。
「それでも。僕は両親を尊敬します。だから真実を追い求める。僕のやり方でね」
「そうか……。その言葉が聞けただけで、侵入した価値があったな」
目の前の女性は、バルコニーから屋根に飛び乗った。
「明日、ドワーフ達が良からぬ事を考えているようだ」
「良からなぬ事?」
「詳細は分からないが。穏やかで済まないだろう。だが……。貴方なら大丈夫だ」
やはり主謀者側が、何か動き出しているのだろう。
もしかしたらそれは、魔界をも取り込む算段なのかもしれない。
でも僕が真実を明らかにしたら、主謀者の目論見は外れるはずだ。
「真実を追い求める"ユウキ"を持つ子に育ちますように」
「それが僕の……」
「私は私のやり方で真実を求める。もしかしたら、どこかで道が交わり、対立するかもしれない」
その時は僕も容赦しない。そう覚悟を決めておこう。
「さようなら。ありがとう。十二年間の真実を探してくれて。立派に育ってくれて……」
謎の女性はその言葉だけを残して、この場から走り去る。
僕は彼女の背中を追う気にはなれない。
彼女の目的は真実から、復讐に変化しているのだろう。
これは死神の復讐だ。だけど僕は信じている。
きっとまだ、真実を明かしたい気持ちが仮面の人物にもあることを。
「明日か……。何が起きても、乗り越えてやる」
こうして四種族を巻き込んだ事件は、最大の謎だけを残して解決した。
僕達は翌日ドワーフの国へ、買い物に向かう事になる。
そこでドワーフの館に巻き込まれて、あの事件が起きる事となった。
十二年前に起きた、コン家没落事件は多くの者を不幸にしたが。
同時に多くの存在が利権を得て、支配下に置かれたのだ。
僕達は首謀者の影響力を、次の事件で嫌でも思い知る事となる。




