第7話 捜査開始
海底の捜査はまさかの結末で、幕を閉じた。
調査員の死亡と言う形で。
現在酸素ボンベに不備があったのではと、開発者達が責任を問われている。
現状では事故と言う形で、処理されているが。
本当にそうなのだろうか? 事故なら浮き輪が爆発しないと僕は思う。
この事件。もっと裏がありそうな気がするのだ。
「少し調べてみるか……」
僕は状況を整理した。被害者はドワーフ族の男性だ。
ドワーフは筋肉が発展した種族故、エルフと同様水に浮かべない。
その性質を利用して、海底を歩く調査と言う形だったのだ。
直ぐに救助されたとはいえ、浮き輪が彼にとって生命線。
救助に時間がかかった事から、爆破が遅ければと思うと。
あの爆破の原因。気になるな。
「えらいこっちゃ……。こんな事になっちまって……」
発表会場を捜索している僕の前に、弱々しい表情のドワーフが現れた。
彼は確か、発表会の時さんざん怒られていたドワーフだ。
確かチイさんとか言ったっけ。
「何度も実験を重ねたのに。何故今日になって……」
ふむ。どうやら酸素ボンベを一発本番で使ったわけではなさそうだ。
やはり危険性については、疑問が残るな。
「チイさんでしたね。少しお話頂いても?」
「え? あ、はい! どうぞ!」
僕はチイさんから聞き込みをしてみることにした。
「酸素ボンベを運ぶ時、随分と重そうでしたけど。ドワーフって力持ちですよね?」
「ええ。まあ私はまだまだ鍛えが足りないので。あの大きさのものを運ぶのは苦労しますね」
ドワーフも筋肉を鍛えないと、いけないみたいだ。
「でも、試作品を持った時より。"少しだけ"重かった気がするんですよね」
「重かった?」
「ええ。我々は空気の入り具合を重さで判断するのですが。既に空気が入っているような重さでした」
既に空気が入ったような、重さだったか……。
「あ! それと! 落とした後に拾った後の奴の方が、重かったような……」
「入れ替わった可能性はないんですか?」
「いえいえ! アレには親方直伝の印があります! アレは、製品にしかなく、親方にしか真似できないんですよ!」
途中ですり替えられたという線は薄いのか……。
でも発表会で魔法は、酸素を入れるときにしか使われていない。
残留魔力からして、それは明らかだ。
「ありがとうございます。チイさん」
「いえいえ。僕なんかで、お役に立てるなら……」
非常に興味深い話だったな。これは事故で片づけるのは、早計だろう。
「なんだか納得していない。そんな表情だね」
「あ。ルシェ様。乗っていたんですか?」
「うん。父に言われてね。ユウが一緒なら、大丈夫だろうってことで」
魔王様も十二年前の事件を気にしていたんだな。
少しでも早く情報を仕入れたいというのは、当たり前だろう。
ともあれ、彼女が居てくれるの心強い。
僕は専門知識に詳しくないので、知識豊富な彼女が居てくれれば助かる。
特に国際情勢については、かなり疎いからな……。
「疑問があるなら、とことん追求。それが探偵の流儀。だよね?」
「はい。僕は事件性を感じて、調べてみようと思っています」
「だったら早くした方が良いかもね。ここは外の国だから。事故で処理されたらまずいよ」
確かにそうだ。ここはエルフの領土で、被害者は ドワーフ族だ。
魔物は完全に領域外。慎重かつ素早く行動しなければ。
「まず気になるのは、浮き輪に入れられていた、気体ですね」
ドワーフは重いため、酸素などの空気ではダメらしい。
空気より軽い気体じゃないと、浮き輪が引っ張られるとのことだ。
「ヘリウムって、言われたけど……。本当にそうなんだろうか?」
「ん? 説明したドワーフが、嘘をついているってこと?」
「その可能性もあるし、彼の知らないところで気体が変わった可能性もあります」
ヘリウムを入れたボンベは、確か船内のゴミ箱に捨てられたはずだよな。
僕は気になって、少しゴミ箱を漁ってみた。
直ぐにヘリウムが入っていただろう、ボンベが見つかる。
「酸素ボンベと全く同じ色、形ですね」
大きさこそ違うが、小型になった酸素ボンベと言った印象だ。
正直大きさが同じならば、見分けがつかない。
「そりゃそうだよ。同じ素材が、同じ加工をされているんだもの」
「そうか。酸素だけじゃなく、気体自体の保存に、この材質が必要なんですね?」
「うん。だからボンベは全て、同じ形の同じ材料だよ」
だとしたら中身の気体が変わったら、見分けがつかないな。
ドワーフ達は、どうやって判断しているんだろうか?
そう言えば、発表会の時。製品には印が付けられていると言っていたな。
だとしたらこのボンベにも、中身が分かる印が?
僕はボンベを回して、調べてみた。
「なんだ。ラベルが貼ってあるだけか……」
特別な刻印がされている様子はない。
ドワーフ達は『ヘリウム』と書かれた、ラベルで判断しているらしい。
でも逆に言えば。ラベルさえ入れ替えてしまえば見分けがつかないんだよなぁ。
「ユウ。なんかこれ、貼り方が甘くない?」
「甘いって、どういう事ですか?」
「雑と言うか。少し弄ったら剥がれそうだよ」
ルシェ様に言われて気が付いた。確かにラベルの貼りが甘い。
ワインとかにもラベルが貼ってあるが。
アレは爪でこすらないと中々剥がれないが。
こっちは少し手で擦るだけで、剥がれそうだ。
僕がちょっと触っただけで、端っこの方が剥がれている。
「まるで誰かが、手で貼ったみたいだね」
「え? ラベルって全部、手で貼っているんじゃないんですか?」
「そんなわけないでしょ。特殊な道具で、空気が入らないように綺麗に貼られているの」
知らなかったな。道理で中々剥がれなわけだ。
でもそうなれば、このラベルは特殊な道具を使わずに、貼られた事になるな。
そんなことあり得るのだろうか? 道具にうるさいドワーフ族が、そんなミスをすることが?
僕はラベルを剥がしてみた。
するとボンベに、シールが剥がれた跡が出来ている。
「綺麗に剥がれたわりに、跡が残るんだね」
「いや、ルシェ様。これ、随分前の残りみたいですよ」
「あ。本当だ。だとしたら、ちゃんと貼られたラベルが剥がされたんだね」
こうなると、ヘリウムはすり替えられた可能性が浮上するな。
ヘリウムと同等以上に軽くて、爆発の可能性がある物質と言えば。
「水素だ。このボンベの中身は、水素だったんじゃないでしょうか?」
「うん。それなら酸素と結合して、熱があれば爆発するけど……」
でも実際のところ、被害者は酸素ボンベをつけたまま殺されていたんだよな。
浮き輪の爆発は、死因と関係のないはずだ。
これだけでは、殺ドワーフ事件にするには根拠が弱いか……。
「でも誰かが、被害者を殺そうとしたことは、間違いないようだ」
「そうだね。じゃなきゃ、水素とヘリウムを入れ替えたりしないもの」
すり替えた犯人と、殺害犯が一緒かどうか分からないけど。
調べてみる価値が上がったのは確かだ。
「ユウ。次はどこを調べるの」
「発表会の舞台を調べたいですね。気になる事もありますし」
事件性を考えるなら、やはり酸素ボンベは調べたい。
被害者のものは、騎士団に持って行かれたけど。
試作品が会場に残っていたはずだ。
「それから船内で魔法が使われたか。それを調べておきたいですね」
残留魔力は魔法が使用された場所に残る。
ドワーフには見えないだろうけど、僕ら魔物なら見分けがつく。
「それから許可されるなら、被害者の状態も確認したいですね」
「大分捜査方針が決まったみたいだね」
「はい。ですが、ルシェ様のいう通り、あまり時間はないかもしれません」
事故としてエルフに処理されたら、面倒だ。
ここは彼女の言う通り、さっさと動いて事件性だけでも提示しないと。
「それじゃあ、まずは発表会場の捜査からしようか。あそこ今、人員が少ないし」
「ルシェ様……。こんな時にまで、人込み嫌いを発動しないでくださいよ」
僕は苦笑いしながら、発表会場へ向かった。




