第5話 国際裁判後編~そして現代へ~
いよいよ裁判も大詰めになってきた。私は真犯人、グッチと直接対決をしている。
魔界に罪を着せて船を沈めた事。殺エルフを行った事。
ここで全て証明して見せる。
「グッチさん。貴方には逃走経路があり、尚且つ素早く移動出来る方法がありました」
「しかし貴方が証明したのは。私が短時間で、ゴムボートで移動できるという事だけだべ」
グッチは判事の方へ、顔を上げた。
「俺っちから、一つだけ証言がある。話しても?」
「良いでしょう。ですが貴方は告発されている身。発言には十分気を付ける様に」
「実は俺っち、まだ話していないことがあっただ」
まだ彼の犯行は立証出来ていないか。この場に及んで、自ら証言とは。
一体何を証言するというのだろうか?
「確かに船を沈めたのは、俺っちだ。それは認めるだ」
グッチは証言台に食いつくように、体を倒した。
「だがエルフは誓って殺していねえ! 俺っちは騙されたんだ!」
「騙された?」
「ああ。俺っち、実はエルフと人間の商業を邪魔するために、忍び込んだんだぁ」
ドワーフは他国との商売で、盛んになった国だ。
商売敵となると、妨害なども行っているだろう。
「船の底板に細工して、浸水するよう指示を出されたんだぁ」
「指示を出された? 一体誰にですか?」
「それは親方だべ。でもきっと、親方も騙されたんだべ」
ドワーフの商人は、ただ商売敵を潰したいだけだった?
殺エルフが起きたのは、全く別の陰謀が渦巻いていたのだろうか?
彼の証言から、嘘を言っているようには感じられない。
寧ろ何かに怯えている様な、雰囲気さえ感じる。
彼はまだ、何かを隠している。でもそれは言えない状況のようね。
「武器が売れるから、船を沈めて、魔界の仕業にしろと言われただ」
戦争中の二国は、武器商人にとって最高の商売相手だ。
和平の情報がどこからか漏れて、対立を煽ったのだろうか?
「だけど、船の中でエルフが殺されて。俺っち混乱しているんだぁ」
嘘を言っているとは思えない。でも本当の事とも思えない。
グッチの絶妙な態度が、この事件の裏に何かを感じさせている。
「本当に俺っちは、何も知らないんだ。これだけは信じてくれ!」
「ふむ。しかしそうなると。振り出しに戻ってしまいますなぁ……」
何だろうこの違和感? 嘘を言っているようには見えないのに。
筋もきちんと通っているのに。どこかおかしな気配を感じるような……。
「ユミホ。もう一度、考え直してみよう」
「ユウガ……。でも一体何を?」
「証言が本当なら、彼は罠に嵌められたんだ。だとしたら。僕らにも何か思い違いがあるかも」
思い違いか……。だとしたら、それが私の感じる違和感の正体なのかもしれない。
「グッチさん。念のため聞きますけど。密航したのは、貴方だけなんですか?」
「ああ。ドワーフは目立つから、大勢は隠れられないべ」
ドワーフは一人だけ。でもグッチは殺エルフに関わっていない。
その証言はどこか真実味がある。彼は何かに怯えている……。
「もしかして、グッチさん。貴方は船を沈めていないのでは?」
「い、今更何を言っているべ! 俺っちを告発したのは、おめえさんだろ!」
「そうなんですけど……。貴方の証言はどこか、不自然な気がして……」
ユウガの言う通り、彼が罠に嵌められただけなら。
私達はとんでもない、思い違いをしていたのかもしれない。
「では聞きます。貴方はどんな細工で、船を沈めたんですか?」
「え? ええっと……。それは……」
「答えられないようですね。何故なら貴方は、船に細工などしていないからです!」
そうだ。これこそが真犯人が仕掛けた、最大の罠だったんだ。
ドワーフが紛れ込んでいたら、当然疑いを向ける。
私達はまんまと、騙されたいた。
でも本当の狙いが、殺エルフなら。そこに隠された悪意が見えるはずだ。
つまりこの事件の真犯人は……。
「船に細工したのも。殺エルフをしたのも。元々船に乗っていた者だったんです!」
「な、なんですとぉ!?」
「犯人はグッチさんを船に呼び出し。ハリボテを乗せたゴムボートで逃げるように指示を出した」
こうすることで、現場に紛れたドワーフ族に疑いが向く。
グッチは当然、どこかに隠れていただろうから。
疑わしい者に目星はついている。
「ドワーフを目撃したという人物。その者がこの事件の真犯人です!」
わざとドワーフ居たと証言することで、疑いの眼をグッチに向けた。
密航がバレれば、グッチは当然囚われるだろう。
だが実際に彼は逃亡に成功している。
つまりその人物はドワーフを目撃しながら、報告していないのだ。
そもそも船で目撃すらしていないのだろう。
でも目撃していなくても、ドワーフが乗っていると分かる者がいる。それが犯人だ。
「魔界側は、新たな証人の召還を要求します!」
私が人差し指を指すと、ワンダさんが机を叩いた。
まるで苦虫を潰したかの様な表情で、私を見つめている。
何かに怯えているように、手を震えさせていた。
「これ以上の審理は、不要です」
「わ、ワンダさん?」
「今の証言で、魔界側の嫌疑は晴れました。この裁判は、魔界側へ訴える裁判です」
ワンダさんは俯きながら、審理の終了を訴えた。
一体どうしたというのだろうか?
彼女は昨日は一緒に真実を見つけてくれると言ったのに……。
「ふむ。確かに。この裁判の目的上、これ以上の審理は必要ありません」
「ちょ、ちょっと待って下さい! あと一歩で真犯人が……」
「それを探すのは弁護士の役目ではありません。騎士の役目です」
判事に冷たい口調で言われて、私は悟った。
彼もワンダさんも……。この事件に絡んでいたのだ。
最初からこういう結末になることを、想定して。
私達はただ犯人の思惑通り、動かされていただけ。
その真犯人は恐らく。人界の中に居る!
だからワンダさんは、これ以上審理を続ける事が出来ないのだ。
「審理はここまでです。これより、判決に移ります」
「待ってってば! ワンダさん! これで良いんですか!?」
私は彼女に訴えかける様に、叫んだ。
昨日の彼女が真実を探る姿勢を見せた。
その姿を疑いたくなかったのだ。
「あと一歩で、真犯人までたどり着けるんです! なのに……」
ワンダさんは私から、視線を逸らした。
「ごめんなさい……。でもダメなんです。あの人を訴えることは出来ないの……」
―――――――――――――――――――
「判決は魔界側の無罪で終わった。誰一人納得できない形で、裁判は終わったんだ」
移動中の馬車の中で僕は、ルナティックさんから過去の事件を聞いた。
過去に起きた、コン家没落事件の顛末を。
この裁判の後、ケー・コンさんが逮捕されたそうだ。
当然それに納得できた者は居ない。だから僕の両親はあの事件を必死で追った。
母さんが失踪したのは、あの事件を追うためだった。
「後から分かった事だが。あの時ワンダは、娘を人質に取られていたらしい」
「ルナティックさんは、その事を知らなかったんですか?」
「ああ。恥ずかしいことにな」
母さんが失踪した理由。それは僕の存在を悟られないためかもしれない。
僕が黒幕に危害を加えられない様、家族の存在を抹消したのかも。
母さんの想いを知っていたから。父さんは母さんの後を追わなかったのか……。
僕は初めて、両親が背負っていたものの事を知らされていた。
そしてこれから僕が、何と向き合うのかも理解した。
「十二年たった今、ようやく船を調べる手筈が整った」
「長く、険しく、苦しい道のりだったんですね」
「ああ。だから絶対に見つけてやるさ。真実って奴を」




