第4話 国際裁判中編~船内の事件~
私の主張に法廷中が、ざわついた。判事が木槌で落ち着くよう伝える。
私は確信している。船は未知の存在が近づくよりずっと前に、細工されていたのだ。
徐々にだけど一本の線が繋がってきたわね。
「被告側。ユミホ君。一体どういう事ですか?」
「証言では船内に戻ると、直ぐに船が揺れたとありました」
「ふむ。しかし貴方の言うとおり、遠くから見えた船が接触するのは不可能ですなぁ……」
魔法が使われていないのなら、加速することは不可能だ。
魔界の船に見せかけた何かが沈没の理由ではない。
だとしたら、何が理由で船は沈没したのか?
「被告側は。船内で破壊工作がされたと主張します!」
「な、なんと!? と言う事は、人界側に犯人が居ると主張するのですか!?」
「いいえ。船内では、未知のドワーフが目撃されています。そのドワーフこそが、犯人だと考えられます」
今まで集めた情報から、それは間違いない。
私はドワーフが犯人の可能性を、提示できる。
「ふむ……。しかし、目撃証言だけで、ドワーフの仕業とは……」
「証拠があります。この切れ端を見てください」
私は現場で発見した、ゴムボートの切れ端を見せた。
ケーさんは言った。これはドワーフが作ったものだと。
船の救助用などに装備されており、空気を抜けばカバンに仕舞えるらしい。
「内部で船を沈めた場合。当然犯人も、巻き込まれる形になります」
「うむ。何せ船内で破壊工作をしたわけですからな」
「そのために、犯人は。安全な逃走経路を用意する必要があります」
船から自分だけが、目撃されずに逃げる必要がある。
当然救助用のゴムボートを使う訳にはいかない。
だから自前で、逃走経路を確保したはずなのだ。
「その逃走経路が、自分で用意したゴムボートです」
「ゴムボートはドワーフの独擅場。他の種族が購入せず授かるのは不可だぜ」
ケーさんが口を挟んで、補足してくれた。
要するにドワーフ以外で、自前に用意することは不可能なのだ。
「更に犯人はゴムボートにハリボテを立てて、逃走をしました」
今まで共犯者が居て、魔界の仕業に見せかけると思っていた。
でもこう考えると、船の沈没の意味が全く変わってくる。
「つまりヘイホウ君が見た、魔界の船は。近づいたのではなく、逃走する犯人のゴムボートだったんです!」
犯人は魔界の船に見せかけるつもりもあったのだろう。
だがそれはついでで良かったのだ。あくまで自分の存在さえ、悟られなければ。
「霧の中でガーゴイルの影が見つかれば。当然魔界に疑いが向きますからね」
「そうやって、容疑をドワーフから外したのか。奴さん、中々のやり手だな」
「ここで重要なことがあります。犯人は容疑を外せれば、それで良かった」
多分人界と敵対するから、ただ選んだだけなのだろう。
今回の事件の動機は、魔界の仕業に見せかけるためじゃない。
最初から船を沈没させるために、引き起こされたのだ。
「しかし。何故犯人は、船を沈没させたのでしょうか?」
「船内で起きた、ある事件を考えれば。スムーズに分かります」
ヘイホウ君は直ぐに、報告できなかったと証言した。
その言葉の中に、謎を解くヒントがあるはずだ。
「船内では殺エルフ事件が起きていました。しかも政治家です」
「ああ。警備しておきながら、殺されちまった。俺らの意地にかけて、犯人を見つける必要があった」
「でも犯人は見つからなかった。何故か? それは船が沈没したからです!」
そう考えれば、全てが繋がるのだ。
やはり二つの事件は無関係ではなかった。
「犯人は殺エルフ事件を、隠蔽するために。船を沈没させたのです!」
この事件。最初から私達は思い違いをしていた。
魔界に罪を着せるため、誰かが悪意を持っていたと。
勿論その意図も多少はあったのだろうけど。本当の狙いは、殺エルフを誤魔化す事だった。
つまりこうして魔界と人界で裁判をしていること自体、真犯人の茶番なのだ。
私はワンダさん達を信じて、発現を決意する。
「被告側は、現場で発見されたドワーフの召還を要求します!」
「し、しかし……。そんなドワーフが本当に居るかどうか……」
「判事。問題はありません。そのドワーフなら、既に確保しています」
やはりワンダさん達は、目撃証言からドワーフにたどり着いてた。
真犯人は間違いなく、そのドワーフだ。
後は追い詰めるだけ。私達の作戦通りことが運んでいた。
「呼び出しの準備は整っています」
「むぅ……。こうなれば、仕方ありませんなぁ。証人を呼んでいただきましょう」
ワンダさんに合図を出されて、とあるドワーフが連れてこられた。
褐色肌に筋肉がどっしりとした、ガタイの良いドワーフだ。
手にはハンマーが握られており、職人の様に鉢巻を巻いている。
「証人。名前と職業を」
「俺っち。グッチと言います。ドワーフで、商人さやっとるべ」
随分と訛りの強い喋り方の、グッチ。
そのおおらかな様子に、本当に犯人か疑わしくなる。
でも騙されてはいけない。現状最も怪しいのは彼なのだから。
「何故に俺っち、ここに呼ばれただ?」
「話は聞いているはずですよ? 貴方はあちらの弁護士に、告発を受けています。弁明を」
「おっかないべ。俺っち、確かに勝手に船に乗り込んだが、それ以外は何もしていないべ」
疑われているというに、グッチは妙に落ち着いている。
この状況も、彼にとっては想定内と言う事なのか?
非常に嫌な予感がするが、私は審理を続ける。
「弁明があるなら、証言でお願いします」
「仕方ないべ。反論させていただきやす」
真犯人との直接対決が始まる。彼の弁明を打ち崩せなければ、意味がない。
私は隣のユウガを見つめた。彼も黙って頷く。
ここが正念場。気合を入れていきましょう!
「俺っち、別に怪しい目的の為に乗り込んだ訳じゃないべ」
「怪しくない目的なら、船に密航する必要はありませんよ?」
「そうだけど。それは内密な取引があったからだべ」
内密な取引って……。十分怪しいじゃないの!
「船が沈んで、俺っちは一人で逃げ出したがや」
「やはり貴方はゴムボートを、持ち運んでいたのですね?」
「ああ。でも流石に俺っちに、船を沈めて目撃されるのは不可能だべ」
「どうして不可能と言い切れるのですか?」
私は質問を重ねて、相手のボロが出るのを待つ。
「ゴムボートには、帆がついていないのさ。だから船に細工して、遠くまで行くのは無理だべ」
「うむ。ゴムボートはオールで漕ぐしか、動かせません。当時波も高かったでしょうから……」
「時間的に目撃されるのは、無理があるんだべ」
確かに船に細工をしたのなら。直ぐに逃げないといけない。
そこから影になるほど遠くに行くのは、オールで漕ぐには不可能だ。
だったら他の方法で、移動すれば良い。
「グッチさん。もしかして、これに見覚えがあるのでは?」
私は海岸で見つけた、ラッパ状の金属を見せた。
「なっ! そ、それはなんだべ? み、見覚えがないなぁ……」
グッチは明らかに動揺している。ここが攻め処だ。
「全部で五本あるのですが。この金属こそが、犯人の移動手段です」
「うぎぃ! ど、どういう事だべ?」
「コイツには、空気の魔法と熱魔法が使われた形跡があります」
残留魔力は使用された場所に残る。
金属の口から手を入れて、手から魔法を使用すれば。
残留魔力は金属の方に残るのだ。
「貴方は初めに、金属内部に空気を入れた」
ラッパ状の口以外に、出口はない。
ここから空気を入れれば、内部に閉じ込める事が可能だ。
「そして炎の魔法で、内部に火を作り。空気を暖めたのです!」
「っ!? だ、だからなんだべ! それで船が動くのか!?」
「暖められた空気は膨張します。この金属、口以外やや細いですよね?」
楽器のラッパと同じような形をしているのだ。
だから口が広がる様に、棒状になっている。
「四方に膨張された空気は、壁に跳ね返ります。そして全ての空気が、口元から一気に噴射されます」
本来膨張した空気は、四方に広がっていくのだけど。
内部が狭いと壁に当たって、跳ね返る。
その結果壁のない方に、空気の逃げ道が限定される。
「急激に温められた空気の噴射を利用して、貴方はゴムボートで移動したのです!」




