第10話 捜査終盤~解決への糸口~
この事件の最後のピースを完成させるため。
僕は酸素を注入した、エルフの下へ向かった。
彼も酸素ボンベの開発に協力していたらしく。
チイさんと一緒に青ざめた表情で、親方たちの言い争いを見つめていた。
自分達が開発したものが、そのデキを疑われている。
複雑な感情になるのも、無理はないだろうな。
「すいません。少しお話聞かせていただいても良いですか?」
「はい。なんでしょうか?」
青い着物を着た、男性エルフが酸素を注入した者だ。
僕は彼に話しかけて、情報を得る事にした。
「酸素ボンベについて、お話聞きたいのですが」
「ええ。私で良ければ、お話させていただきます」
男性エルフは名刺を取り出して、僕に渡してきた。
どうやら彼は、エルフ族でありながら親方の経営する組織に所属するらしい。
名前はデッカか。酸素注入係として、重要なポジションだったんだろうな
「デッカさん。酸素の注入方法について、教えていただけますか?」
「本当は企業秘密なんですが。こうなっては仕方ありません」
企業秘密か。ただ魔法で入れただけではなさそうだ。
「入れた酸素が逃げないために、特殊なチューブに手を入れて酸素を注入するんです」
「特殊なチューブ?」
「はい。空気の流れを一方に制御するものです」
なるほど。入れることは出来ても、出すことは出来ないってことか。
だから酸素ボンベの中身が、溢れることはないと。
「生命の呼吸に耐えられる酸素濃度は、エルフにしか生成できません」
「だからデッカさんが、開発に参加したわけですね」
「ええ。何度か実験をさせて頂きました」
やはり開発者として、現状を痛んでいるのだろう。
デッカさん、少し辛そうな表情をしている。
「ちなみに。小型のボンベもあるんですけど。アレもデッカさんが?」
「はい。水素に窒素、ヘリウムに二酸化炭素など。気体は大体ありますね」
小型ボンベも同じように。純度の高い空気が入れられていたんだろうな。
「他のボンベはどこに保管してあったのですか?」
「船内の倉庫ですね。使う事もないし、適当に保存していたと思います」
適当に保存か。つまり誰でもこっそり拝借することは可能だったわけだな。
ならば、水素とヘリウムのラベルを入れ替える事も可能なはずだ。
「他に何か違和感を持ったことは、ありませんか?」
「ああ。そう言えば。今回は酸素注入完了が、妙に早かったですね」
チイさんも似たような事を言っていたな。
酸素注入が、早かったか。これは重要な証言だろうな。
「それから……。ソウヤさんは妙に、酸素ボンベのせいにしたがっていますね」
「彼とは知り合いなんですか?」
「材料の仕入れ先のエルフですよ。私が良く調達に向かっていました」
材料の調達先だって? 確か酸素ボンベの材料になっている鉱石は……。
「十二年前、土地を買収したソウヤさんが。ドワーフに鉱石を売ってくれたそうですよ」
「でも当時は商売敵だったんですよね? 何故そんなことを?」
「それは分かりませんが……。ソウヤさん、あるドワーフにだけ、鉱石を売っていたようです」
ルナティックさんの話だと、そのドワーフが現大統領だと言う。
十二年前の事件で、ケーさんが逮捕されなかったら。
鉱石はドワーフの手に渡ることはなかった。
ドワーフに独占的に商売したことで、大統領を作り出すことができた。
そしてその鉱石で作られた酸素ボンベが、事件に関わっている。
十二年前の事件の捜査中に、被害者は殺された。
これらは偶然なのか? それとも、因果関係があるのか?
それを知るためにも、犯人に直接問い詰めるしかなさそうだ。
「最後に一つだけ質問させていただいても良いですか? 船内で残留魔力を見た事は?」
「ああ。そう言えば。昨夜ですけど、倉庫で光魔法の残留魔力を見たような」
倉庫の中で光の魔法が使用されたという事か。
その倉庫の中には、小型のボンベと。
試作品の酸素ボンベがあったはずだ。大分状況が掴めたな。
「ありがとうございます、デッカさん」
「私如きが、お役に立てでしょうか?」
「はい。おかげで、酸素ボンベの不備ではない事が、分かりました」
間違いない。酸素ボンベの不備による事故じゃないんだ。
これは意図的な殺ドワーフ。それも酸素ボンベに罪をなすりつけるための。
その動機から考えれば、水素爆発の意味も見えて来る。
「とにかくこれで捜査は打ち切りです。ドワーフ達は撤収してください」
「納得できるかぁ! 説明があるまで、ここにとどまってやる!」
「ここはエルフの領土ですよ? 邪魔をするなら、貴方を逮捕せざるおえません」
どうやらもう、時間もないようだ。
大体の事は分かったとはいえ、まだ分からない事だってある。
こうなったら、賭けだ。直接犯人を揺さぶって、真相を暴いてやる。
「捜査を打ち切るのは、早計ですよ。どうやら、他殺の線が出てきたようです」
僕は言い争う二人の間に入った。
「ほう。魔物風情が。一体どんな可能性ですか?」
「酸素ボンベですよ。僕達はもう一つ。同じ印がある酸素ボンベを見つけました」
僕は試作品に交じった、印付きの酸素ボンベの事を話した。
「そんな馬鹿な!? 確かに印は、この世で一つだけ。俺にしか掘れないもののはずだぞ!」
「でもあったんです。嘘だと思うなら、自分の目で確かめて下さい」
今回の事件の争点となるところは、被害者がどうやって死んだのかだ。
酸素ボンベのすり替えが行われたとなると。
他殺の可能性は十分に高まるのだ。
「これでもまだ、酸素ボンベの不備と言い張るつもりですか?」
「ふむ。しかしそれだけでは……」
「他にも根拠はありますよ。それを今から、皆さんで話し合いましょう」
僕は議論すると、提案した。これは作戦だ。
この場の全員で、話し合う形で犯人を明らかにする。
そして公の場で、犯人を裁く。船の上で言い逃れが出来ないようするために。
「そんな提案に乗って、我々にどんなメリットが?」
ソウヤさんは、そう簡単に引き下がってくれないようだ。
ここは一歩踏み込みたいところだけど……。
「おっと。その手はもう、通用しないわ」
そこで颯爽とアリス様が駆け付けてくれた。
「この事件の指揮は、これより国際騎士団が執ります。令状は既にあります」
ルナティックさんの姿が見えないと思ったが。
どうやら裏で、サポートしてくれていたみたいだ。
「当然私は議論の余地があるとみなし。許可を致します」
「やれやれ。ではどうぞお好きに。無駄な議論を楽しんでください」
「おや? 貴方にも話し合いに参加していただきますよ?」
アリス様にニヤリとされて、ソウヤさんは怯んだ。
やがてやれやれと、肩をすくめて覚悟を決める。
「アリス様。ありがとうございます」
「勘違いしないで頂きたい。これは私の事件です。貴方の出番は、ありませんよ」
「お決まりのセリフをどうも」
これで犯人に逃げ場はなくなった。後は証拠と推理で追い詰めるだけだ。
ここで、今まで分かった情報を整理しておこう。
まずヘリウムを入れた小型ボンベ。これにはラベルが張り替えられた、跡があった。
ボンベには他に、水素や窒素、二酸化炭素などがあったそうだ。
空気中に含まれる気体は、小型ボンベで再現可能だった。
次に酸素ボンベ。これは試作品と入れ替えられた、形跡があった。
印があるボンベが二つ存在する。親方曰く、それはあり得ない事だ。
犯人は何らかの方法で、印を偽造したのだ。
更に爆発した浮き輪は、萎んだだけだった。
浮き輪そのものではなく、その上空を爆破した可能性がある。
甲板は日差しが強く、熱が溜まりやすい状態だった。
最後のこの事件に一切の魔法は使われていない。
残留魔力から、それは明らかだ。
以上の情報から、被害者を殺害し、酸素ボンベの不備に見せかける方法を推理できる。
後は犯人とその動機を明らかにすれば終わりだ。
「では始めましょうか。論理と思想が交錯する、国際議論を」
「何言ってんですか? アリス様?」
僕はここ一番で、どや顔を見せる国際騎士様に、呆れるのだった。




