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魔界探偵2~四種族と死神の復讐~  作者: クレキュリオ
第2章 過去と現代の交わるところ
31/62

第6話 現代にて事件発生

 僕はルナティックさんに連れられて、ある船に乗っていた。

 ドワーフが開発した最新型の船で、大海原に出ている。

 と言っても、海岸から見える距離だけど。


 十二年前に沈んだ、ある船を調査するため。

 ドワーフとエルフの国が、共同で動き始めた。

 ドワーフが新たに開発した、酸素ボンベと言うものの、お披露目会も兼ねている。


「ご覧ください! これぞ我らの英知の結晶です!」


 酸素ボンベ。酸素を保存し、ノズルから肺へ送ってくれるもの。

 ドワーフとエルフの共同開発らしい。と言っても、殆どドワーフが完成させたもの。

 エルフは純粋に、気持ちい程度の酸素を注入するだけの役割だ。


 高純度の酸素を保存するのは、今まで難しかったが。

 長年の研究の成果で、ドワーフが保存する方法を見つけたらしい。

 それが酸素ボンベに使われている、物質だ。


 何年か前にドワーフが発見し、その研究を重ねてやっと完成。

 この特殊な材料は、ドワーフの国に多大な影響を与えた。

 現在ドワーフ領土で大統領をしているのも、この材質を回収した者だ。


「これより、エルフによる酸素入れが始まります!」


 大げさな演説で、ドワーフが酸素ボンベをアピールする。

 無理もない。この実演が成功すれば、酸素ボンベは売れるだろう。

 何せ未知の領域、海の中を探索できるのだから。


 今回の捜査は、海の中で使う安全性の確認も兼ねている。

 と言うよりも、ドワーフ的にはそちらが本番のようだ。


「これより……。おい! チイ! さっさと持ってこんんか!」


 中々酸素ボンベが運ばれず、司会者が苛立ちをした。

 チイと呼ばれた新人っぽいドワーフが、大きな円錐状の物体を運んでいる。

 あれが酸素ボンベだろうか? 随分と重そうな空気だ。


「はぁ……。はぁ……。もうすぐ行きます……。うわあ!」


 チイさんは重さに耐えかねて、転倒した。

 そのまま大量の同じものが置いてある場所に倒れる。

 試作品だろうか? 見事に同じものが散らばった。


「ばかもん! 何をしておる!」

「すいません……。おかしいな……?」


 チイさんは何か疑問に思っているようだ。

 運ばれた酸素ボンベが、散らばった他のものと混ざっている。

 これじゃあ、どれが運ばれてきたものか、分からないぞ。


「ええっと……。親方。どれでしたっけ?」

「アホが! 印があると言ったろ! それが完成品! 試作品との区別がつくだろ!」

「ああ! そうでした……。よいしょ!」


 チイさんは印付きのボンベを見つけて、運び出した。

 エルフの前にもっていき、酸素ボンベを目の前に置く。

 

「チイ。しっかり計測しろよ。それでは、酸素注入お願いします!」


 どうやら重さで、量を図るようだ。

 酸素注入係のエルフが、前に出る。術式を唱え始めて、魔法を放つ。

 勿論空気の魔法だ。目の前のボンベに、酸素を注入するために。


 魔力を込め続けて、ボンベに酸素が注入されていく。

 同時に重くなっているのか、チイさんの腕が震えている。


「あ! もう結構です! 満タンになりました!」

「む? もうか? やけに早い気がするが……」


 酸素ボンベに、空気が満タンに入ったようだ。

 これで準備は整った。いよいよ海底の捜査が始まる。

 十二年前は調べられなかった、事件の真相が遂に明かされる。


 十二年か……。僕には想像もつかないが。

 事件関係者には長い旅路だったのだろう。

 それがもうすぐ解決に向かうのだ。出来る事があるなら、僕も手助けがしたい。


「これより、準備を行います! しばらくお待ちください!」


 大型の浮き輪に、新しいボンベの口が付けられた。

 ボンベのスイッチが押されて、中の空気が浮き輪に入る。


「何をしているんですか?」


 僕はその動作が気になったので、近くのドワーフに聞いた。

 

「ヘリウムを入れているんでさ。ドワーフは重くて、沈んじまうから、浮き輪なしじゃ上がれねえ」

「ヘリウムだと、空中に浮いてしまいますよね?」

「ドワーフの重みじゃ、普通の空気じゃ沈んじまう。だから空気より軽い物質が必要なのさ」


 なるほど。あの浮き輪がドワーフの、海底散歩の生命線ってことか。

 重要なものだな。慎重に扱ってもらわないと。

 また死体が出てくるのは、ごめんなんだけど……。


 僕には嫌な予感がするんだ。

 十二年前の犯人は、この間ずっと逃げ続けてきた。

 この状況を、黙って見過ごすとは僕には思えない。


「準備が整いました! これより! 披露目会……。捜査を開始します!」


 ドワーフの一人が、ゴーグルと酸素ボンベを装備した。

 宙に浮いた浮きと、紐で結ばれる。

 浮き輪に体を通して、海の中へ。


 大量のヘリウムが混入されているからか。

 浮き輪はドワーフの重みにも耐えて、しっかり浮いている

 調査のドワーフはある程度船から離れた所で浮き輪から体を出した。


 海の中に沈んでいき、調査を始める。

 船ではなく浮き輪に結んだのは、自由に動けるためだろう。

 船が沈んだ正確な座標は分からない。だから大体の位置から調べるしかないのだ。


「ルナティックさん。本当に大丈夫ですか?」

「坊主の不安は分かる。だが今は信じるしかねえ」


 ルナティックさんも息を飲み込んで、調査の様子を伺っていた。

 彼は十二年前の当事者だ。この日を待ち望んでいたのだろう。


「十二年前の事件、間違いなく元老院が絡んでいる」

「元老院?」

「人界の最高評議会さ。俺達は奴らの命を受けて、裁判に臨んだ」


 要するに、人界のお偉いさん方ってことか。


「あの船に救助された中に、元老院も混ざってやがった」

「え? じゃあ、船を沈めたのって……」

「そこまでは分からん。元老院も和平には賛成だったが。一枚岩じゃないんでな」


 色々な意見があるのは、魔界も人界も変わらないようだ。

 僕ら魔界側も、和平の関係で色々あったので。他人事とは思えない。

 それにしても、結構大勢の者が関わっているものだ。


 僕はひょっとして、自分でも想像がつかないくらい大きな物事に対面しているか?

 ただの魔界探偵に過ぎない僕が。


「それによ。あの酸素ボンベに使われた材質。元々ケーの領土で見つかったものだ」

「え? ってことは、コン家の所有する土地で?」

「ああ。コン家没落後。別の家が領主になったはずだが。どういう訳か、ドワーフが材料を持っていた」


 それは妙な話だな。当時ドワーフとエルフは商売敵だったはず。

 相手方の国に、自分達の優位になる商売道具を渡すだろうか?


「その材質を持っていた奴が、ドワーフの現大統領。何か臭わないか?」

「元老院にドワーフ。エルフの政治家……。各国の上層部が、何かに関わっていますね」

「ああ。俺はこの一連の事件に、首謀者が居ると思っている」


 首謀者。十二年前の事件を、裏で操ってい者か……。

 ルナティックさんの話だと、グッチと言う証人が何かに怯えていたようだ。

 もしかしたら黒幕は、相当力を持った存在なのかもしれない。


「とにかくこのままじゃ終われねえ。俺は絶対……」


 ルナティックさんが言い切ることはなかった。

 彼の言葉を遮るように。船に近くで大きな爆音が鳴り響く。

 同時に水しぶきが、僕達の下に飛んできた。


「は?」


 僕は何が起きたのか、一瞬分からずに情けない声をあげた。

 直ぐに嫌な気配を感じて、浮き輪たが浮かんでいた方を見つめる。

 そこには破裂した浮き輪の残骸が、浮かんでいた。


 

「おい! まずいぞ! あのままじゃ、調査中のドワーフは上がれねえぞ!」

「直ぐに捜査を中断しましょう! 彼を引き上げないと!」


 船が慌てて浮き輪の残骸まで、移動した。

 今度は船に直接紐を括ったドワーフ達が、救助に向かう。

 まだ捜査は始まったばかりだし。酸素ボンベは一時間持つと聞いていた。


 直ぐに救助が始まったから、誰もが大丈夫だろうと思っていた。

 だが引き上げられたドワーフを見て。僕らは戦慄することとなる。


「お、おい……。コイツ……」


 それは『酸素ボンベを装着したまま』の、ドワーフの死体だった。

 彼は既に息をしておらず、目を閉じたまま脈を止めていた。

 慌てて酸素ボンベを抜き取ると、そこから空気が漏れる音が。


 酸素ボンベにはまだ、空気が残っていた。

 被害者に外傷も見られず、酸素ボンベに傷つけられた形跡はない。

 彼は酸素ボンベを口にくわえたまま、窒息した死体として発見されたのだ。

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