プロローグ 両親
「今! 奇跡の瞬間が起きようとしています!」
魔界と人界から離れて場所。エルフとドワーフの国境。
大陸の外界である、海と呼ばれる場所に、一隻の船が動き出す。
船上には人族、魔物、エルフ、ドワーフ。
この大陸に存在する全ての種族が、乗っていた。
それを周囲は奇跡の瞬間として、出航を見物している。
船内の窓からルナティックは、フッと笑いながら見物人を見つめていた。
「奇跡か……。間違っちゃいねえよ」
古い手帳を閉じて、ルナティックは思い出す。
馬車の中でユウキ達に話した過去の事を。
「待たしちまったな。十二年も……」
出航された船から、海を見つめるルナティック。
真実への鍵は、海底に存在していた。
「ユウガ、ユミホ、ワンダ、ケー。やっと終わるぞ……」
―――――――――――――――――――
~十二年前~
「魔王様の言い伝えで来た。ユウガと言う者です」
「魔界側の弁護士、ユミホと言う者です」
私、『ユミホ』は夫である『ユウガ』と共に。
エルフとドワーフの国境にたどり着いた。
とある事件の捜査をするため。魔界から足を運んできたのだ。
「通行許可まで、時間がかかるから。今のうちに事件を振り返っておこうか」
「そうね。まだ状況はあやふやだけど……」
事件は国境付近にある、海上で引き起った。
エルフの国へ向かう途中の人界の商船が、突如沈没したのだ。
救助されたものによると。商船に魔界の船が近づいていたという。
人界側は魔界の魔物達に襲撃されたと主張した。
だが魔界の航海記録に、エルフの国へ向かう船など存在しない。
そのため魔界側は無実を主張。両者の言い分は平行線となった。
戦時中と言う事もあり、緊迫感が迫る中。
ドワーフとエルフの提案で、私達は国際裁判で争う事となった。
それぞれの弁護士が裁判で争い、主張を届けるのだと。
「ふぅ。国際裁判は初めてだから、ちょっと緊張するわ」
「よりによって、この一大事だからね。気持ちは分かるよ」
ユウガは苦笑しながら、私を励ましてくれた。
彼は悪魔族として、迫力はないが魔王の側近だけの力を秘めている。
魔法の才能はからっきしだが、腕っぷしは強い。
その上悪魔特有の目の良さもあり、鋭さもある。
赤い眼で常に、周囲を観察しているのだ。
「人界と魔界は和平交渉中だから。敗訴は許されないわね……」
「ここで人界側の主張が通れば。和平など夢のまた夢だろうね」
現代の魔王様が就任して、二年。穏健派の彼は、人界との争いを終結させるため。
人界の皇帝と和平の交渉を、水面下で重ねてきた。
勿論双方の国民には、明かせていない。
歴史的禍根が多い種族なため、納得には時間がかかるだろう。
和平には時間が必要なのだ。お互いの事を理解する時間が。
だからこそ、ここで人界側の怒りを爆発させるわけにはいかない。
「大丈夫。僕も出来るだけ協力するよ」
「あら? 貴方の力があれば、裁判前に真相を明かせるはずよ」
「どうかな? 今までも偶々解けただけだし……」
う~ん、偶々で一カ月に二十五件も事件を解決しないと思うけど。
この頼りなさが、息子にも遺伝しちゃったので。
もう少し父親としてしっかりして欲しいものだ。
「ユウガ、ユミホ。許可が下りた」
エルフの騎士が道を開けてくれた。
この先が現場近くの、海岸に繋がっている。
現場は海のど真ん中なうえ、沈没しているのだ。
この状況でどんな捜査をして、魔界側の潔白を証明すれば良いのやら……。
証拠は全て、海の底だろうし。
「取り合えず、証言を崩す所から始めようか」
私の表情から察したのか、ユウガが声をかける。
「今の所"魔界側の船が、近づいた"と言う証言が、争点になっているよ」
「そうね……。でも魔界側に出航記録はないわけだし……」
「可能性は二つ。"証人が嘘をついている"か、"船に偽装が行われている"かだよ」
頼りない先ほどとは裏腹に、ユウガは冷静に物事を捉えていた。
なるほど。嘘をついているなら、言葉に矛盾があるはずだし。
偽装されていたなら、その証拠がどこかに残っているわね。
どっちにしろ。まずは付近を調べてみないと分からないわ。
私達は国境沿いにある、海岸へと向かった。
「まあ、当たり前だけど……」
人界最高位の騎士、聖騎士達とエルフの騎士がそこら中にいる。
魔界側からは私達しか派遣されていないので。
なんだか場違い間があって、居心地が悪い。
「まずはこの場を指揮している、エルフ族から話を聞き出そうか」
「そ、そうね……」
ユウガは私と違って、冷静だ。
この場で人界人が協力してくれるとは思えないので。
エルフの騎士に聞くのが最適解だろう。
私は捜査しているエルフ族を、片っ端から見て回った。
その中でひときわ目立つ、帽子を被ったエルフ族が居た。
青いスカーフをマントの様に付けて入りる、赤い短髪のエルフだ。
「あの~。すいません。お話宜しでしょうか?」
「血なまぐさい……。死者の香りがするぜ……」
男性エルフは、帽子に手を添えながら、意味不明な一言を呟いた。
やっぱり別のエルフに声をかけようと思った矢先。
「待ちな。死者の記憶を辿るには。俺に話を聞くのが、手っ取り早いぜ」
「……。意味が分かりません……」
「俺はケー・コン。この場を仕切る、ボス猿と言ったところか」
つまりこの事件の担当をしている、騎士ってことね。
なんでこう、言い回しが回りくどいのだろうか?
「王の勅命で、集いし者。これぞデスティニーってことか」
「人界側の弁護士も、来ているんですね?」
なんでユウガには分かるの!?
「ああ。罪あるものを示す、エンブレムを探しにな」
私、このエルフと上手く話せる気が、全くないや。
「ええっと……。捜査状況はどんな感じですか?」
「さしずめ、スタートライン。悲劇の立会人の声のみが頼りだ」
「進展がなくて、証言のみの状態らしいね」
ユウガが居てくれて、本当に良かったわ。
私だけだと、解読で一日使う所だった。
「だが悲運の記録者は、一名のみ。他の者は、誰一人として魔界の船を見ていない」
「目撃者は一人?」
「それ以外の皆は、造られ士クジラの胃袋。目撃しようがないさ」
だったらやっぱり、目撃証言が嘘なのだろうか?
でもだったら、何故嘘をつく必要がるのかしら?
「騎士団の見解を教えてもらっても良いですか?」
「クジラは内臓が破裂して、闇に消えた。それが現時点での見解だ」
「……。あの……。意味が分かりません……」
先ほどの発言も加味すると、クジラは船の事よね?
内臓が破裂したってことは……。
「船内に居たものが、船を破損して、沈没させたってことですか?」
「この場の誰もが、魔物の襲撃なんか、信じちゃいないさ」
先ほどケーさんは、捜査は始まったばかりと口にしていた。
なのにどうして、魔界側の関与はなと分かるのだろうか?
「見つかったのは、水死体だけじゃない。血の匂いのする、エルフも死体で発見されたのさ」
「それは初めて聞きました」
「まだ発表していないからな」
先ほど死体はエルフと、ケーさんは口にしたわね。
でも沈没したのは、人界側の船だったはずよ。
「遺体の身元は判明しているんですか? 船に乗船した居たかも」
「血の持ち主は、エルフの政治家さ。商売のために、船に乗り込んでいたのは間違いない」
「だったら、犯人は船の中に居たので、決まりでは?」
船の中に居ないと、被害者を殺すことは出来ない。
魔物が船に乗り込んだというなら、争いがあったはず。
騒動があれば、エルフの警備隊が目撃するはずだけど。
「まだ殺エルフと、船の沈没の関係性が不明なんだよ」
「うっ! そう主張されれば、言い返す言葉もありませんが……」
「しっかりしろよ。アンタ、魔界側の代表弁護士なんだろ?」
確かにその通りなんだけど、自信を無くしてきた。
それにしても、そこまで分かっているなら。
何故人界側は、魔物の仕業だと主張しているのだろうか?
「あちらの真意を探りたきゃ、直接問いただしな」
「私達は戦時中ですし。素直に話を聞いてくれるとは思いませんが……」
「言ったろ? "この場の誰もが襲撃なんて、信じちゃいない"ってな」
それはエルフだけじゃなく。人界の騎士団も含めてのことだったのね。
どうやら人界側の意図を知る必要がありそうだ。




