第11話 推理議論クライマックス~事件の全貌~
「それじゃあ、事件をおさらいしておくよ」
僕は事件の流れを振り返り、全貌を説明する。
「事の発端はマホさんに、殺害予告が来た事なんだ」
死神の仕掛けは、ずっと前から始まっていた。
日付を指定して、殺害の予告を出した。
殺し屋として、余りにも不自然な行為だ。
「マホさんはこの時。死神の暗殺を利用して、返り討ちにする方法を思いついた」
動機は『コン家没落事件』なのだろう。
その事件に死神が関わっているか分からないが。
マホさんはそこの主に、恩義があった。
「あらかじめ隠し通路に、ロープを隠しておき、振り子で移動する準備を施した」
五階に見張りが居たら、アウトなトリックだからね。
マホさんは三階に通路を用意する必要があった。
塔の間には風あるから、エルフの羽根では飛べないのも理由だろう。
「ルナティックさんの部屋に落とすために、死神が屋上に来るのを待った」
ルナティックさんが不在なのは、魔界側の塔に居たら分かる。
何せ彼は奇怪な歌を奏でながら、魔王様を探していたからね。
「予定通り、死神のツカサが現れて、自分を襲ってきた」
この時二人は、人界側の屋上に居たはずだ。
隠し通路を通っただけなら、五階の騎士に目撃されない。
「マホさんはツカサを煙突に、突き飛ばし。凶器を煙突から投げ捨てた」
この時、マホさんはツカサが暖炉で気絶していると考えていたはずだ。
実際は違ったのだけど、この説明は後回しだ。
「その後、風魔法を使ってロープを三階まで垂らした」
この時、魔王様が不在なのをマホさんは確認しているはずだ。
たぶん彼女の事だから、魔王様を呼び出す事を考えていたんだろうけど。
今回はその必要がなかった。
「ロープを自分に括り付け、現場へと向かった」
犯人は人界側の塔で、事件が起きたと強調したかったはず。
だから魔王様の部屋で、何もしていない。
「マホさんは驚いたはずだよ。死んでいるはずのツカサの姿はなく。ホソさんが血を流していたのだから」
この時既に、魔王様には血が付着していたはずだ。
マホさんは、魔王様に罪を着せる動機がないからね。
「マホさんは現場を別に見せる、事後工作をして。再び振り子で塔を渡った」
魔王様をベッドに寝かしつけたのも。彼が疑われないようにするためだろう。
被害者と距離が離れている。反撃を受けたのは、不自然だと主張するために。
「魔王様の部屋に戻った、マホさんは。熱魔法でロープを燃やした」
この時ロープが完全に燃え切れず。
隠し通路の窓に残ったんだ。でもマホさんはそれに気づけなかった。
何故なら彼女はその後、三階でアリバイを作る必要があったからだ。
「犯人が仕掛けたトリックはこれで終わりだけど。この事件はもう一つの悪意があった」
それが事件を複雑にしていたのだろう。
「少し時間が遡り。魔王様は自分の意思で、現場に訪れたんだ」
現場が十年前の事件と、同じだったという事。
魔王様が父を信用してくれたこと。父さんが残した物からいて。
彼の行動動機は、推測できる……。
「でも現場には、魔王様の行動を先読みして。潜む者が居た」
殺し屋と言うくらいだ。身体能力は高いだろう。
どっちのしろ、聖騎士団の隊長なのだけど。
「魔王様は第三者。ツカサに襲われて、気絶した」
睡眠薬を飲まされたのだろう。魔界には粒上のものしかないが。
人界には粉ものもあると、聞いたことがある。
「意識を失った魔王様を、暖炉に持っていき。ツカサはマホさんの下へ向かった」
ツカサはマホさんの行動すらも、先読みしていたはずだ。
彼女を操るために、わざと殺害予告を出したのだから。
「さっき説明した通り、ツカサは煙突から落とされた。でもそれは演技だ」
ツカサは自らの意思で、煙突に落ちたはずだ。
突き落とされたなら、煙突の埃は綺麗になっているはずだからね。
「自分から飛び降りたツカサは、暖炉で着地して部屋から去った」
この時殺害を確認しなかった理由は。凶器が落ちる音を警戒してだろう。
部屋に留まっていると、疑われかねないからね。
「ツカサは致命的な証拠を隠すため。魔王様をマホさんに殺させるよう仕組んだ」
この時マホさんが、凶器を落とすまで時間があったはずだ。
魔法を唱えたり、凶器を取り出したり。僅かな時間が必要だからね。
「でもツカサの計画は失敗に終わった。その部屋に潜んでいた、ホソさんによってね」
ホソさんが自分から煙突を、下りたなら。
マホさん屋上に来るより、前のはずだ。
その真意は分からないけど、彼は魔王様が殺されると悟ったんだろう。
「ホソさんは魔王様を移動させて。自らの頭に凶器をぶつけたんだ」
彼は事件を作り出したかったのかもしれない。
死体が発見されれば、警戒が高まり。ツカサは身動きがとれない。
魔王様を守るために……。彼は命を懸けたのかもしれない。僕の都合の良い解釈だけど。
「ホソさんの行動で。ツカサは十年前の証拠を消しそびれたんだ……」
僕は最後に、力強くツカサの事を指した。
「そうだよね? この事件の首謀者。双子塔事件の犯人。ツカサ・オレット!」
僕に指を突きつけられたツカサは。周囲を見渡している。
落ち着きをなくし、顔に汗を流す。
彼はまるで、『何かを探している』様に、首を振る。
「どこだ……? 居るのは分かっているぞ……? まだだ……。まだ終わりじゃない!」
ツカサは剣を引き抜いて、馬車へ駆け出した。
「殺してでも……。殺してでも証拠を消してやる!」
剣を構えたツカサの前に。同じく抜刀したアリス様が立ち塞がる。
ツカサの剣を防御して、彼を弾き返す。
「愚か者が。騎士なら潔く、負けを認めなさい!」
アリス様はその場で素振りをした。はずなんだけど。
まるで斬られたかのように、ツカサは宙に投げ出された。
「ぎゃああああ!」
ツカサは地面に倒れる。すかさずアリス様が、腕を踏み。
彼の事を拘束した。剣も奪われ、もう抵抗する術はないだろう。
「アハハ……! 全部……。全部終わりだぁ!」
ツカサは狂ったように笑いながら、満月を見上げた。
「絶対にバレる訳にはいかなかった……。あの証拠だけは……!」
「ツカサ。一つ聞きたい事がある」
狂乱状態のツカサに、ルナティックさんが近寄った。
「死神は元々。自分の手で、殺すことを美学としていたはずだ」
「え?」
僕の考えてと、違う言葉が出た。
死神は自分の痕跡を残さないために、他者を利用していたはずだ。
「それが変わったのは。十二年くらい前だったよな?」
「じゅ、十二年前だって……!?」
コン家没落事件と、同じ年だ……!
「バレたんだよ。僕が死神だって。アイツに……」
「アイツ? アイツって誰だ?」
「コン家没落事件の首謀者だよ……。あの時から、"僕ら"はアイツに逆らえないんだ!」
ツカサは声が変わっていた。これは震え。
恐怖心から出る言葉だ。
「名前も顔も知らない。でもアイツは、僕の名前も正体も知っている……」
「バレたってことは……。まさか! 証拠を見つけられたのか!?」
「そうだ。でもアイツは……。僕を突き出さなかった。代わりに僕を操り人形にしたんだよ」
な、なんだよこれ……? ツカサを倒して、十年前の事件を解決したはずなのに……。
僕の父を殺した奴を追い詰めたはずなのに……。
これだけ狡猾な死神も、首謀者にとって駒に過ぎなかったのか!?
「お前のずる賢さなら。アイツとやらを見つけて、逆転することも可能じゃないのか?」
「探したさ! あらゆる権力者を! 聖騎士団を! 捜査権があるのは、騎士だけだからな!」
ツカサが必死に探して、十二年間正体を掴めていないのか。
その首謀者って、一体何者なんだ?
「殺し屋は弱みを見せられねぇ……。見せたら一生利用される……」
「自分は沢山殺しておいて、良いご身分なセリフだな」
僕はツカサに一言、突き飛ばした。
この男は僕の父を奪った。でも恨みがあると言えば、そうじゃない。
父の事を知らない僕が、恨みようがないから。
「アスハさんは。自分の父は、チイさんの依頼で殺されたって言っていたけど?」
「知らないよ。なんで彼女がそう思ったのかまでは」
「え? でも彼女を動かしたのは、死神なんだ……」
僕はそこまで言いかけて、気が付いた。
彼女がツカサの言葉を信じる訳がない。
彼の事を憎んでいたアスハさんが、師匠への思いを潰してまで。
「僕に届いたのは。アスハがチイを殺すという事と。そいつも死神を名乗っているという事だけだ」
「死神は二人居る……」
「僕に死神の名前で、送ってきたんだ。だから僕の正体は知っているんだろうね」
それが首謀者なのか? でもおかしくないか?
コン家没落で不幸になった、アスハさんが。
その事件を操った首謀者の言う事を聞くなんて。
「もう僕は終わりだ……。煮るなり焼くなり好きにしな」
「綺麗に終わらせようとするな!」
僕はらしくない啖呵を、ツカサに切った。
父を殺した恨みはないけど。コイツが居なければホソさんが死ぬこともなかった。
それだけじゃない! マホさんだって、罪を犯さずに済んだんだ!
「お前は一生……。牢獄の中で犯した罪と向き合え!」




