第9話 捜査中盤~甲板の捜査~
僕達は甲板に向かい、浮き輪爆破の調査を始めた。
やはりと言うべきか、甲板にも残留魔力は存在しない。
となれば、あの爆発は遠隔で行われたのではない。
魔法意外に酸素を入れて、熱を溜める方法が存在するんだ。
僕は空高く上る、太陽を見上げた。
魔界と違って眩しく光、温かいというより暑い。
「海風があっても、暑いものは暑いですね……」
「私達魔物は、太陽に縁がないし。この辺りは、常に暑いからね」
ここはドワーフとエルフ族の国境付近。
ドワーフの国は比較的暑く、南国と呼ばれている。
僕らは魔界の者に、この日差しは強すぎる。
これだけ暑かったら。浮き輪の、中の温度が気になるな。
間違いなく爆発は故意によるものだ。
でも爆発は、海に潜ってすぐ。本来なら、十分救助が間に合うタイミングで行われた。
「甲板に出たものの。何も見つからないね」
「まあ、空回りも捜査の基本ですから」
日差しの強さが分かっただけでも、良しとするか。
それに残留魔力がないというのは、有益な情報だ。
間違いなくこの船で、魔法が使われたタイミングは酸素を入れた時のみだ。
「そこの者! 今すぐ引きなさい! これよりこの場所は、国際騎士が管理する!」
僕とルシェ様はその声を聴いて、肩をすくめた。
船の中から階段をどしどし駆けあがる音が聞こえる。
金髪の少女が姿を現して、剣を構えていた。
「って。お前達は……」
「どうも。アリス様」
「なんですか!? その、"うげぇ"みたいな表情は!?」
「実際、"うげぇ"っと思っていますから」
国際騎士で妙にプライドの高い、アリス様。
かつて僕の母と裁判で戦った、ワンダさんの娘さんらしいけど……。
またそこら中に引っ張られるのは、ごめんだな。煩いし。
「まあ、お前達なら良いでしょう。以前の事件で、実績がありますから」
「あ。僕ら、去るんでどうぞ」
「露骨に避けようとするんじゃありません!」
バレたか。僕は覚悟を決めて、その台詞を発する。
「何しに来たんですか? 甲板には何もないですよ?」
「調査に決まっているでしょ。海の状況を写真に収めるのです」
「写真? ああ。確か画用紙に、そっくりの描き込む奴ですか?」
さっきルシェ様に説明された事を、僕は思い出した。
原理は良く分からないらしいけど、凄いもののようだ。
実際僕らは貼ってあることすら気づけないほど、そっくりなものが出来ていたのだから。
「海は刻一刻と、状況を変化させます。出来るだけ事件時の様子を保存しようと思って」
「へえ。でもエルフ族にしか、写真は出来ないのでは?」
「ふふふ。甘いですね。魔力はなくても、人界には科学があるのですよ」
どや顔で何かを取り出す、アリス様。
それは円柱のついた、正方形の物体だった。
「カメラと言うものよ! これがあれば、魔法がなくても写真が撮るわ!」
「そんなものが? よくできましたね」
「原理さえわかれば、人界の科学に不可能はなし!」
「じゃあその科学で、犯人を見つけてくださいよ。ジャンジャン撮影してください」
アリス様を調子に乗らせて、僕はさっさと退散しようとした。
多分海の様子を観察しても、何も出てこないだろう。
事件発生から、結構時間が経過しているのだから。
「ちなみにどんな原理なんですか?」
「私達に見える色とは、光の反射。その光を検出して、同色のものを描き込むのよ」
聞いたことがあるな。確か可視光線と言って。
僕達に見える色は、光の長さによって変わるらしい。
「この原理を使えば、そっくりそのまま! その様子を保存することが出来るのです!」
「ちなみに。それって専用の画用紙が必要だったりとかは?」
「カメラはそうだけど。エルフ達は必要ないですね。タトゥーとかにも、使われていますよ」
なるほど。タトゥーは掘り具合によって、微妙に違うから。
全く同じものが描かれるのは、人気があるだろうな。
全く同じものが、描かれるか……。
「じゃあ、アリス様。頑張って下さいね」
「ええ!? ちょっと! 見ていかないの?」
「自慢したいなら、素直に言って下さいよ」
僕は仕方なく、アリス様の撮影とやらに付き合った。
彼女もカメラは初めて使う様で、喜々としながら使っている。
甲板の上から海を撮影しながら、画用紙に画像とやらを映し込んでいく。
「この中から、怪しいものがないか。探ってみますよ」
「まさか……。手伝わせるために、僕らを引き留めたんですか?」
「名誉に思いなさい。騎士の手伝いができる事を」
だからこの人に、付き合うのは嫌だったんだ。
とは言え、手がかりがあるならそれに越したことはない。
何か怪しいものが移っていれば良いのだけど……。
「ん? ここに何かビニールの残骸がありますね?」
僕は青色のビニールに気が付いた。
確か被害者と繋がっていた浮き輪の色も、青色だったはずだ。
写真をじっくり見てみると、その残骸は浮き輪が萎んだものだった。
だけど萎んだだけだ。破裂した様子はない。
あれだけの爆発があって、浮き輪が破裂しないはずがない。
と言う事は。アレは浮き輪が爆発したんじゃなくて……。
別のものが爆発して、そう見せかけられただけなのか?
浮き輪そのものが爆発したんじゃないなら。見せかけの爆破の可能性がある。
「ふむ。これは大きな手掛かりではないですか?」
「ええ。正直意外でした。ちゃんと役にたって」
「そうでしょう! ……。どういう意味?」
笑みから睨みに変えたアリス様を余所。
僕は逃げ込むように、船の中に戻った。
船内の捜査はこれくらいだろう。後は聞き込みをするべきだな。
まだ騒ぎになっているようだけど。酸素ボンベが回収された所へ向かうか。
そこなら親方やエルフの騎士団が、居るはずだ。
僕達は騒ぎになっている場所へと向かった。
「だぁから! 酸素ボンベに問題はなかったっつてんだろ!」
「ですが被害者は、酸素が残ったままのボンベを口にして。窒息死ですよ?」
大柄なドワーフと、エルフの騎士が言い争っている。
多分あのドワーフが親方だろう。
酸素ボンベは……。もうエルフの騎士団が回収した後のようだ。
「あの。少しお話……」
「てやんでぇい! これだから貧弱なエルフは! 頭ばかり使っているから!」
「腕だけが自慢のドワーフが、ほざかないでいただけますか?」
僕は確信した。この二人は犬猿の仲と言うやつだ。
「おう! 坊主! テメェからも何か言ってれ!」
「ええ!? 急に僕に振られても……」
話しかけてしまったばかりに、火の粉が飛んできた。
「ふむ。魔物が私に何かようですか?」
「ええっと……。まだ事故として処理するには、早いと思いますよ」
「魔物如きが。この私。エルフ上級騎士団、"ソウヤ"に楯突くのですか?」
ああ。なるほど。このエルフは、誰彼構わず見下しているようだ。
そして見るからに短気そうな、ドワーフの親方。喧嘩になる訳だ。
「爆発は故意に引き起こされたものです。事件性なら十分あります」
「ですが、酸素ボンベをつけた被害者を。どうやって殺害するというのですか?」
「それはまだ……」
僕が言葉に詰まると、ソウヤさんは扇子を取り出して仰いだ。
「ならば。爆発と被害者の死は無関係! よって、酸素ボンベのせいである!」
「だぁからぁ! 酸素ボンベ自体に、問題はねえんだって!」
また争いが始まりそうだ。その前に話を聞きださないと。
「親方さん。本当に酸素ボンベに、問題はなかったんですね?」
「おうよ! この道三十年。この俺が、十二年かけて開発したものが、不出来なはずがねえ!」
随分と自身があるようだ。確かに何度も実験をしたと、チイさんも言っていたな。
酸素ボンベ自体に不備はない。そう仮定した場合。
「誰かが酸素ボンベに細工した可能性は?」
「うむむ……。肯定してやりたいが。それは無理だ。酸素ボンベは厳重に保管していたからな」
そうか。酸素ボンベ自体に、細工することは不可能なんだな。
「じゃあ、試作品に触ることは?」
「それなら"簡単"だ。だが試作品と入れ替えられた可能性はない」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「俺は被害者に付けられた、酸素ボンベを見た。確か俺が彫刻した、印があったのさ」
なるほど。だからあの酸素ボンベは間違いなく、製品の者だと言えるのか。
その彫刻を出来るのは、世界で親方一人だけなのだから。
「ありがとうございます。おかげで確信が持てました」
「ん? お、おう。お礼されることは、言ってねえけど……」
親方、意外と素直にお礼されることに慣れていないようだ。分かり易く照れている。
とにかく、これで確信できた。親方の彫刻は、二つのボンベにあったのだ。
それも親方が知らない所で。
「この様子だと、時間もありませんね……。次で最後の捜査をしましょう」
「良いけど……。誰に何を聞くつもりなの?」
「酸素ボンベの中身に最も詳しい存在。酸素を注入したエルフです」




