第3話 国際裁判前編~事件の概要~
真相パートは一気投稿の予定でしたが、今のペースだと半月くらいかかりそうなので。
一話ずつ投稿に戻します。
エルフの国裁判所。今日ここで、私達は国際裁判を行う。
と言っても、裁判は形式的なものだ。
人界側も真実を有耶無耶にするよう、指示されている。
全ては魔界と人界の和平のために。関係を拗れさせないため。
でも真実は魔界側のせいじゃない。裏で何者かが手を引いている。
今日、私達は種族を超えて、その黒幕を法廷に引っ張り出す。
「なんか、思ったより大事になったね……」
ユウガが珍しく緊張している。公の場に出る事に、慣れているはずだが。
無理もない。ここで私達が失敗したら。
国際情勢的に、どうなるか分からない。
私は弁護士の証を握りしめながら、深呼吸をした。
大丈夫だ。自分にそう言い聞かせて。
「弁護人。開廷の時間だ。入りなさい」
「は、はい!」
私は係官に言われて、法廷の中に入る。
正直な話。まだ分かっていないことは多い。
誰が船を沈めたのか? 沈没事件と魔界の偽装は同一犯によるものなのか?
それを明らかにするためにも、まずは法廷で話を進める必要がある。
絶対に真実を見つけ出して見せる。
私は深呼吸しながら、魔界側の弁護席に立った。
反対側の人界側弁護席にはワンダさんとルナティックさんが居る。
今回の敵は彼らではない。真犯人だ。
でもまずは、私達の共闘が悟られない様に。敵対を表さないと。
「それではこれより。人界船沈没事件の裁判を開廷します」
判事が木槌を叩いた。今回の判事は、ドワーフの一族だ。
公平性を出すため、事件に関与しない第三者が必要だった。
そのためエルフでも人間でもない。ドワーフが選ばれたのだ。
「原告側、被告側。双方の主張の準備は整っているか?」
「原告側、立証の準備は万端です」
「被告側。同じく十分な材料が揃っています」
お決まりの台詞を吐いた後。裁判が進行していく。
訴えられた側の裁判は初めてではない。
セオリーとしては、まずは原告側の主張を聞く。
「ご存じの通り。人界の商業船が何者かによって、沈められた」
「ふむ。海図を見る限り。事故が起きた可能性は引くそうですな」
「その通り。人界側は魔界側の妨害工作だと、主張する」
和平は秘密裏に行われている。
人界の民を納得させるには、そう主張せざる負えない。
だからまずは。公の場で魔界の関与を否定する。
「しかし現場はエルフの国。どうして魔界側を疑うのでしょうか?」
「簡単な事です。船が沈む前。接近する魔界の船が目撃されたのです」
たった一人だけの目撃者。この証言さえ崩せば、魔界の無実は証明される。
問題はその先にある。誰が彼に目撃させたのか?
「人界守護隊としては、目撃者の証言を尊重。魔界側の仕業だと、主張致します」
「しかし、目撃証言だけでは……」
「船が沈没した以上、これ以上ない手がかりです」
今回の問題となるのは、沈んだ船を調べる方法がないという事だ。
「よって人界側はまず、目撃者を証人として召還致します」
「ふむ。魔界側。異議はありませんか?」
「ありません。証人の召還をお願いします」
私は異議を申し立てない。ここまでは、手筈通り。
後は証人が納得する主張を、出来るかにかかっている。
「それでは証人。入廷をどうぞ」
ワンダさんの掛け声と共に、証人が法廷に入る。
鉢巻と青いエプロンを巻いた少年が出てきた。
耳も尖がっており、青い瞳で私達に恐怖の表情を向けている。
「え? 子供……? それに……」
「エルフだね」
私とユウガは呆気にとられた。てっきり人間の証人が出てくると思っていたが。
何故かエルフの少年が、証言台に立つ。
そしてその隣には。あのケーさんの姿が。
「証人。名前と職業を」
「僕はヘイホウ・コン。一応、コン家で統治について学んでいるよ」
「沈んだ船は、人界とエルフの商売船でした。当然、エルフ族も乗っていましたよ」
ワンダさん。先に伝えておいて欲しかったのだけど……。
でも相手がエルフ族なら、難易度はやや下がる。
人間は魔物に対して、歴史的憎悪を持っているけど。エルフはそうではない。
「証人。ヘイホウさん。貴方は魔界側の船団を見た。間違いありませんね?」
「船団ってほどじゃないなぁ。だって一隻だったもん」
「ならば、その時の事を詳しく教えていただけるでしょうか?」
敬語は使えていないが、少年はやや大人びている。
どこか苦労を感じさせるような。そんな印象を受けた。
「僕はお父さんの手伝いのために、外の警備をしていたんだ」
お父さん。コン家って事は。ケー・コンさんの息子ってことね。
なるほど。ケーさんは、現場となった船の警護もしていたのか。
「みんなが船の中に戻った後、念のためもう一度周囲を見回していたんだ」
「その時に、魔界の船を目撃した。そうですね?」
「うん。霧が濃くて、良く見えなかったけど……。魔界の船だとは分かったよ」
ここよ。私は目線で、ユウガに合図を出した。
「ヘイホウ君。少し良いかしら?」
「うん。なに?」
「霧が濃かったのに、どうして魔界の船だと分かったの?」
「影だよ。大きな翼を広げた、ガーゴイルの影があったんだ」
思った通りだ。どうやら、彼は勘違いをさせられたようね。
「ヘイホウ君。実は現場近くの海岸に。こんなものが落ちていたの」
ユウガが昨日完成させた、ハリボテを見せた。
それは翼を広げてた、ガーゴイルの姿をしている。
「貴方が見たガーゴイルは。このハリボテと同じ姿じゃなかった?」
「え? う~ん……。言われてみれば。翼も動かさなかったなぁ……」
「つまり。君が見たのは。このハリボテを乗せた船だったんだよ」
私はきつい口調にならない程度に、ヘイホウ君に伝えた。
「魔界側は。何者かが魔界の仕業に見せかけたと主張します!」
「ふむ……。確かに影だけでは……」
判事はチラリと、ワンダさんを見つめた。
ワンダさんはこの状況でも、クールな表情を崩さない。
「人界側の主張は変わりません。確かにハリボテの船の可能性はありますが……」
ワンダさん。審理を続けるために、わざと魔界に疑いを向けてくれているのね。
「魔界側がそう思わせるため、偽装工作をした可能性もあります」
「ふ~む。確かにハリボテだからと言って、魔界の関与がない証拠にはなりませんね……」
「それより問題は、証言の続きです」
証言の続き? ヘイホウ君は、まだ何かを目撃したのかしら?
「魔界の船を見たと思った後。貴方は何をしました?」
「勿論、大人に報告へ向かったよ。上手く出来なかったけど……」
「出来なかった? それは何故です?」
「僕が船の中に入った直後。船が揺れたんだ。そのまま浸水して、沈みだしたんだ」
これは新しい証言ね。魔界の船が近づくのが見えた。
その直後船が揺れて、沈没を始めたから。
ヘイホウ君は、魔界の側の船が沈めたと思い込んだのね。
「それに船内では、殺エルフが起きて。誰も僕に構ってくれなかったし」
エルフの政治家が殺されたんだったわね。
まだ沈没事件との関連は、分からないけど……。
どうにも無関係だとは思えないんだよなぁ。
ん? 待って。ヘイホウ君が船内に戻った直後に、船が揺れた?
これってもしかして……!
「ヘイホウ君。貴方は魔界の船が、体当たりしてきたのだと、思い込んだのよね?」
「うん。だって、人界と魔界は戦争中だから」
「でも、貴方は遠くで魔界の船を見たはずよ。そんな直ぐに、体当たりできるかしら?」
「あ! 言われてみれば……。あそこには残留魔力もなかったし……」
現場となった海上では、残留魔力が存在しなかった。
魔法を使って、加速させたなどもあり得ない。
だったら、答えは一つだけだ。
「船は体当たりではなく、船内の細工で沈められた。魔界側はそう主張します」
私は断言するように、宣言した。
法廷がざわつき始める。判事が木槌で、静粛を訴えた。
「ヘイホウ君。船の揺れは何かが衝突した衝撃じゃなくて。船が沈む前の前兆だったのよ」




