第8話 現場捜査序盤~酸素ボンベの調査~
僕達は酸素ボンベの発表会場へ来た。
既に捜査班は別の場所に居るため、この場所に人数は少ない。
僕は騎士じゃないから捜査権はない。今が調べる絶好のチャンスだ。
僕は作品の酸素ボンベに近づいた。
酸素ボンベを持ち上げてみる。確かにかなりの重量だ。
「ここにあるのは、全て試作品なんですよね?」
「と言うより、予備だね。製品に何かあった時用の」
と言う事は、試作品と言えど使用には問題がないという事か。
製品との違いは分からないけど。調べてみよう。
僕は酸素ボンベの蓋を開けてみた。当然空気は入っていない。
「酸素ボンベを付けるとき、鼻は塞ぐんでしたね」
「ええ。万が一水が体内に入らないようにね」
と言う事は。酸素ボンベからの空気供給のみで。
被害者は呼吸していたという事だよな。
僕は考え事をしながら、試作品を色々触ってみた。
「ん? この試作品だけ、少し重たいような……」
僕は何気なく持ち上げた酸素ボンベの、違和感に気が付いた。
他の試作品は大体重さが同じなのに対して。
今持っている酸素ボンベだけ、妙に重いのだ。
「もしかして……。それが完成品なんじゃない?」
ルシェ様が僕から酸素ボンベを受け取る。
更に片手に試作品を持ち、重さを比べている。
流石魔王の娘だ。僕とは腕力が違う。
「うん。やっぱりそうだよ。完成品は加工方法が微妙に違うから、重さが違うの」
「と言う事は。完成品と試作品がすり替えられていた?」
そう言えば、チイさんも重さに違和感を持っていた。
あの時すり替えられていたのか?
だとしたら、どうやって?
「完成品には、親方直伝の印が印字されているはずですけど……」
「このボンベには見当たらないね。少し調べてみたら?」
「そうですね」
僕達は酸素ボンベを床に置いて、詳しく調べる事にした。
一通り見まわしてみたが、印らしきものは見つからない。
僕が不思議に思っていると。ある部分が捲れていた。
「うわあ! も、もしかして、傷つけちゃった?」
「違うよ、ユウ。これ、上から何か貼ってあるよ」
「何かって……。なんだこれは?」
僕は思い切って、貼ってあるものを剥がしてみた。
するとその下に、印と思わしき刻印が現れる。
非常に複雑な形で、確かに知っている者にしか、再現できなさそうだ。
「これ、印ですよ!」
「やっぱりこれが、完成品だったんだね」
「でもこれは一体……」
僕が剥がした物は、酸素ボンベの色と全く同じ紙だった。
酸素ボンベは銀色。そんな色の紙、僕は見たことがない。
「もしかしたら。それは写真かもね」
「写真?」
「うん。原理は分からないけど。魔法で光を作って。紙に目の前の物を印画するんだって」
良く分からないけど、全く同じ絵を瞬時に作れるという事か?
だとしたら、この銀色の画用紙の意味も理解できるけど。
「でも写真を使えるのは、エルフ族のみだよ。酸素ボンベの制作者は……」
「ドワーフですよね……」
ドワーフは酸素ボンベの完成に、精力を上げていた。
他種族に簡単に見せるとは、思えない。
それにチイさんは間違いなく、完成品を持ってきたはずだ。
だとしたら写真が貼られたタイミングはいつだ?
それに酸素ボンベは、いつすり替えられたんだ?
「チイさんは間違いなく、印があったボンベを持ってきたはずだ」
僕は発表会の時、チイさんが転んだ当たりを見つめた。
床は木製であり、木の板が敷き詰められて出来ている。
彼が転んだ位置の床を調べると。
木の板が一枚、少しだけ浮かび上がっていた。
これは気づかずに、足を引っかけそうだが。
僅かな上がり過ぎて、この程度で転倒はしないだろう。本来なら。
「ねえ。すり替えられたってことは。被害者が付けたボンベにも、印があったってことだよね?」
「はい。それは間違いありません。ドワーフが真っ先に確認していました」
酸素ボンベに問題があるかが、今回の争点だった。
だからドワーフは試作品とすり替えられていないか、真っ先にチャックした。
その結果、確かに刻印はあったのだ。
「でもさ。もしかしたらその印も、写真なのかもしれないよ」
「いや。それはないですよ。だって海底に行くんですもの。紙が濡れて剥がれちゃいますよ」
「あ。そっか」
そう。少なくてもあの刻印は、本物のはずだ。
その刻印を出来るのが、親方と言われたドワーフのみ。
彼ならすり替えは可能なんだろうけど。
ドワーフに写真は用意できないな。だとすれば、疑うべきは。
本当に親方以外に、刻印を用意できなかったのだろうか?
「他に気になることと言えば……」
「ユウ。ここで、酸素注入があったんだよね?」
「え? はい。そうですけど……」
発表会があった場所。僕らの目の前で、酸素は注入された。
それは間違いない。チイさんが重さで、量を図っていたはずだ。
「でもここに、残留魔力がないのだけど……」
「ああ。それはボンベに、手を突っ込んで、その先から酸素を注入したからですよ」
僕は昔の事件を思い出しながら、残留魔力についておさらいした。
「残留魔力は魔法を放った場所に、着きますから」
「じゃあ、酸素ボンベの中に残留魔力があるわけだね」
「はい。過去にもそんな事象が、争点になりましたから」
待てよ? 酸素ボンベの中に直接、魔法を放つなら。
船内に残留魔力を残さずに、細工することも可能だよな?
やっぱりあの酸素ボンベ。最初から何か細工がされいたのかも。
「現場で調べられることは、これくらいか……」
「そうだね。大体は分かったんじゃない? 私にはさっぱりだけど」
「胸を張っている事ではないですよ」
僕は苦笑しながら、ルシェ様にツッコミを入れた。
酸素ボンベは入れ替えられていた。かなり重要な事だ。
問題はすり替えられた酸素ボンベに、どんな細工がしてあったか。
被害者は間違いなく、窒息死だった。
毒が混入されていたのなら、毒殺と判断されるはず。
でも窒息したのに、あの酸素ボンベには空気が残っていたんだよな。
「他には何をするの?」
「そうですね。浮き輪が爆発した理由も探りたいです」
浮き輪の中身が水素に入れ替えられたとしても。
爆発したのには、理由があるはずだ。
浮き輪には水素しか注入されていない。酸素が混ざるはずがないのだ。
それに燃えるではなく、爆発したという点も不自然だ。
それほど強い熱反応が、浮き輪の中で起きたことになる。
「後は刻印について。親方と呼ばれるドワーフと話がしたいな」
刻印が二つあったかもしれないのは、重要な証拠だ。
親方の証言次第で、新たな事実が判明するかもしれない。
「後は酸素を注入した、あのエルフさんにも話を聞かないと」
酸素を注入した時、既に細工があったなら。
あのエルフは何かを見ているはずなのだ。
それに気が付けないという事は、ボンベ自体に細工があったのか。
それか酸素を注入したエルフ自身が、犯人なのか。
どちらにせよ、話を聞くだけの価値はあるはずだ。
「それじゃあ、甲板に向かう? 浮き輪の爆発には、絶対関わっているよ」
「そうですね。犯人が浮き輪を爆破した理由も探さないと」
とにかくこの事件はまだ謎が多い。
だけどハッキリした。これは間違いなく、殺ドワーフ事件だ。
酸素ボンベの不備に見せかけるため、悪意ある誰かが仕組んだことなんだ。
「事件性を提示できるまで、あと一歩だな……」
まずは事件性を示さなければ、事故で処理される。
もう時間はない。甲板の捜査が終了したら、直ぐに調査隊の居場所へ向かおう。
少なくとも、次が現場を捜査する最後のタイミングのはずだ。




